ライフポイントが尽きる音が響き渡った。
「まずはGO鬼塚だ。メインはアースだけれども少しは足しになるだろう」
ライトニングが指をかざした途端、鬼塚のアバターがまるで煙のように消失する。暗い空の中に閃く稲妻のように、光が走り、あっというまに四散していった。
「クソッタレ!」
ゴーストは叫ぶ。
「ほら、言っただろう、ゴースト。ワナビーが庇ってくれた時点で現実世界に逃げ出してしまえばよかったんだ」
またたく星が夜明けの太陽の前にかすんでいってしまうように、忽然と消えてしまった鬼塚を見ているしかないゴーストは舌打ちをする。
「さあ、次は君の番だ、ゴースト」
「ちい」
風に吹かれた煙のようになかったことになるだろうとゴーストは予感があった。クッションを指で押しても、柔らかな弾力で、すぐにへこみが消え失せ、また元のなだらかな表面に戻るように、自然に。ただのバグに過ぎない自分は正常化してしまったが最後、事実上の消滅であると。0か1か、有か無か、それしかないのだ。ゴーストが、HALが、プログラムである限りは。その空想がちようど漁船から漏れた油のやうに長く尾を引いて薄れてゆく。せっかく涌いた希望も泡のようにたわいもなくはじけてしまった。微かな悔いは流れ星のように尾を引いて彼の心から消える。光がゴーストとライトニングの間をすり抜けていき、星空に一瞬まみれたかと思うとかき消えた。
「......HAL?」
「やあ、見ていたのかワナビー」
「ライトニング......なにしたの、ねえ」
「来るのが遅かったね、鬼塚もHALもすでに私の構成プログラムとして取り込ませてもらったよ」
「なんだって?」
「半身を失ってしまったんだ、狼狽するのも無理はないね。君が庇って逃がしたはずのHALが消滅してしまったのだから!でも悪く思わないでくれ、私はたしかに忠告したんだ。私に挑むべきではないだろう、1度拾った命なのだから大事にすべきだと。私は何度も彼に言ったんだ。ことごとく却下されてしまったが」
「なにがいいたいのさ」
「恨むなら私ではなく無謀だとわかっていながらデュエルをしかけてきたHALをうらみたまえ。私はHALとワナビー、君たちをそもそも敵視などしていなかったんだから。これは正当防衛だ、かけたっていい」
「......つまり有象無象ってことじゃないか」
「それは違うさ。だって私はグレイ・コードと密約を結んでいるのだからね、君が、いや君たちが相手をすべきなのはアインスのほうだったはずだ。目的を見誤ったのはHALの方だろう、違うかな?」
「でも君はHALを取り込んだ。この瞬間から君は僕の敵だ」
「ふむ、ならこうしようか。アインスにHALのデータを渡そう。これならいいだろう、実に効率的だ」
ワナビーは舌打ちをした。HALの奪還が先だと考えたようで、転送されたデータをおいかけてワナビーは姿を消したのだった。