If Story

▽ side馨


今日は予定よりも早い時間に帰宅することができた。すでにパジャマ姿ではあるから先に入浴を済ませてしまったのだろうが、玄関まで迎えに来てくれた葵を見て、馨は自分の機嫌が極端に上向くことを感じる。

「ただいま、葵。いい子にしてた?」

抱き寄せてキスを落としてやれば、葵からも腕が回ってくる。湯上がりなのか、それとも眠いのか、葵の体は少し火照っていた。その肌に直に触りたくなり、キスの合間にパジャマの裾から指を滑り込ませる。

「どうしようね。このまま食べてしまいたくなるよ」

葵の学校の予定を細かく把握している父からは、明日から中間試験だと釘を刺されている。はっきりとは言われなかったが、葵が万全の体調で試験に臨めないような悪戯はするなということなのだろう。

ここが玄関前の廊下であっても関係ない。思いの向くまま肌を覆うパジャマを剥ぎ取り、全身を可愛がってあげたくなる。傍に控えるのは馨に忠実な使用人のみ。止める者はいない。

「今週の土曜は学校お休みだよね?」

第二・四の土曜日は授業が休みということはさすがに馨も把握している。明々後日がその日であることも。確認すれば、葵は肯定の頷きを返してきた。

ということは、その前日の夜からたっぷりと葵を可愛がれる。それが分かれば、今は我慢ができそうだ。

「出来るだけ早く帰るからね。いい子に待っているんだよ」

夜にまた会食らしき予定が入っていた気もするが、キャンセルすればいい。今はもう葵との時間を最大限長く楽しむことしか頭にない。

休みの間中ベッドの中で過ごす経験は何度も葵にさせている。だからそれを予感したのだろう。頷きはするものの、馨のジャケットを掴む葵の手が少し震えていた。

葵はダイニングテーブルで試験勉強に励んでいたらしい。明日は数学の試験があるのだと、広げられた教科書を見て馨は察する。

「いいよ、続けて」

馨の居る場で馨以外に集中することを基本的には許していない。だからジッとしている葵に声を掛けてようやく、葵は机に向かい出した。

いい成績を取るよう、おそらく父から吹き込まれているのだろう。馨以外の命令を聞くことは気に食わないが、致し方ない。

父がその気になれば、葵を藤沢家の本邸に移すことなど簡単に成し遂げられる。馨を良き後継として振る舞わせるためにそこまでの強引な手には出ていないが、あまりにも反抗し続けるのは得策とはいえない。

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