ゴーストvsゴースト

ごうごうと鳴り響く溪の音ばかりが耳について、おきまりの恐怖が変に和波を落着かせない。奇妙なノイズばかりがきこえる。和波はその声のもとを知っていた。それはかつて幻聴が聞こえるほど耳にこびりついていた音で、絶えずほとばしり出ているのである。また和波を構成しているプログラムそのものを書き換えられるという想像から来るところもわかっていた。

不可抗的に実体をまとい出す。その実体がまた変に幽霊のような性質のものに思えて来る。いよいよそうなって来ると和波はのぞいて見てそれを確めないではいられなくなる。

和波はどうしようもない闇の中にいた。

摺すり足でもして進むほかはないだろう。しかしそれは苦渋や不安や恐怖の感情で一ぱいになった一歩だ。
歩くにしたがって暗さが増してゆく。不安が高まって来る。無事に帰れますようにと、無駄だとはわかっていながら和波は何かに祈らずにはいられなかった。

「どこだろう、ここ。またデータ端末の中に閉じ込められちゃったのかなあ?」

声は響かずその場にとけていく。それなりに広い空間のようだった。目が慣れてくると部屋だとわかる。薄暗い部屋で時計の針だけが緑色に光っている黒い置物は暗闇の中で逆に白く、どろりとした光を放つ。幽霊屋敷レベルの暗さだ。真っ暗な内から、白い椅子やテーブルがぼうっと浮かび上がる。高い天井の真ん中に小さな明かり取りの窓のようなものが幾つか見えた。しかし月はまだ高く上がっていなかったので、明かりと呼べそうなものはそこから入ってこなかった。

仄かな街灯の明かりが屈折に屈折を重ねた末にほんの少しだけその天窓から忍びこんでいたが、殆ど何の助けにもならなかった。やがて何かの加減で、部屋にさしこむ光がほんの少しだけ明るさを増した。月が上がってきたのだろうか?あるいは街の光が明るく灯り始めたのだろうか?

灰色の輪郭から想像すると、ソファや椅子やテーブルだろうとかろうじてわかる。部屋の中は真っ暗だった。窓の重厚なカーテンが引かれ、室内の明かりはすべて消されている。カーテンの隙間から僅かに光の筋が漏れていたが、それもかえって暗闇を際だたせる役目しか果たしていなかった。

部屋は暗かったが、扉の下の隙間から青白い光が薄く射し込んでいて、廊下は電気が点いているとわかる。

その扉に手をかけると、あっさり空いてしまう。そこには巨大なモニターや機械が動いている部屋があった。

「HAL!」

思わず和波は叫ぶ。そこには新旧ゴーストが対峙していた。
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