If Story

▽ 3


「疲れちゃった?」

怒られるとでも思ったのか、葵は首を横に振って否定したが、疲弊しているのは明らかだ。

これでも馨なりに気は遣ったつもりだ。不規則とはいえ合間に睡眠も取らせたし、体を繋げる回数も控えたはず。じっくりと全身に愛撫を施し続けはしたが、ここまでダメージを受けるのは予想外だった。

「まぁいい。とにかく点滴は避けたい。ここに針を刺すなんて、葵も嫌でしょう?」

クッションを抱える葵の腕に指を這わせながら問うと、葵は素直に頷いた。

過去葵が食事を拒んだ時に止むを得ず、そうした手段をとりはしたが、葵の体に傷を付けるのは馨にとって何より許しがたいこと。葵が回復した後ではあるが、きつく罰を与えたことはしっかり覚えているようだ。

ベッドサイドのテーブルに置いたトレイを引き寄せれば、葵は静かに体を起こした。今食事をとらなければ許されないことが分かったらしい。

「いいよ、パパが食べさせてあげる」

震える手でレンゲを掴もうとする葵を止め、馨が粥を一口分掬って口元まで運んでやる。

こうした行為に及ぶのは、なにも葵が弱った時だけではない。食事をとることすら管理される様が、葵の無力さを感じて馨を満足させるからだ。馨の手から離れれば葵は生きていけない。そう実感できる。

葵の心はともかく、体の飢えは限界だったようだ。最初の一口こそ苦しそうに飲み込んだものの、比較的スムーズに器の中身が減っていく。

粥を半分ほど食べさせたところで、馨はニコラスが用意した果実入りのゼリーも葵に与えてやる。あの優秀な秘書は葵の好みもしっかり把握しているようだ。

「手の掛かる子は可愛いというけど、本当だね」

少しずつ血色の良くなっていく葵の頬に触れながら、ついそんな台詞が口をついて出てくる。手の掛かるよう仕向けたのも馨なのだけれど。

「おいで、葵」

腰掛ける場所をスツールからマットレスに変えて葵を誘えば、素直に布団から姿を現した。向かい合うように膝の上に招き、きつく抱き締める。

週末あれだけ共に過ごしたからか、ほんの数時間離れていただけでこの温もりが恋しくて堪らなかった。

「どうしてこのベッドで寝てたの?」

葵も同じ気持ちだったのだろうか。そんな思いで問い掛けても、葵は当然のように言葉を発さず、馨を見つめてくるだけ。

葵は間違いなく馨の物で、完全に手中に収めているはず。何もかも思い通りに育て上げたというのに、それでもまだ、どこかで葵は馨に染まりきっていない気もするのだ。不思議な感覚だった。

「愛してるよ、葵」

心からの愛を紡いでも、葵は馨の胸に頬を預けてくるだけ。教えた通りに動いているはずの葵に時折どうしようもなく焦燥感が湧き上がる。

葵がその心の中で何を考えていたとて、馨から逃げられるはずもない。

馨は己にそう言い聞かせ、腕の中の存在に口付けた。

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