「playmaker!大丈夫ですか!?」
そこには見るからに動揺しているplaymakerの姿があった。目の前には巨大な球体が鎮座している。Dボードであたりを旋回してなにかを探しているようだった。soulburnerたちの姿がない。不安になって近づいてみるてplaymakerはすぐ気付いてくれた。
「ワナビー……」
「なにがあったんです、soulburnerは?」
「それが……」
焦燥感と悲壮なほどの狼狽がそこにはあった。それはplaymakerにとって一番あってはならないことだった。どうやら今回草薙が見つけた禁止エリアにつながるトンネルは罠だったようで、playmakerを庇ってsoulburnerは引き摺り込まれてしまったらしい。入り口を探したが見つからないと沈痛な面持ちで告げられる。他人を自分のせいで危険な目にあわせることはplaymakerがいつも恐れていることだ。それは何度も耳にしてきたし、soulburnerを仲間にするにあたり気持ちを新たにしていたことも知っているワナビーは目を丸くするしかない。驚きを隠せなかったためにplaymakerが唇を噛むのが見えたが、なにも言えなかった。わかっているのは他ならぬplaymakerだろう。
今までこんなミスしたことなかったからだ。草薙さんやplaymakerが罠を見抜けなかった時点で相手はその上をいく存在だと確定した。加えて慎重さに欠けていたこともわざわいした。そして役割分担に固執してグレイ・コードにばかり注視していたワナビーと知識と経験不足ゆえに三人に丸投げ気味だったsoulburnerのミスでもある。だが、仁の意識データの奪還に二回も失敗している上に、打開策が全くない今、誰もが焦っていたのかもしれない。もっとみんなの様子を注視すべきだった、とワナビーは後悔した。
役割分担を明確にしすぎた。集中できるようにしたのが裏目に出た。少しでも気にかけていればフォローに回れたかもしれないのに。後悔はふつふつと湧いてくるが時間は待ってくれない。
「新手が来やがったぞ、ワナビー、playmaker!!」
HALの声に二人は弾かれたように顔を上げた。はるか遠くにバウンティハンターの姿があった。
「……さっきまでピアノ線みたいな糸が張り巡らされていて近づけなかったんだ。サイバースの風も荒れていた」
「そりゃいくらワクチンプログラムがあろうがアバター損傷してハッキングでもされたら世話ねーからな。賢明な判断だろうぜ」
「データストームコントロールする人が支援してたってことだよね」
「恐ろしいことにな」
「僕が足止めしたアバターがその役割担ってたのかな」
「おそらくそうだ」
「グレイ・コードはSOLを支援してることを隠す気すらねえらしい。バウンティハンター共もえらいバックアップ受けやがってよ、めんどくせえ!あん時とは違うメンツが混じってやがるな、新しく投入しやがったか?」
目前に迫り来るバウンティハンターたち。ワナビーはとっさに叫ぶ。
「playmaker、ここは二手にわかれましょう」
「ああ、わかった」
「僕のことは心配しないでください、soulburnerを助けるのが先ですよ」
「そうだな」
うなずくplaymakerを最後に二手にわかれる。HALはこれで説教は確定だなとまるで他人事のように笑った。誰のせいだよとワナビーはぼやく。お姉ちゃんからか、はたまた財前部長からか、ブルーエンジェルもとい財前葵ちゃんからか。いずれにしろ頭がいたい話である。
「今回のウィルスはデッキを強制的に変更、アバターまでは強制的に変更されず、人格まで上書きはされない仕様だ、クソガキ。カード情報が書き換えられて抜かれるだけ、一見脅威度は低いが、今のリンクヴレインズには、精霊プログラムが採用されてるんだ。同じデッキを使い続ければそれだけデッキは強くなる。同じウィルスが感染を繰り返せば、同じデッキがすさまじいスピードでデュエルしてるも同然、強くなっていくパターンだ」
「……ねえ、HAL。それってさ、なんだかボーマンみたいだね」
「不気味なことにな」
精霊がいるデッキをひたすら使い続けたらその分数値化されたデュエルタクティクスや運命力、カードの絆が強化されていく。なにせこのウィルスの素体となったであろうデッキの精霊たちは合意して協力体制でなければそもそも成立しえないのだ。精霊が合理主義で本来の持ち主と合意の上であらゆるユーザーのデッキを勝手に書き換えて経験値を積んだらものすごいことになる。普通は精霊がそんなこと許すとは思えないが、ツヴァイが見せつけて来た精霊世界を思い出すと友好的、敵対的では片付けられないたくさんの精霊たちがいるのだとワナビーは思い知らされてきた。ありえるかもしれない、と考えるくらいには視野が広がっている。
「くるぞ!」
「わかってるよ!デッキが同じなら対処のしようはあるからね、見せてあげるよ!」