If Story

▽ 2


「逆にそんな状況で葵はなんで高校通えたの?葵が通いたいって言ったとか?」

父親が葵を連れて日本に来たのは仕事の都合なのだろうが、それを機に葵を学校に通わせ始める意味がわからない。高校の入学時期がずれたという話も、家に閉じ込めておきたいという本心の表れだと感じていた。

葵は少しだけ思案する素振りを見せた後、口を開いた。

「お爺様が、通いなさいって、言ったので」

どうやら祖父の存在は父親に対して力を持っているようだ。葵からの少ない情報からでも関係性は理解できた。

「おい、ミチ。一旦その辺にしとけ。葵、飯食ってねぇから」
「え?あぁ、ほんとだ。何にも手付けてないね」

さらに質問を重ねようとした美智を止めたのは、黙って箸を進めていた彰吾だった。指摘を受けて葵のトレイを覗けば、何一つ減った形跡はない。

「嫌いなものあった?」

すぐにメニューを決められそうにない葵のために美智は勝手に自分と同じものを選択したが、その時も一応は確認したはずだ。

「いや、多分食べるタイミング分かんないっぽい。人と話しながら飯食うこともないんだろ」
「そう?でも、パパとはどうしてるの?」

葵の様子を観察していた彰吾は自分の出した結論に自信があるようだが、さすがに会話の合間に自分の食事をとる隙を見つけられないなんてにわかには信じがたい。

だが、葵から聞き出した情報をまとめると、彰吾の読みは当たっていたと分かる。父親の前で葵が口を開くことは禁じられているらしい。だから共に食事をとることはあっても、葵側が話すことはない。

「本当に“愛玩人形”なわけね。さすがにちょっと引くなぁ」
「ちょっと、なのか?」
「うん、お人形さんみたいなのは可愛いとは思うから」

彰吾の趣味ではないだろうが、美智は父親の嗜好に近いものは持っている。葵と会話したくないとは思わないし、さすがに無気力無反応ではつまらないけれど、可愛く従順な存在が欲しくなる気持ちは分かる。

「とりあえず、こっちのことは気にしないでごはん食べていいよ、葵」

美智の言いつけにこくりと頷いてようやく箸を手に取るところも可愛いと感じてしまうのだ。

「さすがにここまで常識とかけ離れた育ち方してると思わなかったね」
「まぁな。どうすんだ、この先こいつ」
「パパが可愛がり続けるんじゃないの?」

礼儀作法はしっかりと教え込まれているのか、綺麗な所作で箸を扱いながら静かに食事をし始めた葵を見ながら、彰吾と共に彼の行く末を案じる。

自分のことを話されているというのに、葵は美智の言いつけ通りぴくりとも反応せずこちらを見向きもしない。聴覚をシャットダウンしているという表現が似合う。

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