姉のお見舞いに行ったら、待ち構えていた財前部長と二人がかりでこってり絞られてしまった。ぐったりしながら帰ってきた和波に、HALが追い打ちをかける。
「さあて、残念なお知らせだぜ誠也」
「......どうしたの?今じゃないとダメ?僕疲れてるんだけど」
「ダメだなー、ほら聞けよ。不本意ながらリボルバーの野郎からもらったセキュリティプログラムのアップデートが必要になったろ?」
「......そうだね」
「そのために引き上げてるゴースト共の一部が帰ってきません」
「..................またあ!?」
たまらず和波は叫ぶ。
「また」
悪びれもせずHALはいけしゃあしゃあと宣う。初めからわかっていたかのような反応だ。
「うそお......まさかまた感染し始めたとか言わないよね?」
「するに決まってんだよなあ......」
「やっぱりい!」
「光のイグニスとグレイ・コードが本腰入れ始めやがったし、そろそろ量産やめた方がいいかもな。せっかくの《星杯》が違うデッキに書き換えられたら誠也のバックアップデータとして役に立たねえ」
「そうだね......ところでデッキに感染するウィルスは今度はなんなの?端末世界由来のウィルスはこないだ全部倒したよね?」
「おニューだぜ、みろよ」
HALが見せてくれたのは、知らないテーマのカードを使うゴーストである。
「早いとこなんとかしなきゃ、またウィルスばらまいてるのがゴーストだって思われるうう!」
アンチスレや注意喚起のページを見て和波は青ざめた。
それは《守護竜》と名のついたテーマカテゴリだった。属するモンスターは全てドラゴン族であり、そのほとんどが通常モンスターあるいはドラゴン族に関連する効果を持つ。
リンクモンスターは以下の共通する効果外テキスト・永続効果・起動効果を持つ。自分は同名カード)を1ターンに1度しか特殊召喚できず、
その効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分はドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。自分メインフェイズに発動できる。2体以上のリンクモンスターのリンク先となる場所にドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。
カードは以下の通りだ。
《守護竜エルピィ》
《守護竜ピスティ》
《守護竜アガーペイン》
キリスト教のカトリック教会における七元徳、あるいはそれに関連する言葉がカード名の由来となっていると思われる。また、メインデッキに入るモンスターは枢要徳に、リンクモンスターは対神徳にそれぞれ対応している。
《守護竜ユスティア》は正義で《星遺物−『星杯』》
《守護竜ガルミデス》は節制で《星遺物−『星冠』》
《守護竜プロミネシス》は知恵で 《星遺物−『星杖』》
《守護竜アンドレイク》は勇気で《星遺物−『星櫃』》
《守護竜エルピィ》は希望で《星遺物−『星盾』》
《守護竜ピスティ》は信仰で《星遺物−『星鎧』》
《守護竜アガーペイン》は愛で《星遺物−『星槍』》
星遺物を巡る背景ストーリーに関わるカードのようだ。
「星遺物より生まれし竜!?」
「リンクモンスターの3体は、《オルフェゴール・ロンギルス》が所持している星遺物に対応してやがるな。こいつら《オルフェゴール・リリース》のイラストに描かれている奴らじゃねーか。関係あんのか?」
守護竜デッキは、以下の流れで展開していくようだ。《守護竜》モンスターを墓地に肥やす。リンクモンスターをリンク召喚し、場所を移動させる。エクストラデッキから大型ドラゴン族を展開。それはゴーストに挑んだユーザーが愛用のデッキがウィルスに感染したと主張する動画でわかった。
「じゃあいくよ、ボクのターン!」
動画のゴーストはウインクひとつ、ターンを宣言した。
「まずは《終末の騎士》を通常召喚!モンスター効果を発動だよ!で《亡龍の戦慄-デストルドー》を墓地に送って、そのまま自身のモンスター効果でフィールドに特殊召喚!」
現れたリンクマーカーを前にゴーストは笑う。
「灰色の法典(グレイ・コード)よ、ボクを導け!」
「ふざけてるの?!」
たまらず和波は叫ぶ。案の定、ゴーストのアバターがグレイ・コードのウィルスに感染しているとネットでは騒ぎになっていた。
「ボクは《終末の騎士》と《亡龍の戦慄-デストルドー》をリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク2《水晶機巧−ハリファイバー》!モンスター効果で《BF−隠れ蓑のスチーム》をリクルートするよ!さらに連続リンク召喚!ボクはリンク2《水晶機巧−ハリファイバー》と《BF−隠れ蓑のスチーム》でリンク3《アークロード・パラディオン》をリンク召喚!!ここで《BF−隠れ蓑のスチーム》のモンスター効果でトークンをフィールドに特殊召喚!」
「僕が使ってたデッキに混ぜてるの、ウィルスのカード?タチ悪すぎない!?」
「ほんとにな」
「《アークロード・パラディオン》のモンスター効果を発動!ここで《マギアス・パラディオン》をリンク召喚!さらにトークンで《リンクリボー》を《マギアス・パラディオン》のリンク先にリンク召喚。そして、《マギアス・パラディオン》のモンスター効果で《星辰のパラディオン》をサーチ!《リンクリボー》をリリースして《BF−隠れ蓑のスチーム》の蘇生効果を発動!《マギアス・パラデオン》と《BF−隠れ蓑のスチーム》で《ヴェルスパーダ・パラディオン》をリンク召喚!!」
「ねえ、ボクより回してない?」
「あっはっは」
「笑わないでよ!」
「《BF−隠れ蓑のスチーム》のモンスター効果でトークンを特殊召喚!そして墓地にある《リンクリボー》のモンスター効果でトークンをリリースして自身を蘇生!サーチした《星辰のパラディオン》をフィールドに特殊召喚。《星辰のパラディオン》のモンスター効果で墓地の《アークロード・パラディオン》をエクストラデッキに戻すよ。さらに《星辰のパラディオン》をリンクマーカーにセット!《守護竜エルピィ》をリンク召喚!!」
知らないテーマとの混合デッキは心なし和波が回すより回っている気がする。相性がいいデザイナーズデッキとはいえHALに笑われると凹むしかない。
「《ヴェルスパーダ・パラディオン》のモンスター効果で《守護竜エルピィ》の場所を隣に移動。そして《守護竜エルピィ》のモンスター効果でデッキから《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》をフィールドに特殊召喚!《ヴェルスパーダ・パラディオン》と《リンクリボー》でリンク召喚!《スリーバーストショット・ドラゴン》!」
「うげっ、リボルバーくんのカードまで!?カードバンクまでハッキングされたの!?」
「いんや、違うな。これは再現したカードらしい。細部の効果が微妙に違う」
「そうなんだ......うわあ」
「《スリーバーストショット・ドラゴン》と《守護竜エルピィ》で《守護竜アガーペイン》をリンク召喚!そして《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》のモンスター効果で《スリーバーストショット・ドラゴン》を特殊召喚!《守護竜アガーペイン》のモンスター効果で、さらに《銀河眼の光波竜》を特殊召喚!」
「うわああ......」
「《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》と《守護竜アガーペイン》で《天球の聖刻印》をリンク召喚!《銀河眼の光波竜》2体でオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!ランク8《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》!!」
「やりたい放題だね......うわあああ」
「さらに《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の効果のコストで《エクリプス・ワイバーン》、《嵐征竜−テンペスト》、《破滅竜ガンドラX》を墓地へ送る。《エクリプス・ワイバーン》のモンスター効果で《終焉龍 カオス・エンペラー》を除外。墓地の《嵐征竜−テンペスト》効果で《エクリプス・ワイバーン》、《破滅竜ガンドラX》を除外して自身を特殊召喚!《エクリプス・ワイバーン》のモンスター効果で《終焉龍 カオス・エンペラー》をサルベージし、《終焉龍 カオス・エンペラー》をペンデュラムスケールにセットして効果発動。1000ライフポイントを支払い除外されている《破滅竜ガンドラX》をサルベージ。その後《終焉龍 カオス・エンペラー》は破壊されるよ。そして、エクストラデッキに表側表示で存在する《終焉龍 カオス・エンペラー》を《マギアス・パラディオン》、《リンクリボー》を除外して特殊召喚!!」
「なんでここまで回せるの......精霊たちが主導についてるとはいえさあ」
「《終焉龍 カオス・エンペラー》と《スリーバーストショット・ドラゴン》で《ファイアウォール・ドラゴン》をリンク召喚!」
「うっわ、playmakerのカードまで......」
「ゴーストのつもりで書いてるからアバター使われちまってるからな」
「カードバンクハッキングされなくてホントに良かったね」
「だな、所詮はコピーカードだ」
「《天球の聖刻印》と《嵐征竜−テンペスト》でリンク召喚!《アークロード・パラディオン》!!」
「攻撃力8500......」
「《ファイアウォール・ドラゴン》のモンスター効果で手札の《破滅竜ガンドラX》をフィールドに特殊召喚」
「お姉ちゃんのカードまで......」
「おいおいまじかよ、まさか」
「《破滅竜ガンドラX》のモンスター効果を発動。このカードが手札からの召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。このカード以外のフィールドのモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの内、攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。このカードの攻撃力は、この効果で相手に与えたダメージと同じ数値になる」
「バトルにすら入らねえだと......やき切りやがったぞこいつ」
「うわあああ......」
敵に知らないコンボを使われていたたまれない和波だった。
「今すぐ対策して叩こう、HAL。シャレにならないよ」
「そうだな!」