summer splash!(兵+竹+食+七)
竹谷と兵助は森の中を歩いていた。
「はー、終わった終わった。楽勝だったな、今回の忍務」
竹谷が伸びをしながら言うと、兵助はたしなめるように眉を寄せた。
「まだ終わってない。何度も言ってるだろう、学園に─…」
「学園に帰るまでが忍務だってか?遠足じゃあるまいし」
「はち!」
まったく、生真面目過ぎるのは兵助の長所なんだか短所なんだか
恐い顔で睨まれて、竹谷は肩をすくませながら歩を進める。
すると、遠くの方からサラサラと川のせせらぎが聞こえてきた。
「ん…川があるのか?兵助、ちょっと行ってみねぇ?」
「はぁ!?さっき言ったばっかだろ、寄り道すんな馬鹿!」
「大丈夫だって少しくらい。予定よりだいぶ早く終わってんだからさ」
今日の忍務は本当は兵助一人のものだったのだが、念のために竹谷を助っ人に連れていけと言われたのだ。
確かに一人では厳しかったかもしれないが、二人でこなすには簡単すぎる忍務だった。
「おい……ったく…」
ザカザカ進んでいく竹谷に、兵助も溜め息をついて仕方なく後に続く。
「おー、随分と綺麗な川じゃん」
キラキラと光る水面に竹谷は目を輝かせて、当然のように川に入っていった。
そんな竹谷を、兵助は呆れながらも何だかんだ微笑ましく見つめている。
と、その時─…
「あれ?竹谷と久々知じゃないか?」
聞き覚えのある声のする方へ目を向けると、
「七松先輩。食満先輩も」
「なんでこんな所に?」
不思議そうな顔で小平太たちに尋ねると、食満がやれやれといった風に答えた。
「忍務帰りに小平太が川の音がするってんでな。ちょっと寄ってみたんだよ」
「なんだ。俺たちと同じですか」
「先輩たちまで寄り道するなんて…」
頭を振る兵助に、食満は苦笑いを返す。
「ほんとは駄目なんだがな。先生にはお互い内緒ってことで」
「はぁ」
まぁこちらも寄り道しているわけだから、あまり非難は出来ない。
兵助と食満がそんな会話をしていると、川から竹谷の悲鳴が聞こえてきた。
「ちょっ、待っ…うわ冷てっ!」
「わはははは!」
見ると、小平太が竹谷に水をかけなから追いかけ回している。
「くっそ…やったな!」
「甘いぞ竹谷!」
竹谷が反撃に出るが、小平太は軽くかわしている。
竹谷も楽しそうだ。
「ふー気持ちいいなぁ。おーい、兵助もこっち来いよ!」
「…いや、俺は…」
手を振って辞退しようとする兵助に、食満が笑いかけた。
「行ってこいよ。荷物見ててやるから」
「…でも」
ほんとは行きたいくせに素直じゃない。
ククッと笑うと、何ですかと兵助に睨まれた。
「まぁそんな遠慮すんなって…なぁ、小平太?」
「ああ!」
「え?」
食満の目に悪戯っぽい光が宿り、背後の気配に兵助は身の危険を感じた。
ガッと服を掴まれたかと思うと、食満と小平太が声を揃えて兵助の身体を持ち上げる。
「「せぇのぉっ!!」」
「え、わ、わぁあああああああっ!?」
ふわりと身体が浮いたかと思ったら、次の瞬間には盛大に投げ飛ばされていた。
バッシャーンと派手な水音をたてて、兵助が川に落ちる。
「大丈夫か兵助!」
全く心配していない、むしろ爆笑している竹谷が駆け寄ってきた。
全身びしょ濡れ状態の兵助が、髪からポタポタと水滴を滴らせながら竹谷に手を伸ばす。
「うん?……うぉっ!?」
その手を掴んで引っ張り上げようと思ったら、グイッと逆に強く手を引かれた。
兵助に覆い被さるように倒れた竹谷もまた、ずぶ濡れになっている。
「お前…」
竹谷が半眼で兵助を見やると、兵助の肩は小刻みに震えていた。
「くっ…くく…」
「兵助?」
「あはっ あははははは!!」
腹を抱えて笑いだした兵助に、竹谷は目を丸くした。
こんなに弾けるような笑顔を見せる兵助は珍しい。
「どーだ、久々知?気持ちいいだろ」
川岸からは、食満が腰に手をあてて満足げにこちらを見ている。
「はい…冷たくて、……とっても!!」
兵助は竹谷に目線だけで合図を送り、瞬時に理解した竹谷と一緒に思い切り食満に水をぶっかけた。
「いっ!?」
予想外の攻撃に、食満にもろに水が降りかかる。
「てめー…やってくれたな…」
ニヤリと不敵な笑みを見せると、食満も川の中に飛び込んできた。
「待ちやがれゴラァッ!」
「待ちませーん!」
あははと笑いながら逃げ回る竹谷と兵助の前に、小平太が立ちふさがる。
「私も混ぜろー!!」
太陽が照りつける森の中、
響く笑い声は
真っ青な空に吸い込まれていった。
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リクエスト元「五年と六年でほのぼの」
あざみ様のみお持ち帰り可。
2012.8.26
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