保護者たちの憂鬱

「インプラントチップ......」

姉は頭を抱えている。

「私が入院している間に何があったんだ」

「クイーンからの指示だ、ようやく実用化した」

「君もなかなかに苦労してるね、財前」

「全くだ」

ため息がとけていく。

「いくら同意を得たとはいえGO鬼塚......セキュリティは最高のものを設定しておきなよ、せめて」

「ああ」

「AIを中に入れて融合とシンクロを実装がやっとだと......その程度でplaymakerの後追いにしかなってないのが残念だよGO鬼塚......さて誠也にはなんて伝えたもんかね、これは」

彼女は苦い顔をしている。

「アースを倒し、解体か。生け捕りにしてマテリアルを確保したいんじゃなかったのかい?」

「マテリアルの生成にはウィンディという風のイグニスが関わっているようだ」

「得意分野があるってことか......誠也の話じゃアースはアクアに恋してるって話だから取りいればよかったのに。それをいきなり解体だと......一体なにを......?だいたい人間とAIの対立をより決定的なものにしたわけだ。GO鬼塚はインプラントチップによっていきなりAIに支配される人間の構図を用意してくれるわけだね。というかSOLの行動がライトニングにとってあまりにも都合が良いのが気になるよ。内通者でもいるんじゃないだろいかね?」

財前は肩を竦める。

「このインプラントチップ、現在進行形で人体実験してるんだね、その被験者がGO鬼塚といっても過言ではない。どうか断ってくれと願う君の思いも届かず、強くなるためだけにリスクを承知で人体実験の被験者となった鬼塚か......世知辛いね」

「インプラントチップは将来のSOLに莫大な利益を齎す事業だ。イグニス捕獲の為だけのものではない」

「ホントどこ向けに作ってるんだこんなもの…......」

「休業中の君には言えない領域だ」

「わかってるさ」

彼女は肩を竦めた。歯がゆいだけだ。財前に葵がいる以上、反乱を起こせないことなど知っている。財前がやめたら最後、SOLテクノロジー社の内情がなにひとつ入らなくなるのだ。それは困る。非常に困る。


もともと金儲けのためにロスト事件を起こしてまで大企業にのし上がった会社だ。脳に埋め込む事で人間とAIを一つにするデュエルAI内臓インプラントチップを人間の体で試すことなどいつか到達する未来だった。イグニスが意思を持つAIだと知っているのに容赦なく無惨に切り刻むことだって利益が見込めるからするのだろう。

「まあ、GO鬼塚はPlaymakerが倒すべき目標であり、その差は何だと考えて行き着いた結果が自分がAIと行動を共にしているかどうか考えた結果だったんだろうさ。常にAIと行動している事が強さの1つだと考えて、俺はAIと1つになればPlaymakerを超えられると思った結果だと感じた。まあ、本人のみぞ知るがね。どうにかならなかったのかい、財前部長?」

「無理を言うな…......確かに、私にも責任はあるかもしれない。だが、これはGO鬼塚が選んだ道であり、その結果だ。彼が受けた屈辱から生まれた嫉妬心。それが彼を未だに苦しめている。それを打ち消し、本来のGO鬼塚を取り戻すことが出来るのは、彼自身だ。彼が本当の意味で己の弱さに打ち勝った時、playmakerは全力でGO鬼塚と戦うだろう。ただ、今の彼はもう戻れない領域まで来てしまった。我ながら心が痛い」

「同情するよ。一社員はこれだから無力なんだ」

二人の間に重苦しい空気が流れている。

「話は変わるんだけどさ、財前。私達はなにかと情報を握っているからイグニスに肩入れしてしまうが、SOLテクノロジー社からすれば知らぬ話だ。おかしな動きをするプログラムのバグを修正・原因究明したらAI殺しって罵られるようなもんだ。ウィンディとライトニングが表立って見える以上、SOLテクノロジー社側から見たイグニスは殺人AIだからなあ」

「まあ企業だからな......企業が自社の利益を求めるのは当然だが、我が社は逸脱しすぎている......。AIをそもそも意思ある生命として考えられないのは当然だがな。イグニスを完全に滅ぼしてその技術だけを引き抜き人類の発展に役立てるっていうのも一つの道な訳だ。イグニスはあくまで自社の一チームが開発した自称意志のあるAIでしかないんだから。見ようによっては現実世界に迷惑を及ぼさずに人類の驚異をひとつ排除したわけで、動機はどうあれ同じことしようとしてアナザー事件起こしたハノイよりはよほど穏便かつ常識的かもしれない」

「SOLテクノロジー社は企業としては危険を排除しながら発展に貢献してる普通な企業だが、その倫理観が破綻してるのが問題なんだ。表沙汰になったら一瞬で終わるぞ」

「ほんとうにな」

財前は葵、和波は誠也、それぞれSOLテクノロジー社の関係者でい続けなくてはならない理由がある。

頭が痛い話である。
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