If Story

▽ side彰吾


元々朝練のある部活に所属していたからか、朝には強いほうだ。何の用事がなくとも、人混みに揉まれるぐらいなら、早起きをして空いた電車に乗ることを選ぶくらいに。

だが今は試験期間中。いつもより電車も、そして最寄駅から学校までの通学路も心なしか人が多い気がする。直前に悪あがきをしている生徒の姿は彰吾の目には馬鹿らしく映った。

だから校門をくぐって少し進んだところに出来ていた人だかりを見つけた時、当然のように無視をして通り過ぎようとした。どうせ試験にまつわる何かで騒いでいる生徒達がいるのだろう、と。

けれど、その中心に見覚えのある色を見つけ、思わず足を止めた。

真っ黒の詰襟を身に纏った小さな塊が地面に蹲っている。その髪色は白にも近いブロンド。葵だ。その横で、焦ったように声を掛けるのは世話役だという颯斗。

彰吾には彼らに手を差し伸べる義理はない。面倒ごとは嫌いだ。けれど、どんな形であれ飢えてもいた。葵に触れたい、そんな感情が湧き上がり、気が付くと遠巻きに二人を観察する生徒達をかき分けていた。

「葵」

声を掛けると葵は少しだけ視線を寄越したが、顔を上げることも辛いようだ。ただでさえ色の白い肌が、今は青ざめている。

「何があった?」
「あ、いや、ちょっと分かんないです。車から降りたら急にふらついちゃって」

何とも頼りない世話役だ。颯斗と話しても埒が明かない。仕方なく屈んで葵と視線を合わせその額に触れるが、どうやら熱はないらしい。

「葵、何がつらい?」
「……ちかちか、する」
「あぁー、朝飯食ってない?つーか、寝てない?」

葵の目元にうっすらクマらしきものが浮かんでいる。彰吾の問い掛けにどちらも軽く首を縦に振るから、貧血と寝不足の影響で立ち上がれないのだと予想はついた。試験に向けて無理に徹夜でもしたのだろうか。

とにかく、一度横にしてやったほうがいい。彰吾が葵の体を担ぎ上げると、野次馬から声が上がるが、また新たな憶測を生み噂が流れることなど別に構わなかった。

「たしか保健室でも試験受けられるはずだから。担任に伝えとけ」
「え、でも」
「お前が運べんの?」

葵を彰吾に預けるのが不安なのだろう。颯斗は渋ったが、彰吾ほど安定して葵を抱きかかえてやれる自信はないようだ。悔しそうにしながらも諦めて葵の学生鞄を差し出してきた。鞄は主と同じく、驚くほど軽い。

「ごめ、なさい」

彰吾のシャツに力無くしがみついた葵からは、小さく謝罪の言葉がもたらされた。こちらが勝手に手助けしただけ。こうして葵を抱き上げることがある意味、彰吾の目的だった。だから本来は謝罪も礼も必要ない。

「覚悟しとけよ」

でも、つい脅すような台詞が出てくる。この体の軽さも、甘い香りも、うっすらと伝わる温もりも。全てが彰吾を煽ってくる。このままベッドに連れて行って、ただ葵を寝かしつけて終われるか危ういほど。

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