束の間の帰還

互いにバウンティハンターを蹴散らし、ふたたびsoulburnerが囚われた球体に戻ってきたplaymakerとワナビー。草薙からの支援の気配はない。どうやらまだ解除に手こずっているようだ。互いに新手が来ないか警戒心をにじませながら周囲を見渡していた二人は、ただただ広がる静寂に息を吐く。

気のせいなのだろうか、見えないものに常に監視されているような圧迫感が二人を苛んでいた。心に不満や孤独感の内部圧が高まるような、圧迫感にじわりじわりと押し付けられる息苦しさ。上から圧力がかかって押しつぶされそうな、ずしっと肩に食い込むような心理的な圧迫感。あるいはむず痒いような居心地の悪さ。言葉にするのさえ恐ろしくてワナビーはじっと耳をそばだて待っていた。

先に動いたのはplaymakerだった。

「大丈夫か、soulburner!」

はじかれたように顔を上げたワナビーは叫ぶ。

「はやくログアウトしましょう、playmaker」

「ああ、そうだな」

「ごめん、悪いけどそうしてくれ」

三人はログアウトした。和波は巨大スクリーンから飛び出してくる。おかえり、と安堵の笑みを浮かべた草薙だったが、ログアウトしたはずの赤と青の部屋からがん、という音がする。慌てて開けてみると崩れ落ちそうな穂村がいる。覚束ない足取りの穂村を二人でかかえて椅子に座らせる。遊作は心配そうに水を用意しはじめた。

「大丈夫か、尊」

「何があったんだ、尊くん」

「あはは、やってやりました!」

顔色は悪そうだが笑顔を作り、穂村はサムズアップする。気遣えるだけの気力はあるらしい。とりあえず三人はほっとする。遊作から受け取った水を飲み干して、穂村は息を吐いた。

穂村の言葉を遮り、不霊夢が代わりに説明してくれた。ブラッドシェパードにより記憶をハッキングされ、トラウマであるカードでデュエルを挑まれたこと。バウンティハンター、ブラッドシェパードの順で連戦になったのだが、極めて悪質なデュエルを挑まれたと不霊夢は苦々しげに語る。3カ月でデュエルのトラウマを払拭するために頑張ってきた記録だけは死守して、不霊夢による応援もあり自我を取り戻したsoulburnerはなんとか持ちこたえてバウンティハンターに勝利することができたらしい。

バウンティハンターはなんとアンデットワールドを軸としたまだリンクヴレインズで実装されていない新規テーマだったらしい。そして不霊夢が捕食したアバター情報によればAIだったというのだ。

「こいつを見て欲しい。これが私たちを襲ったバウンティハンターだ」

「アバターを捕食したのか!?」

「明らかに挙動がおかしかったからな。剛鬼から不自然に切り替わった形跡がある。ブラッドシェパードも驚いていた。そもそもスリーマンセルだったらしいからな」

「なんてこった」

草薙は忌々しげにテーブルを叩く。

「横槍が入ってブラッドシェパードには逃げられちゃいました、すいません」

「気にしないでくれ、尊くん。罠に気づかなかった俺も悪いんだ」

「そうですよ、グレイ・コードの悪質な妨害跳ね除けられたんだからすごいです。お疲れ様です」

「ありがとうございます」

穂村は力なく笑った。不霊夢により意識の転換とトラウマを跳ね除ける気力を取り戻したが、不霊夢がいなければ完全に詰んでいたのだ。ブラッドシェパードとのデュエルは中断してしまったが、最後までデュエルができたかどうかはわからない。不霊夢たちがいない中同じ状況に陥ったときが穂村尊の本当の戦いであるのだと穂村はいった。

「それだけ客観視できるようになっただけすごいじゃないか」

本当にそうだと和波は思う。絶望に慄いてたsoulburnerは本心と演技が半々だった。まだ恐怖は捨てきれないが、既にデュエルで乗り越える方法を得た。だから立ち塞がっても乗り越える事が出来る。草薙の言葉に穂村は照れたように笑った。

「さて、問題はこっちだな」

草薙の視線の先には三人のデュエルログ、それぞれが入手した解析、未解析のデータを並べたものだ。和波はため息である。SOLテクノロジー社の後方支援として堂々とグレイ・コードが使ってるウィルスとウィルス仕込みのアバターをぶつけてきた。ブラッドシェパードが把握してないあたりまだ詰めが甘そうだが。今回キャリアでこそなかったが、ハルたちの支援も行っている証拠を掴めている今となってはおぞましい状況である。戦いを演出しようと画策している者たちがいるのだ。ツヴァイの言葉を反芻して和波は息を吐いた。

「とりあえず、僕、このままお姉ちゃんのところにいってきます……」

「面会時間は大丈夫なのか?」

「面会じゃなくて呼び出しなんです……お姉ちゃんと財前部長の」

この一言に草薙たちは苦笑いを浮かべた。

「とりあえずこのアバターたちの解析は私に任せてくれ」

穂村を精神的に痛めつけた相手が許せないのだろう、不霊夢はいう。誰も反対する人間はいなかった。
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