フェイタン!
フェイタンは、何だかんだ優しいことが最近分かった。
フェイタン!
皆がお仕事に行っている間、私は一人でお留守番。
手探りでホームの中を歩くのにもだいぶ慣れた。
でも、たまに躓いて転けそうになる。
そんな時、決まってフェイタンは私を支えてくれた。
「ふん、お前転けるのが趣味か。どんくさ過ぎるよ。」
素っ気ない声音。
だけど、私の腕を掴んでいる手は温かくて、好きだった。
「フェイタン、いつも転けそうになったら腕、掴んでくれる。」
笑いながら言うと、ふんって返ってきた。
「たまたまよ。それより、どこ行くか。
仕方ないから連れててやるよ。」
そうして、私は毎回フェイタンに手を引いてもらう。
フェイタンは余り喋らない。
シャルに聞くと、あれは“無口”と言うそうだ。
フェイタンとお留守番の時は、いつもホールで無言の時間を過ごす。
フェイタンは毎回本を読んでいる。
パラリ…とページを捲る音が心地良くて、私はいつもその音に耳を傾け、いつの間にか寝てしまう。
そして、気付いたらいつもベッドの上。
あれ?と思って起き上がると、
パラリ…と近くでページを捲る音。
私はその音を聞くと、嬉しくなる。
「フェイタン」
呼ぶと、ページを捲る音が止まる。
「起きたか。お前、ホールで寝るの趣味か。毎回毎回運ぶの大変よ。」
不機嫌そうな声。
でも、不思議と温かい。
私は、色んな事が知りたかった。
だから、今日は聞いてみようと思った。
「何の本読んでるの?」
「拷m……お前には関係ないね。」
「?」
関係ないと言われてしまった。
「じゃあ、読み聞かせて!」
「は?何でそうなるか。
というか、読み聞かせなんて言葉どこで覚えたね。」
「クロロがね、読めないなら耳で聞けばいい。皆に読み聞かせてもらえ、って。」
「…………」
黙ってしまった。
しばらくして、パタン、と本を閉じる音。
その後に、部屋を出ていく音が聞こえた。
「……行っちゃった?」
ポツリと呟いた声は行き場を無くし、静寂に呑み込まれた。
しばらくして。
キィ…と扉が開く音が聞こえた。
「フェイタン?」
聞いても返事はなく、代わりに、トン、と近くで腰かける音がする。
パラリ…と本のページを捲る音。
そして――
「昔々、塔の上にとても髪の長いお姫様がいました。」
「――――!」
フェイタンが読んでくれたのは、
『塔の上のラプンツェル』
というお話だった。
フェイタン独特の喋り方が何だか可笑しくて。
たどたどしく読み聞かせてくれたお話は、
とても暖かかった。
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