エピローグ(修正済み)
固唾をのんで見守る和波の傍らで、遊作、そして草薙はキーボードを叩く。トレーラーの巨大なモニタの前で繋がれた和波のデュエルディスク。吸い上げたデータを解析していた。HALから受け取ったデータが気になるのはアイも同じようで、遊作のデュエルディスクに持ち込まれたデータをいじくっている。こういった方面はHALに丸投げして生きてきた和波は、この状況になると1人手持ちぶさたになってしまう。じっとしている訳にもいかず、合間を見てはコーヒーサーバーを借りて、買い出しに出かけた先で購入したお菓子を出す。、そしてみんなに休憩するよう促す。和波が好きなものが並ぶ。出かける前に何がいいか聞いたところで、なんでもいい、という生返事が返ってくるのはお約束だ。初めこそ遠慮して駄菓子程度だったのだが、だんだんグレードが上がってきてちょっとした休憩規模ではなくなってきている。和波が冷蔵庫からケーキの箱を出してきた時点で遊作たちは目が点になった。


「……遅いなとは思ってたけど、どこまで買い出しに行ってたんだ、和波」

「こないだ、財前さんと食べにいったケーキ屋さんです。おいしかったから」

「見るからに高そうだな……なあ、和波君、野郎ばっかなんだからそこまで気を遣わなくてもいいんだぞ?」

「はい?僕が食べたいだけですよ、草薙さん」

「そ、そうか?ならいいんだけどな?」


和波がおいたのは取り分ける紙皿が申し訳なくなるほど大きなフルーツがのったケーキである。チョコレートは細工が細かくてディスプレイに展示されているようなものだ。ちょっとしたお祝いすら、賞味期限前のうっすいケーキで済ますことが多い2人は開いた口がふさがらない。


「……いくらだったんだ?」

「気にしないでください、僕が食べたいだけですから」

「……そうか」

「それより藤木君、どれがいいです?甘くないの選んだつもりなんですけど」

「………じゃあそれ」

「はい」


落ち着かなくてコーヒーに口とつけるが、いつものインスタントコーヒーと並べるにはグレードが違いすぎるきがひしひしと感じてしまう。草薙は乾いた笑いがうかんだ。サラダ用のプラスチックのフォークが明らかに釣り合っていない。


「草薙さんはどれにします?」

「じゃあ俺はこれかな」

「わかりました」


慣れた様子で取り分ける和波に、いつだったか財前とケーキバイキングにいくとかなんとか言われたことを思い出す。行かないかと誘われたが、甘い物が好きでもない遊作は断った。まさかここまで甘い物が好きだとは思わなかった。さすがにここまで準備されると作業を中断せざるをえなくなる。彼等はようやく休憩時間にはいった。


「どうです?」

「調べれば調べるほど背筋が寒くなるな、草薙さん」

「ああ、まったくだ」

「そんなに?」

「ああ。和波君のお姉さんのおかげでこれでも被害が最小限に収まってたことがわかったよ」

「フランキスカがいってた未完成っていったい?」

「プログラムを見ても和波はわからないだろうから簡単に説明すると、フランキスカはあのセキュリティプログラム自体を乗っ取るプログラムを組んでたんだ」

「えっ」

「でもできなかった。自分が担当していたあのオブジェクトだけしか反映できなかった。それはなぜか」

「もしかして、お姉ちゃんが」

「ああ、たいしたもんだよ、和波君のお姉さんは。たぶん、あのプログラムの根幹となるシステムを構築する部署にいたか、もしかしたら担当だったのか。そこまではわからないけどな、アクセスコードがどうしてもわからずフランキスカはどうしても突破できなかった」

「たぶん和波のお姉さんはあの事故の直前、フランキスカがそのプログラムを仕込むところを目撃したんだ。ベータ版テスターに紛れ込み、隠れて作成していた違法アバターで管理者権限をハッキング、和波のお姉さん達が研究してるエリアに侵入して、あのプログラムを仕込んだ。本来なら爆破事故を起こして研究者もろとも殺して証拠を隠滅したあと、電脳体になったベータ版テスターや研究者たちにサイバースで実体を作って返してやると脅してSOLテクノロジー社と交渉するつもりだったんだ。でも、その前提となる爆破事故を支障源に阻止され、しかもメインのセキュリティプログラムのアクセスコードを奪われた」

「……待ってください、もしかして、お姉ちゃんが今までずっと目覚めなかったのは」

「和波のお姉さんはログアウトするときに必ず通過するあのエリアにフランキスカが待ち受けていると知っていたんだ。帰ったら間違いなく消される。そう思ったんじゃないか」

「すごいな、ほんとに。たった1人でリンクヴレインズのユーザーを守ってたんだ」

「お姉ちゃん……」

「フランキスカは感染させたユーザーを使って、リンクヴレインズでテロを起こそうと画策してたらしい。ことごとく邪魔された形跡がある」

「もしかしてお姉ちゃん!?」

「ああ、きっとな」

「藤木君、藤木君、フランキスカが計画してたサイバーテロはどこのエリアですか!?」

「落ち着け、もうデータは解析できてる」

「ほんとですか!」

「こらこら、せっかく煎れてくれたコーヒーが冷めちまう。ゆっくり食べてからにしよう、な?まだ時間はあるから。直近でも2日後だ」


ぽんぽん肩を叩かれ、和波ははやる気持ちを抑えながら、それもそうですね、と座った。





そして2日後





和波は遊作たちが調べてくれたリンクヴレインズのあるエリアにいた。ブルーエンジェルと一般のデュエリストたちがスピードデュエルに興じている。たくさんの観衆がいる雑踏の中、和波は待ちわびたホログラムを見つけることができた。フランキスカがいれば、おそらくここで大規模なサイバー犯罪が行われ、ここで行われるはずだったカリスマデュエリストたちのデュエルは大混乱に陥っていた。ここで感染者を増やしていく計画だったようだが、あの男の野望が潰えた今、なにも起こることはない。


「お姉ちゃん!」


和波の張り上げた大声は間違いなく彼女の耳に届いていた。はじかれたように顔を上げた彼女は目を見開く。和波は一目散に走り出す。和波の声になにかを察した観衆は道をよけてくれる。そして、すり抜けてしまうホログラムがいるとバレたらまずいとおもったのだろう、懸命な彼女は裏路地に移動した。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん、やっとみつけた!!もう大丈夫だよ、お姉ちゃん!僕がフランキスカをやっつけたから!!」


playmakerたちのことはもちろんHALのことも秘密にしなければならない和波の話は、高校生がするにはとんでもないレベルの大冒険になってしまう。端末で財前部長改め課長から話を聞いた彼女は数年の間に大きくなった弟に笑いかける。そして和波のお願いに応じてログアウトしてくれることになった。


「……ん、」


数年ぶりに夢遊病から解放された彼女は、ようやく目を覚ます。


「お姉ちゃん!!」


勢いよく抱きついてきた和波を抱きとめた彼女は、周りを見る。主治医の先生、看護師さん。知らない顔があったが和波のアルバイト先のお兄さんたちだと教えてもらう。お見舞いにきてくれていた財前兄妹を前に恥ずかしそうに笑う。わんわん泣き始めた和波の頭をなでながら、ほほえむ。


「ありがとう、感謝するよ誠也。ただいま」

「お帰り、お姉ちゃん!!」


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bkm






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