師弟関係













「久々知って、お前に似てるのな」






小平太にそう言われたのは、五、六年生合同授業の時だった。


「…似てるかぁ?」


首を捻りながら、文次郎と組み手をしている兵助に目を向ける。


「ははっ 外見じゃなくて。…ほら、文次郎がイライラしてる。久々知にも自覚は無さそうだけど」


小平太が食満に楽しそうな笑顔を見せた。











「体の動かし方がそっくりだよ、お前ら」



















***














ふと、部屋の戸の外に誰かがいる気がした。


「どうしたの、留?」


不思議そうな顔をする伊作を残して、食満は部屋の戸をガラリと開ける。


「なんだ、お前か」

「っ!!」


そこにチョコンと立っていたのは、井桁模様の制服を着た一年生。


「どうした?何か用か?へーすけ」


食満を見上げて兵助はしばらくモジモジしていたが、やがて手に持っていた空の器を差し出してきた。


「食べた…」


小さな声で言う兵助に、ふっと笑って、食満はその頭を撫でた。


「そっか。偉いなへーすけ」


嬉しそうに頬を染める兵助を見て、伊作も寄ってくる。


「なになに、一年生?」

「あぁ…って、こらへーすけ」


伊作を見た途端、食満の背中にサッと隠れる兵助は、どうやら人見知りも持ち合わせているらしい。


「僕、二年は組の善法寺伊作。君は?」


人好きのする笑みを見せる伊作に警戒を僅かに解いたのか、兵助がソロソロと顔を出した。


「…一年い組…久々知、兵助」

「兵助くんかぁ。よろしくね」












それから、兵助は食満たちの部屋に度々訪れるようになった。


「お、来たか兵助。いっちょ相手してくれよ」

「またですか…加減くらいしてくださいよ。俺は食満先輩みたいに根っからの武闘派じゃないんですから」

「阿呆か。お前相手に加減なんかしたら、負けちまうだろ」

「……………そんなこと言って、いっつも勝たせてくれないんだから…」


この数年間で、もう何回組み手を重ねてきただろうか。


最初は、食満が兵助に体の動かし方を教えていただけだった。


しかし勉強熱心で…負けず嫌いな兵助の成長は目覚ましく、ある程度様になってきた頃からは、日々組み手の応酬となっていった。









『はい、俺の勝ち』


『〜〜〜〜っ!!もういっかい!!』


『お、やるか?』


『留ー、ちゃんと加減したげなよ?』


『いさく先輩!手加減なんていらない!!』


『よく言った、へーすけ。んじゃ二回戦な』


『お願いしますっ!!』

















「俺の勝ち、だ」

「…はぁっ…はっ…くっそ…、本気でやりやがって…」

「あぁ?何か言ったか?」


兵助らしくない荒れた口調も、食満の前ではそうそう珍しくもない。

疲労困憊の兵助と比べて、食満は涼しい顔である。

そんな食満を見て、兵助は少しだけ笑ってみせた。










(ああ…やっぱり、)










(かっこいいな)












「?何笑ってんだよ」

「…何でもないです。後でもう一回やりますよ」

「やる気だな。それでこそ俺の後輩だ」
















***














「次!六のは、食満留三郎!五のろ、竹谷八左ヱ門!!」


教師の声が響き、食満が小平太に背を向けて歩き出した。


「…当たり前だろ」

「え?」


高学年になってからはお互い顔を合わす回数もめっきり減り、いつからか呼び方も変わってしまったが









(あいつに組み手教えたの)







(誰だと思ってんだよ)













その口元には、僅かに笑みが浮かんでいた。



























お ま け







「あー畜生!!」


「なんだ文次郎、久々知にやられたのか?」


「五年だと思って手加減した俺が馬鹿だった…油断した」


「手加減など無用。その油断が命取りだ、阿呆」


「ぐっ…そ、それより、久々知にやられたのに何故か留三郎にやられた気分なのが気にくわん!!」


「なんだ、俺がどうかしたか」


「いいところに来たな!勝負しろアホ用具!!」


「あぁっ!?臨むところだボケ会計!!」




















2012.7.3






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