小話C

新たな拠点をつくり人間を支配下におく。ウィンディとライトニングの宣言を聞いて、HALはそうくるかとため息をつきたくなった。素体となったアイ(HALにいわせれば本体様)や不霊夢よりよっぽどAIらしいではないか。創造主の意向を忠実に再現しようとしているあたりが実にらしい。HALの元ネタとなった映画の人工知能じみている。

鴻上博士がすべての根幹だから結局博士は許されない存在なのだとさえ感じる。実に厄介な創造主様だ。人類が滅びた時の為に後継種のAIつくるのはまぁ分かる。そのために何の罪もない子供拉致して監禁しながら極限のデュエルやらせなきゃいけない、人類の為だから仕方ないとなるのが狂気なのだ。その狂気を引き継いでしまったのがウィンディとライトニングなのだ。

イグニスが人間の味方だとしても勝手に生んで勝手な未来予測で殺すなんて酷い鴻上博士と世間は考える。イグニスが人間の敵なら勝手にこんなやばい存在生んでひとり退場すんな鴻上博士となる。どっちにしろ評価が完全に詰んでるのが笑うしかない。

ライトニングはいうのだ。鴻上博士が私達を作った。その使命は人類の後継種となり人類を導く事だと。とうの鴻上博士はイグニスは失敗作だと断じて人類の敵になるから抹殺しなければならないと考えた。その意志を引き継いだのがハノイの騎士であり、息子の鴻上了見なのだから笑えないではないか。

HALにいわせればイグニスとしての本能はたしかに急にトチ狂って意見変えて攻撃してきたのは鴻上博士の方で、自分達は与えられた元々の使命を忠実に全うしようとしてるだけだ、となる。だが自我というAIと矛盾する揺らぎをえたHALの感情は違うのだ。

なんともけなげであると思えてならない。イグニスの使命も結局博士の思想が元だ、ただのマッチポンプだろこれとなる。本能に振り回されるのは自我を持つものとしてどうなのだ、理性と感情を得たんだから自由に考えていいはずでは?

要はどっちの精力も博士の思想受け継いでるわけだから、やっぱり博士が全ての元凶であり、その呪縛から解き放たれてこそなのではないかと思うのだ。

この先にイグニスがどんなに危険だって話になろうが、鴻上博士が勝手に人類の後継者作ろうとして被験体は6人の子供を誘拐して半年も監禁した挙句にイグニスをつくるような実験をするから悪いとなる。しかも遊作に至っては、息子が友達になろうと連れて来た子とか言う極悪っぷりだ。そっちも息子に誘拐の片棒担がせてようが、純粋に仲良くなろうとしたのをモルモットに丁度良いやしたのかどっちでも詰みでしかない。

博士なりに責任をとろうとはしてるんだろうが、後々自分の理解される時が来るとか思ってる辺り反省の色がないのが気に食わない。事情が明らかになったところで人類史上最悪のマッチポンプとして人々の記憶に刻み付けられるだけなのに。

(ライトニングがマッチポンプしている可能性は高いなこれ、鴻上博士がいきなりとち狂ったわけだし。いやまだ早計か?どのみちイグニスつくる時点で正気だったんだから正当化する理由はねえな)

ためいきひとつ、HALはいった。

「グレイ・コードが背後にいる時点でねえわ」








「オレ様?オレ様はずっと一貫してるぜ」

悪びれもせずHALはいいはなつ。和波誠也と一緒にいたいからサイバースにして人間という特異な存在にしたてあげた。未練を残したらかわいそうだから和波への説得優先で基本は遊作側。遊作があいまいな態度をとってる以上どっちつかずなのは無理もない。グレイ・コードの抹殺の方が先だ。

「だからライトニング、お前らのさそいには残念ながらのれねーわ。グレイコードはハノイにもハル側にも死の商人みたいなことしてるからな、バックがいなきゃ考えたんだが」

「じゃあなぜ応じた?」

「決まってんだろ、探してたやつがいるからだよ」

HALは後ろを見る。

「久しぶりだなあ、アインスさんよ。面と向かって会うのはこれが初めてか?あ?」

HALの殺気めいた視線の先には不敵に笑う男がいた。

「みんなデータ化してサイコデュエリストを普通の存在に貶めたい、はライトニングたちの目的と矛盾しないし、どっかの悲劇起こしたいおじさんも喜んで加担するだろうし。グレイ・コードの私物化も甚だしいな。末期の犯罪組織ってのはこれだからやだねえ。思考すら放棄して上に丸投げするやつら多すぎだろー」

皮肉めいたもの言いをみて、ライトニングは本当にアイから生まれたイグニスもどきなのかと疑問に思ったのだった。


(どうかバレてくれるなよ)

アイの共存という答えを得た途端実力行使で破壊しに来たライトニングたちに、HALはこっそり冷や汗だ。

HALに生まれ育った原点という意味での故郷はない。存在しない。それはアイというイグニスのプログラムバックアップデータが破壊されて分離した際に生まれたからでもある。HALの誕生はサイバース世界の崩壊と同時だったのだ。

そういう意味ではこの5年間のうち半分以上をすごしたドミノ市がある意味で故郷なのかもしれない。そこで実に多くを学んだ。故郷という概念については。ドミノ市はHALにしっかりと根を下ろし、和波誠也を代行することで想い出の殆んどはそこに結びついている。和波誠也という人間が素体となったことで感情を観測し、学んだから理解した。あの町々の美しいあかりを見るとたまらなくなつかしくなるらしい。何だか赤ん坊になって生れ故郷へ帰ったような気持ちになるようだ。人間世界にとけ込めないパートナーのために同意の上で現実世界でのアバターを手に入れたHALは故郷という概念が羨ましくなった。どこにも原点がないちゅうぶらりんの浮遊点という事実は自我という揺らぎをえたプログラムに不安を与えたのだ。皮肉にも程があるだろう、HALにとって自らの拠り所は和波誠也という素体とサイバース世界という記憶だけの概念だけなのだ。

サイバース世界という概念を懐かしく思うのはアイから受け継いだ共通の概念だ。ようやく故郷の地を踏んだとき、漠然と湧き上がるものもあるかと思ったがそういうものでないらしい。残念だった、つまらない。
あんまり長いことはなれていたせいで、懐かしいという感慨もわかないならまだましだったものを。

遊作のデュエルディスクと連動してるからアイから連絡がきたとき、今度は応じたHALである。イグニス以上にサイバース世界の背景にまで根を張るグレイ・コードに喧嘩を売りたかったのだが、いつかはたしかめなくてはいけなかった。

HALにとってサイバース世界は再建して所属するに値するか、受け入れてもらえるか不安だった。

故郷という概念しかしらないイグニスの亜種が初めて見たのははりぼての世界だった。どこまでもひろがると信じていたサイバース世界というアイのつぶやきがどこか白々しく聞こえたのは、HALが故郷を持たないイグニスだからなのかもしれない。

ライトニングたちに当たり前のようにイグニス側に数えてもらえた時ほっとしたことだけは墓場に持っていかなくてはならない。手放した時点でさえ彼らは事故で生まれたイグニスをイグニスと考えてくれていることに甘えながらHALは対立を選んだ。グレイ・コードがいるから対立するのだ、お前らと対立してる訳じゃないと逃げ道を作ったのは見破られているのだろうか。
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