(なんだろうこの人......なんていうか怖い......なにを考えてるかわからない......)
ワナビーはたまらずマインドスキャンを使っていた。ゼクスの嬉しさに動かされて満足らしく笑みを漏らすその姿がわからなくて怖くてたまらないのだ。
マインドスキャンでみた光景は、今見ているゼクスとなんらかわらないものだった。心がほのかに温まり微笑が口角に浮かんでいる。血色のいい両頬に浮かんでいる豊かな感情だ。
ゼクスの好意にみちた眼差しにおもわずほほえみ返しそうになる。だが彼女の視線が自分のデュエルディスクにあるHALと一体化しているはずのデッキに向けられていたことに気付いて、行き場のなくなった微笑がそのまま頬に凍りついてしまう。
(本気だ......本気でこの人は喜んでいるんだ......僕が星杯を使ったことを......)
ゼクスは人差し指で銀色のめがねのフレームに触れながら、うつむき加減にそっと微笑む。左手の透き間から、柔らかい息がほのかにもれてくる。それは確かに微笑みでありながら、伏せられたまつげのために、切ないため息のようにも思える。
間違いなく微笑みでありながら、彼の印象的な眼差しのせいで、桜の花びらのようにもろく繊細な表情に見えた。
全ては自分が認められない鬱憤の発露であり、自分がフェッチ事件の犠牲者だったというのに才能を自分が認められなかったためにまたグレイ・コードに戻ってきてしまったのだ、彼女は。
(ダメだ......この人はダメだ......話をしてどうにかできる人じゃない......その範囲を超えている......!)
ゼクスの微笑みには実はなんの深みもないことをワナビーは今知った。機械的に見せるスマイル、習慣の一つ、ただ笑顔を形づくっているだけの微笑み。でもその微笑みの濃度の薄さを、今初めてこわいと思った。
(デュエルしてもきっと分かり合えない人だ......そういう人なんだ......ゼクスは......。スペクターくんならもしかしたら何か通じるものがあるかもしれないけど......ボクは、ボクには、無理だ)
ごくりとワナビーは唾を飲んだ。
「ボク、今からHALの所に帰らなくっちゃいけないんだ、ゼクスさん。どうしたらいいか知ってる?」
「そうね、話せてよかったわ。これがパスコードよ。受け取ってちょうだい」
念のためにスキャンをかけるが異常は感知できない。ワナビーはそのままこのエリアをあとにした。