2週目歌仙とリセット本丸3
「さあ……新たな刀を目利きしようか」

僕達の目の前には、新たな刀剣男士が顕現していた。

「いや、これ時の政府から賞与された一振だからな、歌仙」

「わかってるよ、きみの霊力じゃまず鍛刀すら無理だってことくらいはね。何年の付き合いだと思ってるんだ」

「余計なこというな、バカタレ」

僕達の軽口の応酬についていけないのか、新入りは困った顔をしたまま頬をかいた。

「えーっと、挨拶した方がいいんだよな、これ?あんたがここの主で、そちらさんが近衛してる先輩の刀剣男士でいいんだよな?」

「おう、ここの審神者をしてるんだ。よろしくな。こっちは歌仙兼定。うちの初期刀であんたが入る部隊長でもある」

「守り刀って言っても、写しだから将の器じゃないってか」

イラッとした僕は無意識のうちに本体に手をかけていた。

「それは関係ないから安心してくれ。僕は隊長を譲る気はない」

「いや任命権は俺にあるからな、歌仙」

「主」

「なんかさっきから機嫌悪いな、歌仙。どうしたお前」

「なんか俺部隊長に嫌われてんだけど主......ほんとに大丈夫なのかよ?物置生活になったりしない?」

「それもないから安心してくれ」

「本体持ったまま言わないでくれよ」

両手を上げて降参のポーズをとる。オレンジ色の髪をした青年が苦笑いした。胴の紐を緩め着崩して身に着けるというラフなスタイルが特徴的で、紋の七芒の図形は、光の字をそのまま意匠化したものを思わせる。その下には徳川葵が配されている。黒地に白抜きだ。

身長は僕と主より3センチほど高い。

「ソハヤノツルキ ウツスナリ……。
坂上宝剣の写しだ。よろしく頼むぜ」

「待ってたぜ、ソハヤノツルキ!俺の霊力じゃまずお目にかかることすら許されなかった太刀だもんな!ようこそ、本丸へ」

「へえ、いいのか?俺は坂上の宝剣そのものじゃないんだぜ?」

「そんなこというもんじゃないよ。どれにしようかなで選ばれた僕とは違ってきみは4年も前から望まれていたんだ。誇るといいよ。今の主の方針からして、初期刀の思い出補正がなかったら、きっとここにいるのは蜂須賀に決まっているんだから」

「お、おう......?なんか悪かった......」

「わかればいいんだよ」

「なんか当たりが強くないか......?」

「気のせいだよ、気のせい」

「絶対嘘だ」

「気のせい。それはそうとだね、ソハヤノツルキ。顕現したばかりのところ悪いんだけれど、うちの本丸は残りの48振りを迎えるために環境の整備が急務でね。ゆえに今行けるエリアを全て3週間以内に踏破しなければならない。いかんせん猶予がないんだ。もちろんきみにも頑張ってもらうからね」

「さ、3週間!?たったの3週間!?いや、事情はわかるぜ?顕現したときにその辺の情報は入ってきたから。しかし、そ、そりゃ大変だな......えらい本丸に顕現しちまったな......物置になる暇もないってか」

「ゆえに生存が高い連中ばかり顕現しているからね、きみと僕くらいだよ。例外は」

「......3週間でだもんな、生存の高さが大事なのはわかるぜ。あんたが初期刀なら当然だろうけど、ほんとに何で俺、こんなに大歓迎されてるんだ?」

「ソハヤノツルキが顕現可能になってから、ずっと頑張ってきたんだよ、俺。鍛刀も報酬任務も歴史修正主義者の置き土産も全部駄目だったからな」

「主の運のなさと霊力の貧相さは筋金入りだからね」

「......そんなに?なんでまた」

「俺の御先祖さんが坂上田村麻呂だからさ」

「?!?」

ソハヤノツルキは凍りついてしまった。無理もないなと僕は思う。

無銘であるが三池典太光世作と伝わる太刀、ソハヤノツルキは、まさしく主の御先祖様にあたる坂上田村麻呂の佩刀であった「ソハヤの剣」(坂上宝剣)の写しにあたるのだ。徳川家康が所持し、死後霊刀として一緒に葬られたと言われている。

時の政府の提供してくれたデータによれば、天正12年前後に織田信雄から家康に贈られたものである。家康は行光の脇差と大小でソハヤノツルキを愛刀とした。臨終の際には大坂の陣より後にも不穏な動向を見せる西国に対してソハヤノツルキの切っ先を西に向ける様に遺言したと伝わる。徳川将軍家にとってソハヤノツルキは久能山東照宮の御神体同様に扱われている。

なお本人は強い霊力を持つために長く仕舞われていたことを少々根に持っているようだ。

「とはいっても、蝦夷を討伐するために北へ遠征する過程で地元の有力な豪族の娘と婚姻関係になり、繋がりを作りながら進んでいったうちのひとつに過ぎないけどな。本家ではないさ。日本を探せば腐るほどあるだろうよ」

「いや、いや、いやいやいやそんな軽く流せるようなことじゃないだろ!?むしろなんでそんな家系なのに霊力死んでるんだよ!?」

「それは僕も不思議でならないんだけど、未だに答えは出ないんだよね」

「所詮は末裔だからな、今じゃただの人ってことだろ」

「......なんかとんでもねえところに顕現しちまったな......プレッシャーが半端ない......」

ソハヤノツルキが冷や汗を流すのを見ながら、僕は4年越しの悲願を叶えることができて感無量な主に声をかけた。

「で、もう一振の太刀はどうするんだい?生存の高さで決めるなら数珠丸恒次あたりになるけれど」

「そうだよ、そこが悩みどころなんだよな。たしか日蓮宗だよな、あいつ。うち曹洞宗なんだが顕現拒否られないか?」

「さすがにそれはないと思うけど気になるなら、次点の小鳥丸か大典太光世になるね」

「うーん、あ、そういや大典太光世ってソハヤノツルキの兄弟刀だったよな?」

「えっ、あ、お、おう。たしかに俺とあいつは兄弟だぜ。でもそんな理由で決めていいのか?」

「うちはまだ部隊がふたつしか編成出来ないからな、片方が短刀部隊だから歌仙率いる部隊に入ってもらうことになる。いかんせん時間との勝負だから少しでも連携とるためにもその方がいいかと思ったんだよ」

「まあ、顕現させるのはあんただし、俺は従うつもりだけどさ。......ありがとうな」







「最初こそなかなかに新鮮な体験ではあったけど、さすがに固定されるともはや内番じゃなくて担当だよな」

「本当だよ。たしかに僕はね、料理を作るのは得意だが、これは部隊長である僕の仕事ではないだろう……!だいたい近衛に畑当番までさせるとか主はなにをかんがえているんだ......。僕だけ負担が大きすぎやしないか」

「なら近衛変わってやろうか?」

「ははっ、面白い冗談だ。まさか本気でいっているんじゃないだろうね?一番隊長は近衛をやるのがうちの決まりだっていったはずだが?普通は畑当番をやるだろう?」

「一人でこれはさすがに俺も無理だって」

「やろうと思えばできるものだよ」

「......えっ、ほんとにこの広さを一人でやったことあるのかよ!?もはや懲罰の域じゃねーか」

「......懲罰だから間違ってはいないね」

「なにしたんだよ、歌仙......」

「どうしても倒せない敵がいてね、あと少しというところまで追い詰めたんだがうちの主は軽傷撤退が信条だろう?この先、刀装が意味をなさない厄介な敵が出てくるんだが、このままではいけないと嘘をついて挑んだのさ」

「あんだけ口うるさく後追いするなって止める部隊長様が?」

「あの時は僕もはやく武功を稼ぎたくて仕方なかったんだ。そして主に認めてもらいたくて仕方なかった」

ソハヤノツルキは不思議そうな顔をする。

「あんたはこの本丸の初期刀なんだろ、歌仙。なんでまたそんな無茶をする必要があったんだよ?一番隊長として相応しい采配をいつもしてるじゃねーか」

「今はそうだね、そうだとも。自信を持っていえるよ、今の僕ならば。でもあの時の僕はそうじゃなかった。主にとってもそうじゃないからね。前にも話したが主が本丸を構えるのはこれで2度目だ」

「ああ、故郷が未曾有の災禍に見舞われて消息不明になってたっていうあれだろ?」

「前の本丸の初期刀も歌仙兼定だったのさ」

「......それはまた大変だな、前の自分が敵とか」

「しかも前の僕は主の采配ミスで戦いのさなかに破壊されている。主のトラウマなんだ、あんまり茶化さないでやってくれよ」

「......あの主が?冗談だろ?刀装が想定より剥がれただけですぐ撤退命じるあの過保護すぎる主が?へえ、人って見かけによらないな」

「主はその反省から今の方針に変わったのさ。今の本丸の刀剣男士たちは幸運だと思うよ」

「......ほんとに人ってのは変わるもんなんだな。いっちゃ悪いけど前の歌仙に感謝だよ」

「まあね、否定はしないさ」

僕はクワを振り上げた。盛土の列がようやく終わろうとしている。次は主が種から育てた苗をプランターからこの盛土の列に植え替えていく作業が待っているのだ。無駄口を叩きすぎると終わるものも終わらなくなってしまう。プランターだって洗わなければならない。監査役でも気取っているのか姑じみた細さでこんのすけのチェックが入るのだ。それをクリアしないとこんのすけが主のところに畑当番が終わったと報告してくれない。

「霊格があがったのはいいけど、せっかくのステータス上昇までなくなるのはなんでだろうなあ、歌仙。人間の体ってめんどくせー」

「ほんとにそうだよ、それさえ無ければ畑当番はとっくの昔に免除なはずなんだ。3週間しか猶予がないせいで、はやくにランクアップしていく。おかげでいつまでたっても畑当番から抜け出せない」

「毎日こんだけ頑張ってんのに偵察ばっかあがるしな。主は生存あげてくれっていってんのにさあ!だいたいなんで連結で生存と偵察が上がんないんだよ、おかしいって」

「ほかの刀剣男士の霊格を取り込むんだから真っ先に生存は上がるべきだと前から僕も常々考えているところだよ。まったく、毎度の事ながら着物が台無しだ」

僕とソハヤノツルキはためいきをついた。

「霊力が満ちてるから野菜の育ちが早いのはありがたいが、毎日の作業量を考えたら地獄だな......」

「や、やっぱそこ関係あるんだ?」

「いつもの主の霊力考えたら、絶対にここまでいい野菜がこんな短期間でとれる訳がないんだ。いや、ありがたいんだけども」

「なあ、歌仙。ほんと2人でこの作業量は無謀だって。せめて担当時間を減らせないか主に提案できないかあ?」

「そうだね......さすがに僕も疲れてきたよ。そろそろ短刀の生存も上げるべきだって主に伝えてみよう」

「それいいな、短刀たちが活躍できるエリアがあるんだろ、この先?短刀たちの生存、俺たちより低いし。はやく上げるべきだよな」

プランターを盛土のあいだに、ひたすらにおいていく。あとはもう移し替えていくだけだ。そして添え木をして黒いシートをかけて......もう考えるのはやめた方がいいな、気が滅入ってきた。ここまで頑張ったのに肝心の生存じゃなくて偵察が上がるのは本当にどうかしていると思う。今回の僕の実体はどうかしているんじゃないだろうか。

だいたい偵察が低くても歴史修正主義者たちの霊力を見ればだいたいの編成が把握出来る。編成さえわかれば相手が取るであろう陣形なんて手をとるようにわかるんだから今の僕には必要ないんだが。なんて気が利かない体なんだろうか、今回の僕の実体は。

そんな不満を抱きながら僕たちが畑当番を終える頃には、すっかりあたりは暗くなり、夕暮れがまじかに迫って来ていたのだった。

「はっはっはっは!今日も畑当番だったな、2人とも!刈り入れ時が楽しみだのう!ほれ、持ち帰ってきたぞ!」

騒がしいやつらが帰ってきた。どうやら短刀たちと遠征に出ていた岩融が帰ってきたようだ。短刀たちを滑車に載せて一人でひいているあたり物凄い怪力の持ち主である。

「おやおや、あんなに急いで帰ってこなくてもいいのに。せわしないなあ」

「すげえ力持ちだなあ、岩融」

「ほんとにそうだね。さて、こんのすを呼んでこようか、ソハヤノツルキ」
 
「そうだな、ここまてやれば今日の畑当番は終わりって主に報告してくれるだろうし」

「お疲れ様」

「ほんとにな」


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