ライトニング

ワナビーが転移した先の世界は、光に満たされた世界だった。

アインスが待ってたよと顔をあげて微笑む。ほほが夕陽に輝き、それは、まるで一刻ずつ姿を変えてゆくまぶしい夕空のようにはかない笑顔だった。それはワナビーに何か体に受けた傷に夕陽がまともにあたっているような痛ましさを見せている。
淋しく角度をつけている。端正な顔が光の中だというのに寂然と見える。光が反射して、彼の小さくしまった蒼白い顔は、きらきら波のように揺れていた。かと思えばそのふくらみに光が反射し、白い肌が滑らかに光っている。ふたつの胸の間には、青く深い影が湖のようにたまっている。スポットライトみたいな光に真横から照らされていて、なんだか出来すぎた絵画のようだ。

待ってたよ、と大きく手を振った。そこだけ昼間みたいに、街灯の光を吸い込んでゆらめいていた。

「君がここにいるってことは、ライトニングは逃げたんだな、君とのデュエルから」

「ライトニングはあなたとデュエルをするのが効率的だからっていってましたよ」

「うん、それはそうだろうね。本心を隠すためならあいつは平気でそんなに嘘をつく」

「え?」

「ああうん、心配しなくてもここに確かにあるよ、HALのデータは。ただ、僕に投げたのはきっと君のマインドスキャンを恐れたからだ」

「マインドスキャンを?」

「そう、そのイグニスにさえ通用する究極の嘘発見器。自我を持つ存在ならばだれしも天敵となりうるその能力。君がその能力を持っている時点でライトニングが僕達に力をかせといってくるのは必然だったのさ」

「どういうことです?」

「ライトニングはね、誰よりも恐れているのさ、すべてを」

アインスはくすくすと笑うのだ。

「あの男なら罪というだろうね。先天的な欠陥の事なのか、自分が劣っている事を認められず他者を巻き込んでしまう事なのか。それは聞いてみないとわからないけれど」

「ライトニングに欠陥?」

「すっかり騙されてるね、息をするのと同じくらい嘘を重ねてる君ですら見抜けないなんてさすがはライトニングだ。真に機械的なAIであったなら、感情に振り回されることもなかっただろうに。感情や意志に翻弄されるのは生き物の特権だよ。それを享受出来ない時点で悲劇はいつかは訪れていたのさ」

アインスは語るのだ。人間の繁栄という使命を持って生まれたイグニスは、たった一体だけ人類とイグニスの破滅というシュミレーションから逃れられない存在がいた。それがライトニングだと。

「自分の未来だけダメだったからその未来を回避する行動をしてもやっぱりシミュレーションの通りになってしまった。学習が足りなかったんだね」

「待ってくださいよ、それはそもそも君たちグレイ・コードのウィルスに頭をやられた聖博士が出したシュミレーション結果でしょう?それをライトニングも知ってたはずですよね?」

「もちろん、正気だったころからのシュミレーションだよ」

「そのシュミレーション自体がSOLテクノロジー社とグレイ・コードの共同開発の中で行われたものですよね?」

「そうだね、でもそれがなにか?僕は実働部隊だから裏方のことはよく知らないんだ」

ワナビーは唇をかんだ。

「そういう意味では可哀想な存在だね。シュミレーションってAIにとっては絶対の未来だ。一人だけ袋小路でどうしようもなくなったんだろうな。自分を受け入れないもの全部ぶち壊してしまう以外選べなかったっなんて、もう生まれてきたことが罪としかいえない。哀れだよ、とても。そう、君から見られるのが嫌だったのさ、ライトニングは」

「まさか、いったんですか、それ」

アインスは笑う。

「唯一鴻上博士から託された使命・存在意義を果たせない為に歪んだライトニングが、自分達の後継種としてボーマンを作るという鴻上博士と同じことして罪を重ねてるの最高に皮肉だよね。欠陥品が最も鴻上博士に似て鴻上博士の意思を継いでいるっていうんだから」

ワナビーは息を飲んだ。

「きっと君はこういっただろうね、ワナビー。ライトニングは突然いらない子扱いされて怖かっただろうしコンプレックスすごかったあたり共感するけど、それにしたってやったことはとんでもない。なにかしかの罰は受けなくちゃいけない。超えちゃいけないラインを超えたライトニングに対して、ワナビーは容赦ないからね。そうだろ?」

「否定はしないよ」

ワナビーは認めた。マインドスキャンをかけてみて、嘘をついていないとワナビーはわかってしまったからだ。まずはじめに思ったのはライトニングの「罪」がまさかキリスト教的な「原罪」だと思わなかったってことだ。誰かを傷付けたとかとかじゃなくて、生まれたこと自体が罪、生まれたその瞬間から死ななきゃいけなかった。人を創造した神とイグニスを創造した鴻上博士も重なって見える。

自分の持つ罪のせいで自分の未来には破滅の道しか無いっていう自覚はライトニングにはあったはずだ。彼を創った鴻上博士っていう神さまは、原罪を持つライトニングを決して赦さず死ぬべきだから死ねって言ってる。悲劇はライトニングはそこまで全部理解できる知恵があったことだ。

ライトニングにはふたりの親がいて
1人は自分を創った鴻上博士、もう1人は草薙仁。鴻上博士っていう創造主に存在を全否定されたライトニングはもう1人の親である草薙仁をお人形のように手元に置いて、自分のための新しい神様であるボーマンを創った。側には仁くんに似た弟を用意して。自分が他のイグニスより劣っていることを受け入れず、サイバース世界を崩壊させ、自分の欠点を補うボーマンを作り上げた。更にサイバース世界を滅ぼした理由を「イグニスには限界があるからより高度なAIを作る」という自分のコンプレックスを隠す嘘の大義名分をでっち上げた。

ライトニングに罪はないか?と言われたら確実に罪はある。だがこの世界のどこにも居場所が無いと確定していてさらに考える思考能力がある者だったら確実に狂うし暴走する。

それだとライトニングからハノイに会いに行って、悪いのは自分だけなんで仲間は許して下さいって自己犠牲しなきゃならないのであまりにも可哀想だ。

だから、屠ってあげる、とワナビーは自己完結した制裁を加えられる存在なのだ。それは一切情状酌量の余地も与えず判決文を読み上げる裁判官にも似ている無慈悲さがある。ライトニングはきっとライトニングすら自覚していないこころすら無慈悲に読み取られてしまうことが怖かったのだ。

そうアインスはいった。

「さあ、デュエルをしよう、ワナビー。ライトニングとの約束ははたさなきゃいけないからね」
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