花より団子(五年生)
「そうだ、花見に行こう」
唐突に三郎が言い出した。
部屋に集まっていた四人が一瞬静かに三郎を見つめ、笑い出す。
「お前…そんな『ちょっと町に行こう』みたいなノリで…」
「三郎の思いつきは学園長並みだなぁ」
「僕はいいと思うよ。お花見」
雷蔵がにこにこ笑って賛成すると、兵助が首を捻りながら口を開いた。
「でも、今って桜…」
「思い立ったが吉日だ。早速おばちゃんに弁当作ってもらおう」
兵助の言葉を遮って三郎が立ち上がる。
「えっ 今から行くのか?」
「当たり前だろう。今日は天気もいいし、花見日和だ。どうせ暇してるんだろ」
「まぁ、暇だからここにいるんだけど…」
竹谷と勘右衛門が、戸惑いながら顔を見合わせる。
「そうと決まったら、お前らも着替えてこいよ。準備出来たら正門前な」
ほれほれと三人を追い出すと、三郎は部屋の戸をピシャンと閉めた。
「仕方ねーな。俺らも着替えるか」
「そだね」
「………」
竹谷と勘右衛門の後に続きながら、兵助がチラリと三郎たちの部屋を振り返る。
(ま、いっか)
何となく三郎の考えてることが分かった気がした。
***
「咲いてねーじゃねぇか馬鹿野郎!!」
竹谷の叫び声が響き渡った。
「あはは…」
「そういえば暖かくなったのって、つい最近からだもんな」
雷蔵と勘右衛門が苦笑う。
「すまなかったな。あまりの陽気に、もう咲いてるものかと思ってた」
蕾が膨らんではいるものの、満開には程遠い桜の木の下に、三郎が茣蓙をひく。
「嘘つけ。お前、咲いてないの知ってただろ」
呆れ顔の竹谷に目をやり、三郎はふふんと笑った。
「まぁいいじゃないか。いい天気に変わりはない。せっかくのおばちゃんの弁当を無駄にするのも勿体無いしな」
「それもそーだね」
勘右衛門がよいしょと茣蓙に腰を下ろす。
「あ、三郎。一輪咲いてた」
「でかした兵助。さぁ、健気に咲く桜を皆で愛でようじゃないか」
そう言って三郎が人数分の杯に酒を注いだ。
「三郎、お酒まで持ってきたの?」
「どっから持ってきたかは、もう聞かねぇよ…」
全員が茣蓙に座ったところで、乾杯する。
「たまには外で昼飯食うのもいいなー」
「ピクニックみたいだね」
「桜が咲いてたら尚良かったけどな」
「うまい」
好き放題食い散らかしながら言うと、三郎が酒を飲みながらニヤリと笑った。
「じゃぁ、桜が咲いたらまた来ようぜ」
「……そういうこと」
雷蔵がふふっと笑う。
(みんなで外で宴会したいだけじゃない)
既に皆酔いが回り、実に騒がしい光景になっている。
「雷蔵、飲んでるか?」
兵助が雷蔵の隣に腰掛けた。
珍しく兵助も少し顔が赤く、上機嫌そうである。
「飲んでるよ。…兵助さ、三郎の意図に最初から気づいてたんじゃない?」
雷蔵の問いに、兵助はふふっと笑った。
「なんとなく。でも、俺もみんなと騒ぎたかったから」
「そっか」
「雷蔵、楽しい?」
兵助がへらっと笑いながら、雷蔵の口に団子を突っ込んできた。
「むぐっ…!」
兵助らしくない暴挙に目を白黒させながら、なんとか団子を飲み込む。
「っはぁ……う、うん」
「俺も楽しー。…あ、こらぁはち!それ俺の豆腐だぞ!!」
ぎゃははと笑いながら逃げる竹谷を追いかける兵助に、三郎と勘右衛門も楽しそうに目を細めている。
「楽しいよ…すごく」
ポツリと呟いて、雷蔵は空を見上げた。
桜の枝の隙間から見えたのは、雲一つない綺麗な空だった。
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リクエスト元「久々知と伊助を中心に火薬委員会か、五年生」
流羽様のみお持ち帰り可。
2012.04.03
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