私と腹黒王子の買い物―後編―




「あ、アリス!もう、心配したんだ――ぐぇっ」

とりあえず迷子センター前にいたシャルの腹に一発いれておいた。
後ろで迷子センターのお姉さんが首を傾げていたが、私は人の良い笑みを浮かべお手数をお掛けしたことを謝罪する。

「兄が早まったみたいで申し訳ありません。彼、重度の心配性なもので...私がお手洗いに行ったのを迷子になったと勘違いしてしまったみたいです。忙しいのに本当にごめんなさい。」

頭を下げれば、お姉さんは「気にしないでください。合流出来て良かったです。」と笑ってくれた。
私の説明が不服なのだろう、ムスッと頬を膨らませたシャルが何か余計なことを言う前に、私は彼の手を引き迷子センターを後にした。




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「ちょっと、なんで俺が悪いことになってるのさ?」

迷子センターから離れて開口一番。
シャルはこれでもかと眉を寄せ不機嫌を隠さずにそう言った。
ピキリと脳の血管が音を立てた気がするが、なんとか平静を装う。

大丈夫、私は24歳の大人。ここで怒ったら負けよ。

「あのね、普通に考えて中学生を迷子センターでコールする?小学校低学年までならまだ分かるわよ?
でも私は14歳、中学二年生なの。自分で考えて自分で行動できる歳なの!しかも携帯で連絡取り合えるんだからなんでもうちょっと待てなかったのかな??」

にこやかーに、わかりやすーく、説明していく。
しかしシャルは眉間のシワをそのままに、腕を組んで反論した。

「携帯でいくら連絡しても繋がらなかったから迷子センター行ったんだけど?
何回電話かけて何通メール送ったと思ってんの?」

えぇ、えぇ。存じてますとも。
こちとらそれ見てドン引きしたし恐怖に震えたんだよ。

「それでも、シャルが連絡くれてから30分くらいしか経ってなかったじゃない。まだ買い物してるんだな、もう少し待ってみようって思わなかったの?」


「待たされるの嫌いなんだよね、俺。」


清々しいくらいに言い切ったなこいつ。


ぴき、ぴき...あぁ、脳の血管に負担が掛かってる。
14歳で血管切れて救急車で運ばれるとか嫌だなぁ。
考えたことなかったけど、見た目は14歳、でも肉体年齢は24歳だったりして。
内蔵とか血管とか脳は歳取ってて、大人しかかからないような病気にかかったりしてさ。
で、病院の先生に「えらく歳を取った子供だ」とか言われるのかな。うん、いい得て妙。

なんて現実逃避をしてみるも、「ねぇ、聞いてる?」というシャルの声に現実に引き戻される。


「聞いてます。あなたに抗議したところで無駄だと分かりました私が悪うございました大変申し訳ございませんでしたこれで満足ですかコノヤロウ。」

半ばヤケクソに謝罪する。
シャルは微妙な顔をしていたけど、それ以上は何も言ってこなかった。
代わりに、


「お腹空いた。なんか食べようよ。」


ほんっとに!
どこまでも自由なやつだなコンチキショウ!!







 * *







「・・・オムライス、好きなの?」

とは、私の言葉である。

「いや別に。アリスが好きそうだなと思って入ったんだけど違った?」

目の前の彼はビーフシチューオムライスを口に運びながらそう答えた。

「・・・・」

悔しいがその通りだ。
オムライスもハンバーグもカレー、は甘口なら好きだ。
所謂、子供が好きな食べ物が大好きなのだ。

(どうにも、色々と読まれてる気がするなぁ。)

彼には、私の体が成長しないということは伝えていない。
「本当はいくつなの?」と聞かれはしたが、それにも答えていないので彼は私の事情を知らないはずだ。
それでも、彼なりに色々と推測を立ててはいるだろう。

(・・・探られてる?)

彼はこういう何気ない会話の中で私から情報を引き出しているのだろうか...。


「アリス、ついてるよ。」

「・・・へ?」


それは、不意打ちだった。

彼の右手が私に伸びてきたと思ったら、その手は私の口元に触れて・・・


「――――っ!?」


「あ、アリスのトマトソースも美味しいね。」



こ....この男っ!!!!!


漫画でしか有り得ないと思っていた、

『口にソースついてるよ。・・・ぺろ。うん、美味しいね(にっこり』

をやりやがった!!!!!!!!!!



「な...な..なに、をっ!!」

「あはは、アリス顔真っ赤!そんなに免疫ない?」

「――――っ」



前言撤回!!
こいつ私を探ってなんかない!
ただのさっきの仕返しだっ!
私で遊んでるんだっ!!

オムライスを選んだのだって、

・好きだった場合
→『ほらやっぱり子供じゃん』と心の中で嘲笑う

・好きじゃなかった場合
→『えー残念(ざまぁ)』と心の中で嘲笑う


さっきの"ぺろっ"なんて私が真っ赤になるの分かっててわざとやったんだ!!!
場所を教えてくれれば自分で拭くのにその隙さえ与えなかった...っ。

自分はとことんこの男の手のひらのうえで転がされているのだと思うと、怒りがふつふつと沸き上がってきそうだ。


それでも―――



「ほら、そんな睨んでないで早く食べなよオムライス。で、夕飯の材料買って家に帰ろ。」



10年前の事件で家族を亡くして以来、交わすことのなかったやり取りに。

目の前の笑顔に。


どうしようもなく懐かしさが込み上げて...。



「・・・分かったわよ。」



腹立たしいはずなのに。
一緒になんて住みたくなかったはずなのに。

心の奥は隠しようもないくらい、


(嬉しい、んだろうな。)











    


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