2週目極歌仙とリセット本丸
「ねえ、歌仙」

「なんだい、お小夜」

「歌仙はどうしてあの時代の肥後に修行にいったの」

「ああ、もっと遡れば僕の逸話の真偽がはっきりするって?」

「うん」

「これは僕の修行における考え方だから、お小夜は参考程度に聞いて欲しいんだが」

「うん」

「僕たちは付喪神だ。付喪神は古い器物に霊が宿って誕生する神霊の総称だ。器物は百年経ると化けると言う俗信から、嘗ての日本では古い器物を九十九年で捨てる事が多く、多くの古い器物があと一年で命を得られたものをと恨みを抱いて妖怪に変貌した。つまり前述の伝承による過剰な警戒心が逆説的に作用したと言う故事にも由来している。僕を構成している実体もまた前の主や逸話、そして本体への評価が反映されている。修行はさらなる高みにいくために、今度は自分から実体を再定義するんじゃないかと思うんだ。本来なら自分で霊力をかきあつめ、維持しなきゃならないところを、すべて僕たちは主や時の政府に肩代わりしてもらっている訳だからね。実体を拒否することは出来ないが、修行では人間の身だ。自分はこうだと認識し、主にも再定義してもらい、自分も定義することであり方を少しだけ修正出来るんじゃないだろうか」

「あり方......」

「きみの求める強さによって行くべき時代はかわるだろう。逸話の真偽をはっきりさせ、より霊格を強化することで得るものもある。僕みたいに実体を強化するために前の主のもとを尋ねるのもありだ。自分がなんなのか突き詰めていくのもまた極めるものがあるだろう。人の身でいくことに意味があるんだ」

「僕は、強くなりたいんだ」

「強くか」

「うん。大倶利伽羅が検非違使放免を倒して、自分で自分の脚を潰したとき、僕は歌仙と主を呼ぶことしか出来なかったんだ」

「おかげで手遅れにならずにすんだ」

「でも、悔しかったんだ」

「そうか」

「それに、今の僕は強さに限界を感じても主がどこにいるのかわからないよ。さみしいのは慣れてるけど、それはいつか終わりがくるから耐えられる。今のままじゃ、ずっとこのままだ。それが怖い」

「だから修行に行きたいんだね。主に聞いてみるといいよ」

「うん、そうする。いつごろ順番が回ってくるかわからないけど」

「なぜそう思うんだい?」

「歌仙がここまで説明しなれてるってことは、それだけ同じ話をしたってこと。要領よく話せるってことは、僕が最初ではないと思って。いつもの歌仙ならもっと話しが長くなる」

「いや、いや、いやいやいや......その理屈は、さすがにおかしくないかい、お小夜?まるで僕が口下手みたいな」

「あたっているでしょう?」

「たしかに前田藤四郎や厚藤四郎あたりからは聞かれたし、話したけれど?だからって......」

「やっぱりあたってた」

「やめないか。そうやって隙あらば昔の僕について主やみんなにバラそうとするのはやめないか」

「ふふ」

「お小夜」

「僕は主が最初に鍛刀した刀剣男士で、歌仙の次にこの本丸に顕現できたんだ。でも今のままだと歌仙がずっと近侍だ」

「それが嫌だっていいたいのかい?」

「そうだよ」

「いうようになったじゃないか」

「うん」

「うんて、きみね」

「うちの歌仙にばかりいい格好はさせられないもの」

「きみってやつは、ほんとうに変わらないな!?」









「なあ、歌仙。今年の秋の彼岸っていつだっけ」

なにもかもが電子化されているうちの本丸では、こういう季節の変わり目がわかりにくいのが目下の課題だ。カレンダーを所望してよかった。主はふと気づいたときにそのカレンダーをあてにして近侍部屋を尋ねてくるのだ。

「今日だよ、主」

「ああ、やっぱそうなのか。休みだもんな。中秋の名月は?」

「来月の最初だね」

「あー、あー、そっか、そうだな。妖精たちに注文しとくか」

「休みの過ごし方、やっと決まってきたみたいだね」

「季節の移り変わりをしっかり感じるんだよってうるせーのが近侍してるしな」

「このまま俳句の道に進んでくれてもいいんだよ?茶室の増築もしてさ」

「こないだ新設したろうが。厳正なるあみだくじの結果、裏千家の茶室になったのは同情するが自分の運を恨め」

「うう、古今たちに責められた傷はまだ癒えてないんだ。放っておいてくれ」

主は笑った。前の本丸では軽率になにがいい?って聞いた結果、24振りしかいないのに血で血を洗う抗争になりかけたことはしっかりと覚えているらしい。

彼岸とは、二十四節気を日本の風土に近づけるために設けられた雑節の一つで、春分・秋分を中日(なかび)とし、前後各3日を合わせた各7日間(1年で計14日間)である。

極楽浄土は西方にあり、1年の内で2度、昼と夜との長さが同じになる春分と秋分は、太陽が真東から昇り、真西に沈むので、西方に沈む太陽を礼拝し、遙か彼方の極楽浄土に思いをはせたのが彼岸の始まりである。

昼夜・東西が平行になるお彼岸の時期には、「あの世」へのゲートが開くといわれてきた。それがやがて、祖先供養の行事へと趣旨が変わって定着した。

「きみがわざわざ聞きに来るんだ、おはぎでも作るのかい?」

「そのつもりだから手伝いよろしくな」

「わかったよ」

僕は溜まりに溜まったメールの未送信欄にある歌の選者は後回しにすることにしたのだった。

彼岸に供え物として作られるおはぎは、炊いた米を軽くついてまとめ、分厚く餡で包んだ10cm弱の菓子として作られる。秋の彼岸の頃に咲く萩に由来すると言われている。

僕たちは料理が得意な刀剣男士を呼びに行った。

「きみがここにきたということは、あまいものをつくるのか?」

「いや、俺は別にあまいもの専門てわけじゃねえよ」

「うん?でも、わたしにこえをかけるときはいつも、すいーつをつくるときだろう?」

「あはは、たしかに、それはいえてるね」

「仕方ねえだろ、あんこの仕込みで小豆に勝てるわけねえじゃねえか」

「きみにみとめてもらえるのはうれしいなあ。こんかいもまかせてくれ」

「主、注文していたうるち米とだいずが届いたよ。せっかくだからづんだ餅もつくろう。きみは作ったことないっていってたからね、僕と貞ちゃんに任せてくれ」

「みっちゃん、みっちゃん、菊おはぎも作ろうぜ!」

「いいね、そうしようか」

「こんかいは、おはぎかい?こどもたちがよろこぶような、かわいらしいものをつくろうか」

「彼岸といえばおはぎだからね、さすがは僕の主だ。さあ、頑張って作ろうじゃないか」

「俺は普通のおはぎのがいいんだけどなあ。まあいいか、食うのは刀剣男士たちだし」

「えーっ!?せっかく作るんだから食えよ、主!!」

「皿にひとつひとつ並べておけばそんなにたくさん食べることにはならないじゃないか」

「お茶を点てるつもりだからね、主。見てるだけはなしだ」

「なんだよこの集中砲火」

「当たり前だろう。なにを無粋なことをいっているんだい」

「そうそう、こっちの台詞だよ」

「きみはあれか?つくるのはすきで、みんながたべているところをみるのがすきなのか?」

「それとも胃に持たれるような年になったのかい?まだ若いだろうに」

「おいこら歌仙、しれっと失礼なこというんじゃねえよ」

「だってそうだろう。前だって葛まんじゅうをいつ食べたのかみんな知らなかったんだ。実は食べてないんじゃないのかい、きみ」

「えっ、待ってくれよ、主!僕には久しぶりに沢山作ったから加減がわからないって試食を頼んでたじゃないか!話が違うよ!」

「主?」

「おいこら、歌仙。余計なこというんじゃねえよ」

「なにがだい?」

「あるじ」

「えー、まじかよ。なら今日はちゃんと食べようぜ、主」

主は困ったように眉を寄せていたが、僕たちが口々に文句をいうものだから折れてくれた。

「味見だけで腹がいっぱいになるんだけどなあ......」

「あるじはおかしをつくるのはじょうずだけど、たべるのはすきではないのか?」

「嫌いじゃない、嫌いじゃねえよ。そんなんじゃない。あえていうならこの状況がおちつかねえんだよ」

「落ち着かない?」

「なにそれ、初耳だな」

「なにか、わたしたちがしでかしているとか?ならいってくれないか?」

「んー、なんつーか、今の本丸はあれなんだよ。なんかしら作るとなると、数が数だ。なにかと大所帯になっちまうだろう?昔の職場思い出してうんざりしちまうんだよ......。まあクリスマスと正月のかきいれ時と比べたらまだマシなんだけどさ。どうにもなあ」

「てぎわがいいのは、おかしのしょくにんだったから?」

「時間遡行軍のせいでころころ境遇変わってたが、今はやっと最初の世界線に近い世界になってくれたからな。今の俺はそういう資格もあることになってるはずだ。転職は何回かしてるからそういう時期もあったってだけで、プロではないけどな」

「あ、もしかしてクリスマスっていう楽しそうな行事のこと聞いたらすんごい嫌そうな顔したのってそのせいかい?曹洞宗だからかと思ってたんだけど」

「主が不機嫌さを隠しきれないのってめずらしいもんな、焦った焦った」

「あー......すまん、つい。ポインセチアと葉牡丹とクリスマスの飾りだけは本殿には置かないでくれ。朝から晩までひたすら働いた記憶が蘇ってきておちつかねえんだよ。他の建物や中庭は好きにしてくれていいからな」

「あはは、そういうことなら仕方ないね。わかったよ」

「職業病だねえ、主」

「なるほど......くりすますとおしょうがつはそんなにいそがしいのか。すきなことをしごとにするのはたいへんだ」

「まあお前らと作る分には問題ない。こっちの問題なだけでな」

どこか遠い目をしている主に僕たちはどれだけ忙しかったのだろうかと同情するしかないのだった。


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