If Story

▽ 2*


「あぁぁ、んんッ」

過敏になった箇所に爪をぐりぐりと食い込ませれば、やはり葵からは悲鳴のような嬌声が上がる。布越しの愛撫でこれだ。ブラウスを脱がせて直接触れれば、葵はさらに悦ぶに違いない。

「唇も噛んじゃダメだよ。わかってるね」

息が上がるのを堪えるように口元に力を込めたのに気付き、馨はもう何度したか分からない注意を口にする。

葵自身でさえ、この体に傷を付けることは許さない。物心つく前から馨がずっと言い聞かせている約束だった。馨の前で余計なおしゃべりをしないことも、二人の間の決め事。だから葵は馨の言いつけに、ただ頷きで返事をする。

「ん……あ、んッ」

先ほどまでとは違い、ブラウスの上からそっと撫でてやると、葵は優しい刺激に痺れたように背を預けてくる。

葵に纏わせているのは、甘みの強い花の香り。シャンプーも、ボディーソープも、入浴剤も。全て同じブランドのもの。だから葵が馨の腕の中で揺れるたび、その香りがふわりと漂ってくる。

「葵は本当に可愛いね」

誘われるがままに葵を抱き締め、そして首筋に口付ける。香りのせいなのか、肌まで甘い味がするような錯覚に陥ってしまう。

「着替えはあるから、安心しなさい」

再び左右の飾りに指を這わせると、葵は言葉の意味を理解したらしい。小さくイヤイヤと首を振られてしまう。

基本的に葵はいい子に言うことを聞く。逆らえば馨に怒られることを嫌と言うほど理解しているからだ。だからこれは反抗ではない。淫らな行為の合間の恥じらい。馨も叱らずに見逃してやる。

「それなら向こうに着くまで耐えられる?」

もう一度、葵の首が振られた。

ここ数日は帰国の準備が大詰めを迎え、じっくりと葵を可愛がる暇もなかった。自慰をすることは許していないし、そもそも教えてもいない。

日常的に弄ばれることに慣れた身体は、たった数日でも疼いたに違いない。だから今もこれだけの刺激で我慢できなくなっているのかもしれない。

「今さら脱いだって遅いでしょう?」

どうせ下着はとっくに先走りで濡れているはず。暗にそう指摘してやれば図星だったのか、葵の頬がますます紅く染まった。

「いつまでもウブだね、葵は。そこも可愛いんだけどね」
「や、んッ……あぁ」

片方は爪で弾き、もう片方は押し潰すように、バラバラに愛でると葵の体はますます震え出した。そろそろ限界が近いだろう。

「葵、イク時の顔、ちゃんと見せなさい」

迫り上がるものを堪えるように体を丸める葵に囁けば、彼はぴくぴくと肩を跳ねさせながらももう一度背中を馨の胸に凭れかけてきた。そうすると葵の表情がよく見えるようになる。

「いい子だ、葵。それじゃあイこうね」
「あっ、ん……ふぁ…あぁぁッ」

戯れではない。今度こそ葵を絶頂に導くために胸への刺激を激しくすると、ほどなくして葵からは甘い叫びが聞こえ、そしてくたりと力が抜けてしまった。

「あと十時間。何して遊ぼうね?」

小刻みに震える熱い体を抱き締めながら、馨は残りのフライト時間を告げてやる。

葵から溢れた溜め息は期待か、諦めか。それとも両方か。なんにせよ、馨は数日ぶりの我が子との密事をまだまだ終わらせるつもりなどなかった。

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