重く響く言葉。
顔を上げたまま、無表情で一点を見つめる。

見つめた先には十字架。
誰だかわからない、知らない人の為に作った墓。


何も言わず、ただ見つめるだけ。

祈りもせず、ただ ただ、見つめているだけ。




のくらい時間がたったのだろう。
その子は動こうともせず、じっとしているだけ。


動かないその子を置いて、その場を去る。

遠ざかる足音と背中。
その姿を見送り、また十字架へ目を戻す。


誰の為かわからない。
自分でもどうして作ったかわからない。
ただ、あの日々がもう……戻らないとわかっているから。

だから作ったのかもしれない。











どのくらいたったのだろうか。
多分、そんなには経っていないと思うけど、長い時間が過ぎた気がする。

ただ見つめているだけの時間。


足音がした。
だんだんこっちに近づいてくる。


振り返れば、さっきの人。
どうしたのだろう、と見ていると、その人の手には花束。
そっとその人は花束をお墓に置いた。


「墓を作ったのなら、花束が必要だろう?」

「…そうだね」


その人が笑う。
自分もつられて笑う。
ふんわりと、笑えたような
……泣けたような気がした。






二人で見つめるもの。

それは誰かわからない
誰かの為に作ったもの

でもただの誰かじゃない


じゃあ 贈ろう
その誰かの為に

誰かわからないけど
その誰かの為に



だから贈ります



『誰かの為の花束を』 end



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