第1話(修正済み)
「さて、今日はどうするんだい、遊作」

「どうするも何も今日は大型アップデートで締め出しくらってるだろ」

「ま、細かいことはいいっこなしだ。ほら、景気づけにどうだい、たまにはビックサイズとか」

「いいけどなんで?また新作でも考えてるのか?」

「そうそう、期間限定で様子見するつもりなんだ。どうだ、これ?結構自信作なんだ」


遊作はいつものように草薙の運営する移動式のホットドック屋に入り浸っていた。カウンター越しに草薙が朝からやけに張り切って仕込みをしていた理由をようやく知ることになる。

全長30センチはありそうなビッグサイズのふかふかなパンが遊作の前におかれる。他のサイズのものと比べるととても目立つ存在感だ。どうみてもこれが期間限定のやつだろう。ドリンクとセットで少々お高めなポップが見えた。そして20センチは軽く越えていそうなソーセージがぱりぱりに焼かれていく。草薙がチョイスしたのはホワイトチェダーチーズである。そしてスパイシーなソースがかけられる。パンとソーセージとチーズのみの直球勝負なプレーンタイプがまずできあがった。


「ここから、3つ種類があるんだ。どれ食べたい?」


草薙が見せてきたのは、3つのポップだ。写真付きでトッピングと付け合わせが載っている。そしてザワークラウトが入ったガーリックソースのかかったものが置かれる。これは通常と同じ大きさだが、細めのフレンチフライがついてくるらしい。フライドオニオンの代わりにパプリカを炒めて味付けしたものがソーセージの上に置かれるのは女性向けだろうか。こちらもポテトがついてくるようだ。
そして、フライドオニオンとザワークラウトを山盛りにしてトマトソースをかけ、ブラックペッパーをかけたもの。どうだ、と自信満々な草薙にさすがに遊作はあきれ顔だ。


「草薙さん、いくらなんでも多過ぎだろ」

「いやいやこれくらいいけるだろ、遊作。お前高校生なんだし」

「それ高校生関係ないよな?」

「はは、まあ正直気合いが入り過ぎちゃってな。さすがに1日で全部試食してくれとは言わないよ。今日はどれがいい?」


へたしたらこの試食数日かかるんじゃないだろうか、と遊作はちょっと不安になった。とりあえず、今日はプレーンタイプを頼むことにして、遊作はその間ここからよく見える大企業に設置された巨大モニタをみた。ちょうど午前のニュースを流している。


「そういえば、また出たんだってな、ゴースト」

「今度はいつ?」

「昨日の午後だ。14時頃らしいぞ」

「ほんとにバラバラなんだな、時間帯。絶対に学生じゃない」

「あはは、そうだな。Playmakerが学生じゃないかって噂と真逆の論理だ」

「どうせまたPlaymakerはどこだ、なんて騒ぎを起こしてるんだろ?全く面倒なことするやつが現れたなあ」

「あっはっは、有名税だよ、諦めろ遊作」

「俺はどこの誰とも知らない決闘者とデュエルしてる暇なんかないって」


面白くなさそうに遊作は炭酸飲料に口をつける。


「ゴーストだあ?誰だそれ」

「あー、そういえばお前はまだあってなかったっけ。Playmakerの熱烈なファンだよ」

「ストーカーの間違いだろ」

「そうともいうな」

「ファンならたくさんいるんじゃねーか、主に俺のおかげで」


にひ、と謎の生命体が笑う。たしかに耳を澄ませれば、今日も今日とてPlaymakerの噂は絶えない。


「もっと質が悪いやつだ」

「ハノイよりか?」

「ある意味ハノイよりもな」

「うるさいし、邪魔なんだ」

「Playmakerサマがここまでボロクソに言うってよっぽどじゃね?」

「ま、ある意味通り魔というか、デュエルしろ妖怪というか、こっちの都合お構いなしでデュエル挑んでくるアバターがいるんだよ。正体不明、神出鬼没、しかも毎回アバターが無駄に変わる」

「・・・・・・あ、もしかしてハノイでもねえのにいつも追っかけてる反応が別にあると思ったら、もしかしてそいつか?そいつが噂のゴースト?」

「おおあたり。遊作たっての希望でな、どこにいるか《トワイライトロード》モンスター関連のカードデータと、新規アバターで、名前がNODATAなものは表示するようにしてあるんだよ」

「まさか逃げてんのかよ、Playmakerともあろうお方が?」

「うるさいだまれ」

「ははーん、目をつけられたってーか、気に入られたんだな?」

「そうともいうな」

「断じて違う」


遊作はいい加減だまれとイグニスをにらむ。

ここは世界的大企業SOLテクノロジー社のお膝元として、ネットワークが発展した大都市DenCity。かの会社が作り上げた高度なネットワーク技術により、リンクヴレインズと呼ばれるVR空間が構築され、人々はそのVR空間での新たなデュエルの境地に興奮と熱狂を感じていた。そこに、デュエルによるハッキングを仕掛ける謎のクラッカー集団、ハノイの騎士が現れる。彼、藤木遊作は10年前に起こったある事件の真相を探るためハノイの騎士の邪魔立てをしていた。彼らの狙いがリンクヴレインズの滅亡であるという噂をつかんだときから、ハノイの騎士の脅威に立ちはだかるのは当然の流れだった。圧倒的な実力で脅威を認識させ、こちらに興味を抱かせると同時にハノイの騎士の動向を探るのが目的だったのだ。

ハノイの騎士、そしてSOLテクノロジー社が追っている謎のAIを捕獲し、デュエルディスクのAIに変換する形で手中に収めた遊作。そんな彼の目下の悩みの種は、さきほど協力者である草薙が動向を教えてくれた通称ゴーストだ。詳細を知りたがる騒がしいAIに草薙が教えてくれる。

文字通り正体不明のハッカーであり、突然現れてデュエルを挑んでくると噂がある。その強さはカリスマデュエリストと肩を並べるほどだとも言われており、今の環境デッキである《十二獣》や《真竜》、《恐竜》の使い手に対して、決して引けをとらないデュエルをした。すでに動画数は五桁を越えており、それほどの実力者でありながら、なぜ通常のアカウントを取得し、アバター登録しないのか。それは文字通り未練をもって幽霊になってしまった決闘者がその正体であり、強い決闘者を求めてデュエルをしている、という噂がまことしやかにささやかれ始めた。実にオカルトじみた噂である。


「《トワイライトロード》ってどんなテーマだっけ?」

「遊作、デュエルのログ見せてやったらどうだ?」

「なんでだよ、草薙さん」

「まあ別にいいもんね、見せてもらえねえなら勝手にみるから」

「おいこら」

「あはは、デュエルディスク内部のプログラムに関してはそっちのが本職だな、遊作」

「・・・・・・勝手にしろ。奴のせいで《シンクロ召喚》とか《エクシーズ召喚》に手を出す羽目になった身にもなってくれ。余計な出費させられたんだぞ、こっちは」


苦い顔をする遊作に草薙は笑う。


「・・・・・・!あー、見たことあるかもしれねーな!」

「だろうな、5年もリンクブレインズを逃げ回れるだけの技量があるなら、奴の結界くらい突破できそうだ」

「絶対どっかで見たことあるだろ?あいつがリンクブレインズに拠点を移したのは数年前だからな」

「もしかして、デュエル終わるまででられなくなるやつ?」

「そうそう、それ」

「あー、あれか、思い出してきた。ハノイの騎士に見つかりそうになった時、突然結界が出現して、外にはじき出されたんだよ。そーか、あれはゴーストがハノイの騎士に挑んでたのか」

「その様子だとお前でも突破できそうにないのか」

「んー、時間はかかるだろうけどできるんじゃね?」

「何秒だ?」

「5秒もらえたらなんとか」

「だめだ、やつの結界はデュエルの開始を宣言してから3秒で展開する」

「うっわ怖」


遊作はためいきだ。それだけなら、まだよかった。秘密主義の決闘者に過ぎない。Playmakerとして活動する前段階として使い捨てのアカウントでリンクヴレインズのデュエルに慣れるための予行演習という名目でデュエルを重ねてきた時期がある遊作。うっかりそのゴーストとデュエルをして勝ってしまったのだ。つかの間の余興にはなるだろう、実力は折り紙付きとの噂だし、この電脳空間のデュエルのレベルをはかるにはちょうどいいしと。今の遊作は猛烈にそれを後悔している。ゴーストは強い決闘者とのデュエルを渇望しているのはよく知られた話だ。早い話が気に入られてしまったのである、こちらはどうでもいいというのに。まさかPlaymakerとして活動する前のアカウントと今のアカウントの主が同じ人間であると特定されるとは思わなかった。思っていた以上にゴーストはハッキング技術があるらしかった。おかげで正直会いたくないのである。接触すればするほどゴーストに自分の個人情報が抜かれてしまう気がしてならない。平気で人のパーソナル情報に不法アクセスを仕掛けてくるような、サイバー犯罪では重罪に値するようなことを仕掛けてくる相手など嫌に決まっている。


やつがハノイの騎士に関わりがあるなら、と何度思ったことか。


はじめこそ疑ったのだ。出会うたびに違うアバターのゴーストは、普通に考えれば不正取得したアカウントを使ってリンクブレインズにダイブしていることになる。その入手経路の先にハノイの騎士が関わっている確率は非常に高い。ゴーストは不正取得した膨大な数のアバターを使っているのでは、という噂があったのは事実だ。それがなかなか正体が特定されない理由だと。犯罪の温床となることを理由に複数アカウントの取得は禁止されているリンクヴレインズにおいても、金銭目的、あるいは怨恨目的で遠隔操作してアバターやアカウントの売買をする闇サイトは複数存在する。そこを渡り歩いているのか、管理人サイドとコネがあるのか、理由は定かではないがゴーストは闇サイトで取得したアバターを好んで使うのではないかと。ただ、噂は噂に過ぎないという事実もある。実際、遊作が調べた限り、今までゴーストが使用してきた数多のアバターはいずれも正規のアカウントだった。初期の、がつくけれども。通常ならばありえない事態である。未だにその取得経路はわからないままだ。ゴーストはその背景からハノイの騎士とつながりがあるのでは、とも言われており、実際ゴーストが姿を現したステージにおいては高確率でハノイの騎士が出現することが報告されていた。


ハノイの騎士とのつながりが見えるなら、と遊作は躍起になって探していた時期があった。だが、それもPlaymakerとしてゴーストに再会するまでだ。みつけた、と開口一番にいわれたのだ。ぞわっとした。ずっと探していたんだと笑いながら話しかけられ、身元が割れているわけではないけれども、同一のアカウントだったと看破された時点で悟ったのだ。こいつはデュエル馬鹿だと。ハノイの騎士との宿命の争いの真ん前だというのに、デュエルを申しこまれたのだ。もうこの時点でこいつは絶対に敵じゃないと遊作は悟った。


その日から遊作は全力でゴーストの出現する時間をさけようとしはじめた。だがどうにも出現する時間と日程がかみ合ってしまう。正体不明、といわれるのは出現する時間がほんとうにアトランダムなのだ。人間、生活サイクルがある以上、リンクヴレインズにログインできる時間は特定されてくる。ここから正体不明といわれているPlaymakerですら、学生、もしくは似たような生活サイクルの人間だと憶測されるに至っているのだ。ここから、ゴーストは複数いるのではないか、もしくは自立型AIに行わせているのではないか、という噂がある。どのみちその目的が不明瞭なところもまた不気味だ。求めるのはデュエルだけなのだから。不正アカウント疑惑があるためSOLテクノロジー社はBANや使用者の公表、公的機関への通報を強化しているが今のところ捕まった人間は一人もいない。それがまた実態がないのではというオカルトまがいの噂を垂れ流させていた。


今日は土曜日だ。時間ならある。頼むから来るなよ、と遊作は思った。


「Playmaker様だからあのエクストラデッキの充実度だと思ってたけど、もしかしてゴーストのせいだったり?」

「《トワイライトロード》は展開力が早いからな、遊作の《サイバース族》の《アドバンス召喚》じゃ初動で動けなきゃ打点で負けちまう。仕方ないさ」

「なんでそんなうれしそうなんだよ、草薙さん」

「いやだって、なあ?遊作がゴースト対策にデッキ構築必死で考えてるときは、結構いい顔してると思ってるんだぜ?」

「やめてくれ」

「よし、できたぞ」

いつのまにか、おいしそうなにおいが漂っている。

「ほんとに大きいな、これ」

「まあ今の時期は学生の客が多いからな、がっつりの方が喜ばれるんだよ」

「へえ、そうなのか。ありがとう」

「よしよし、腹ごしらえが終わったら、今日も一日頑張ろうか」

「ああ」

「あ、感想後で教えてくれよ?金取らないんだからな?」

「わかってるよ」

「ならいいんだ」

草薙は笑う。今日、警報鳴るといいなと。

ゴーストは老若男女問わず様々なアバターを使用するが、使用するデッキは《トワイライトロード》であることが特徴だ。あとはデュエルしろ妖怪であること。パーソナルデータのセキュリティがSOLテクノロジー社が提供しているプログラムでなければゴーストであると断定することができる。この2つの条件が一致した場合のみ、その出現エリアとデュエルの中継を繋ぐことになっていた。ハノイの騎士とは逆の活用方法である。


ほんとにな、と遊作は思う。どこか楽しそうな草薙がいやだけども。


そして、代わり映えのしない土曜日ははじまった。


ハノイの騎士とゴーストからの逃走、優先順位はもちろんハノイの騎士である。遊作は今日行われる予定のイベントを狙って襲撃をしかけてきたハノイの騎士の暴挙を阻止するため、ホットドックを食べた1時間後リンクヴレインズ空間に飛んだ。掃討は1日かかってしまった。


「お疲れのところ悪いな、Playmaker」


ハノイを一掃し、遊作は人気のない裏路地に落ちつく。そして近くのモニタをハッキングして声をかけてきた草薙を見る。


「どうしたんだ、なにかあった?」

「ああ、ゴーストが現れた」

「ほんとか!?」

「そう慌てるなよ、Playmaker」

「なんでうれしそうなんだよ、アンタ。やっと巡ってきたチャンスを逃してたまるか。どこにいるんだ、ゴーストは?こっちがバレないうちにそっちに・・・」

「いや、駄目だ」

「・・・・・・おそかったか」


草薙との回線が一時的に切断されてしまう。ゴーストが出現するとき、周囲は一切の干渉ができなくなる特殊な結界が張られるのだ。何度も突破を試みたことがあるが、今のところ遊作は別の意味での宿敵から逃れられたことは一度もない。


「やあやあ、少年君。いつぞやぶりだね。きちゃった」

「またそのアバターか、気に入ったのか?」

「君の反応がおもしろくてついね」


ウインクする白衣の女は、当然のようにデュエルディスクを構える。さっさと終わらせようと遊作はデュエルディスクを構えた。


「お、めずらしい。マスタールールか?」


うるさい、だまれ、と遊作は冷たく返した。










「俺は魔法カード《強欲で貪欲な壺》の効果を発動、1ターンに1度デッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して、デッキからカードを2枚ドローする!」


ゴーストの前にカードの裏側が10枚表示され、除外ゾーンに送られていく。


「俺は《RAMクラウダー》を召喚。そして、カードを2枚伏せてターンエンドだ」


どうくる、とPlaymakerは様子をうかがう。


「ボクのターンと行こうじゃないか、少年。ボクは魔法カード《光の援軍》の効果を発動!デッキの上から3枚のカードを墓地に送り、デッキからレベル4以下の《ライトロード》と名のついたモンスター1体を手札に加えるよ!」


表側のカードが3枚Playmakerにも開示されたあと、墓地に送られる。


「さらに魔法カード《手札抹殺》の効果を発動だ、互いにその手札をすべて捨ててその枚数分ドローだよ」

「《手札抹殺》?」

「あれ、その反応はもしかして知らないのかい?Playmakerともあろう決闘者が?」

「もちろん知ってるさ。アンタが使うところは初めて見たってだけだ」

「あははっ、覚えててくれたんだね、うれしいなあ!」

「俺のデッキに墓地で効果を発揮するモンスターがいるとわかってるのに使うんだ。気になって当然だろ」

「いいね、いいね!実力者同士の切磋琢磨って感じで!」

「さわぐな、うるさい」

「つれないなあ、ま、いいけどね!デュエルに応じてくれてる時点で君はデレてくれてると判断するから!」

「デュエルしないと突破できないエリアに幽閉しといてなんて言いぐさだ」

「あっはっは、だって仕方ないじゃないか。Playmakerったら、ボクと全然デュエルしてくれないんだもの!」

「何度も行ってるが、俺はお前なんかとデュエルする暇なんかない」

「そんなこといっても、君を追いかけてるだけでハノイの騎士って奴らとデュエルできるんだもん、無理な相談だね!」


Playmakerは舌打ちする。ゴーストは気にする様子もない。Playmaker、そしてゴーストの手札が互いに開示されたあと、すべて墓地に送られる。そして裏側表示のカードが表示され、デュエルディスクのデッキゾーンから数枚互いに手札に加わった。


「さらに魔法カード、《闇の進軍》の効果を発動するよ!1ターンに1度、ボクは墓地に眠る《ライトロード》モンスター1体を対象として発動するよ!そのモンスターを手札に加える!おいで、《トワイライトロード・シャーマン ルミナス》!」


黒いローブを身にまとう、幼さの残る少年のカードが開示され、手札に加わった。


「この子のレベルは3!だからデッキの上から3枚のカードを除外するよ!」


表側に開示されたカード3枚が除外ゾーンにおくられていく。ゴーストの愛用するライトロード、そしてトワイライトロードの混合デッキはその特性上罠がほとんど存在せず、魔法ばかりが投入されている。墓地、除外ゾーンを肥やすことからすべてがはじまるといっていい。どんどん蓄積されていくアドバンテージに遊作は眉を寄せた。嫌な予感がする。


「最後に魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》の効果を発動!手札から《ライトロード》と名のついたモンスター1体を捨てて発動できるんだ。デッキからカードを2枚ドロー!そしてデッキからカードを2枚墓地に送る!」


コストとして送られたのは、《ライトロード・サモナー・ルミナス》。《トワイライトロード・シャーマン ルミナス》とのコンボは何度も見てきた。ノーコストのえぐい効果だったはずだ。なんとか展開を止められるよう打ち抜かなければならない。遊作は慎重にその先を見据える。


「《ボクは墓地のカードを14枚除外して《妖精伝姫シラユキ》を2体特殊召喚!さあて、バトルと行こうか、少年君!ボクは《妖精伝姫シラユキ》で《RAMクラウダー》を攻撃!」


たった50ポイントのダメージがPlaymakerをおそう。白い羊のソリッドビジョンは悲鳴を上げて砕け散る。


「続いて2体目で攻撃だ!」


可憐な姿からは想像がつかない攻撃が襲いかかる。


「なにもないみたいだね?その伏せカードは飾りかな?」

「まだ使うべき時じゃないだけだ」

「ふうん?じゃあ、そのときを楽しみに待ってるね!ボクはレベル4《妖精伝姫シラユキ》二体でオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!さあ舞い降りろ、ボクの守護天使!ランク4!《ライトロード・セイント ミネルバ》!」


ゴーストが使用するトワイライトロードが有名になったのは、このエクシーズモンスターの存在もある。かつて行われた世界大会予選入賞者のみが手にすることが許されたこのカードは、その希少価値故に非常に高価な値段で取引されている。リンクブレインズでも相当課金しなければ入手は困難。ゴーストのように複数枚所持するとすれば、それはかつての大会入賞者の特権で現物をスキャンしてデータを取り込むか、もしくはカードデータだけ不正取得したかのどちらかだ。どちらにしろゴーストは使い慣れている。Playmakerは前者だと思っていた。だから学生じゃない、発言につながるのだ。きっと未成年ではないだろうと思っているから。

ゴーストのエクストラゾーンにエクシーズモンスターが降臨する。ルールが改訂された影響で、ライトロードはかつての展開力に制限を加えられたが、もともと様々なモンスターを並べることがたやすいテーマでもある。まだ見たことはないが、きっとリンクモンスターを積んでいるはずだ。ゴーストのエクストラデッキは15枚ちょうどである。


「エクシーズユニットを1枚取り除き、モンスター効果を発動!デッキからカードを3枚墓地に送って、その中に《ライトロード》モンスターがあったらその分ドローできる!」


開示される墓地に送られるモンスターたち。遊作はそのうちの1枚をみて思わず目を見開く。


「《トワイライトロード・ソーサラー ライラ》が落ちたから、カードを1枚ドロー!」

「待て!」

「うん、どうしたんだい、少年君?今のタイミングで発動するカードでもあるのかな?」

「違う、そうじゃない。さっき墓地に送られたカードを見せろ」

「いいよ?」


ゴーストは笑う。


「・・・・・・お前、どこでそのカードを」

「おっとぉ、ずーっとボクには興味ないってクールな反応してたPlaymaker君にあるまじき反応だね!なんで気になるのかなあ、少年君?」

「茶化すな、俺だって知ってる」

「まあ、知らないで許されるのは初心者だけだよね」


Playmakerが反応したのは、墓地に送られたカード。その名は、《破壊竜ガンドラX》。デュエルモンスターズにデュエルディスクという画期的なシステムを導入した海馬コーポレーションが開催した第1回大会優勝者。デュエルモンスターズ黎明期、世界で最初に行われた大会で優勝した決闘王が愛用したモンスターのリメイクカードだ。10年前、決闘王がゲームクリエイターとしてデビューしてから10年ということで開催された記念大会にて、その大会優勝者特典として、そのカード、そして復刻カードが3枚ずつもらえたのだ。そのニュースは、10年前ハノイの騎士に過去を奪われた遊作にとって、当時を象徴するニュースだったから嫌でも反応してしまうのだ。《破壊竜ガンドラ》なら決闘王が使ったことで今でも高いレートを維持する人気のレアカードだ。問題はその派生カードをゴーストが使っているという事実である。このカードは世界に6枚しかないのだ。


「教えられるわけないじゃん。でもさ、こーいうカードって手に入ると活躍できるようなカード使いたくなるよね!」


答える気は全然ないと悟ったPlaymakerは、しばしの沈黙ののち先を促す。


「ボクのターンはこれで終わりだよ!さあ、次にいこうか!」


ゴーストに答えるように、Playmakerのデュエルディスクが点灯する。


「俺のターン、ドロー!俺はフィールド魔法《サイバネット・ユニバース》を発動!自分フィールドのリンクモンスターの攻撃力は300ポイントアップする!」

「おー、さっそくくるか、巷で噂の《リンク召喚》!ずっと楽しみにしてたんだよね、君の新しい力をさ!」

「なら黙ってみてろ、騒がしい。俺は1ターンに1度、自分もしくは相手の墓地のカードを1枚デッキに戻すことができる。もちろん戻すのはアンタの《妖精伝姫シラユキ》だ!」

「おっと」

「さらに魔法カード《おろかな埋葬》の効果を発動、デッキからモンスター1体を墓地へ送る。そして《サイバース・ガジェット》を召喚!このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を対象として発動できる。俺はレベル2《スタック・リバイバー》を守備表示で特殊召喚!そして《サイバース・ガジェット》と《スタック・リバイバー》2体でリンク召喚!現れろ、リンク2《ハニーボット》!」


Playmakerのフィールドに六角形の文様が出現する。それは六方向に展開していき、黄色い蜂の巣のような図形が形成され、そこから電脳空間特有の黄色い粒子があふれ出す。そこから出現したのはミツバチがモチーフと思われるモンスターだった。


「墓地に送られた《サイバース・ガジェット》のモンスター効果を発動!このカードがフィールドに送られた場合、自分フィールドに《ガジェット・トークン》をサイバース族、光属性、レベル2の通常モンスターとして守備表示で特殊召喚!そして罠オープン《リビングデットの呼び声》!墓地にいる《RAMクラウダー》を真下のフィールドに特殊召喚!そして、モンスター効果を発動!フィールドのモンスター1体をリリースし、墓地のサイバース族をフィールドに特殊召喚する!《ハニーボット》をリリース!そして、その《ハニーボット》をモンスターゾーンに特殊召喚!俺のフィールドには《サイバーズ族》がいる。よって手札から《バックアップ・セクレタリー》を攻撃表示で特殊召喚させてもらう!さらにもう1枚の罠オープン、《リビングデットの呼び声》!蘇生させるのは《スタック・リバイバー》!《バックアップ・セメタリー》と《スタック・リバイバー》でリンク召喚!こい、もう1体の《ハニーボット》1体目の右側にリンク召喚!そして墓地に行った《スタック・リバイバー》のモンスター効果を発動!こいつはリンク召喚の素材になったとき、レベル4以下のサイバース族モンスター1体をフィールドに守備表示で特殊召喚できる!現れろ、《RAMクラウダー》!さらに《ガジェット・トークン》1体でリンク召喚!こい、《リンク・スパイダー》!《ハニーボット》をエクストラゾーンに特殊召喚!」

「きたね、Playmakerお得意のリンク召喚!ああっ、《サイバネット・ユニバース》の効果で攻撃力越えられちゃった!」

「何度も突破されてきたくせに煽るな、うるさい。お望み通り、《ハニーボット》で《ライトロード・セイント ミネルバ》を攻撃だ!」


Playmakerの指示に従い、《ハニーボット》は相手を一瞬で屠る。200のダメージがゴーストを襲った。


「《ライトロード・セイント ミネルバ》が戦闘で破壊されたことでモンスター効果を発動するよ!デッキから3枚墓地に送って、《ライトロード》があったらその分フィールドのカードを破壊だ!」

「一応言うが《ハニーボット》のリンク先のリンクしているモンスターは効果の対象にはならないし、戦闘では破壊されない」

「わかってるよ!初めてデュエルしたときのこと思い出させてくれちゃってもう!やめてほしいな!よーし《トワイライトロード・ジェネラル ジェイン》が墓地にいったから《リンク・スパイダー》を破壊だ!」

「だが、もう1体の《ハニーボット》の攻撃は受けてもらう!」


追撃が襲いかかるが、ゴーストは笑ったままだ。相変わらず不気味なアバターである。


「俺のターンは終了だ」

「よーし、ボクのターンだね!」

ゴーストはカードを引き抜く。

「ふふっ、ちょっとばかし軽率だね、少年君!バックががら空きだよ!」

「言ってくれるな?こっちは耐性を付与したモンスターで固めてるんだ。一撃でやられるほどじゃない。アンタの今の墓地じゃ《裁きの竜》も《戒めの竜》も出せないじゃないか」

「そんなの関係ないね!君のターンはもう回ってこないし、このターンで決着をつけてみせるよ!」


ゴーストは高らかに宣言した。


「ボクは《闇の進軍》を発動!ボクの墓地にある《ライトロード》モンスター1体を手札に加えるよ。ボクが手にしたのは《トワイライトロード・サマナー ルミナス》!デッキからカードを3枚除外するよ!さあ、ここから一気にいく、ついてこれるかな!ボクはそのまま攻撃表示で召喚!」


黒いローブを翻し、白亜の衣装を身にまとった褐色の少年が、不思議な発光を繰り返す球体を手に召喚される。


「この子は1ターンに1度、自分の手札・墓地から《ライトロード》モンスター1体を除外して、そのままフィールドに特殊召喚することができるんだ。ボクはこの効果で《ライトロード・セイント ミネルバ》を攻撃表示で特殊召喚!」


少年の召喚に応じて、守護天使が傍らに降臨する。


「さらにカードを7枚除外して《妖精伝姫シラユキ》を攻撃表示で特殊召喚!」

「・・・・・・何をする気なんだ?」

「わかってるんじゃない?」


ゴーストは笑う。そしてカードを1枚掲げた。


「ボクは魔法カード《悪夢再び》の効果を発動!自分の墓地にある守備力0の闇属性モンスター2体を対象として発動できる!その闇属性モンスターを手札に加える!」

「まさかっ・・・・・・アンタの墓地にある守備力0のカードは3種類じゃないか!」

「ボクは《トワイライトロード・シャーマン ルミナス》と《ライトロード・セイント ミネルバ》を墓地に送り、すべてを無に帰す破壊竜が新たな世界に生まれ変わり今ここに光来する!きて、ボクのエース《破壊竜ガンドラーギガレイズ》!さあ、バトルだ、Playmaker!ボクは《ハニーボット》に《破壊竜ガンドラーギガ・レイズ》で攻撃!デストロイ・ギガレイズ!!」


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