(和波誠也という子は、とても不思議な子だわ)
アクアは思った。和波誠也は葵に紹介されて観察した限り、流れるように嘘をつくタイプのようだ。よほど外面がいいのか、葵たちは仲間だと信じて疑わないようだが、アクアは不安を拭うことができないでいる。本当のことよりもうそ、でまかせ、を口にした回数のほうが多い。こみいったうそがつけるタイプだ。なぜそんなことに頭を回すのかわからない。正直な方が精神的な負担は少なくて済むのに。
アクアが見た限り、和波は隠蔽の上に胡坐をかいて、何事もなかったように暮らし、隠すという行為の持つ避けがたい後ろめたさがないタイプではない。普通は嘘は雪だるま式に膨らんでいき、嘘が嘘を呼んで、嘘と嘘との間の関係性がますますややこしいものになり、たぶん最終的には誰の手にも負えないものになってしまうが、それをうまい具合に転がしてしまう人間なのだ。葵たちは警戒心が足りないのか、知恵や経験が不足しているのか、面白いくらいに、上手くいっているように見えた。
汗をかく。顔を歪める。必要以上に笑う。鼻に手をやる。眉をこする。鼻が膨らむ。さらには前置きで、「嘘じゃないよ」と宣言することさえある。様々な方法を用いて、人は自分の嘘を知らせてくれる。だが、それがなく、当然のように嘘が交じる。嘘を交じえなければ呼吸できないんじゃないかと疑わしくなるほどだ。
線香花火に似ている。とてもきれいで、繊細で、ずっとずっと見ていたいのに、ふるふると震えて今にも消えてしまいそうな危うさを、いつも抱いている。 それは、心の中にあるものすべて隠し続けているからだ。相手に伝えることをはなから放棄して、相手の都合がいいように取り繕い、肝心なところをなにひとつ伝えない。
言えば言うほど何かがずれていくのを感じながら、話し続ける。わかってもらいたいという欲望はなくて、フィクションを語っていた。うそではなくても本音ではないことだった。HALに言わせれば、人に隠しているわけじゃなくて、うまく話せるかどうか自信がないから話さないだけのこと、と屁理屈を捏ねる。アクアは気づくのだ。和波誠也がこういう子になったのは、HALのせいだと。
(でも、たった5年でしょう?一体なにをすればこんな子になるのかしら)
アクアはわからなかった。初めて見た人間だった。
「アクア」
「なにかしら、HAL」
HALはアクアを睨む。
「余計なことすんなよ」
「どうして?」
「必要ないからだよ。サイバース世界の再建にも、ライトニングたちを止めるのにも、そしてロスト事件被害者たちを助けるのにも」
「でもそれは遊作たちに失礼にあたらないの?」
「なかなか痛いとこつくじゃねえか、アクア。でも余計なお世話だ」
「そうかしら?」
アクアは首を傾げた。