歩む道が違えどまた何処かで




「・・・すっかり冷めちゃったわね。新しいハーブティを淹れてくるわ。」

「・・・あぁ。」



ゴン達のいなくなった部屋で、今はクラピカと二人きり。
自分から話そうと言っておきながら、私はなかなか会話に踏み出せないでいた。

新しい茶葉を入れ、ポットにお湯を注ぐ。
ふわりといい香りが広がった。



















コトっと小さな音を立てて、クラピカの前にカップを置く。

「・・・・・」
「・・・・・」

気まずい沈黙が私達を包んだ。

――このままではクラピカを呼び止めた意味がない。

私は意を決して勢い良く顔を上げた。

「クラピカ・・・あの、まずは、謝らせて。
幻影旅団と繋がっていたことを黙っていて、本当にごめんなさい。」

座ったままではあるが、私はクラピカに頭を下げた。
そんな私にクラピカは冷静な声音で問う。

「いつから、隠していた?」
「・・・軍艦のホテルで宝探しをしたでしょう?その時に、クラピカがクルタ族だと知ったの。その時からよ。」
「・・・・・なるほどな。」

何処か納得したように溜息を吐くクラピカ。

「だから、私達を・・・いや、私を避けていたのだな。」
「・・・ごめんなさい。クラピカがクルタ族だと知った時、距離を置かなければ、と思ったの。
だけど、みんなに幻影旅団と繋がっていると話すのが怖かった。みんなの優しい目が、拒絶に変わることを恐れたの。
・・・このまま言わなければ、試験の間だけでも“仲間”のままでいられると思って・・・私は、隠すことを選んだ。」

どちらにせよ、クラピカを傷付けてしまうことに変わりはなかっただろう。
だけど、本当に彼らを想うのであれば軍艦島で話し合うべきだった。
・・・エレフを使って、中途半端に距離を置くべきではなかったのだ。

「・・・隠していたのはこちらも同じだ。」
「・・え?」

溜息まじりにそう言ったクラピカに首を傾げる。

「私は・・・私のハンター試験の志望理由は“幻影旅団に復讐する為”だ。」
「―――っ」

直接的なその言葉に思わず息を呑む。
そんな私に構わず、クラピカは言葉を続けた。

「ゴン達には既に話してある。だが...ルーエルには話せなかった。」
「・・・どうして?」
「屈託なく笑うルーエルに、私の闇を見せたくなかったからだ。私が復讐者であると...暗い道を歩く者だということを知られたくなかった。」
「そんなっ、例えクラピカが復讐の為に今を生きているのだとしても―――、っ」

私はクラピカを否定なんてしない、と言おうとして、しかし私は咄嗟に口を閉ざした。
そんな私にクラピカは苦笑する。

「私の復讐相手が幻影旅団でなければ、ルーエルは私の生き方を否定しなかっただろうな。」

その言葉に、思わず目を伏せる。

どの口が、クラピカの生き方を否定しない、なんて言おうとしたのだろう。
軍艦島で、クラピカを牽制する為にあの歌を詠ったというのに・・・。

そんな私の気持ちを察したかのように、クラピカはあの時のことを口にした。

「軍艦島の時に詠ったあの歌は、私に宛てたものだったのだな。
私のことを知るはずのないルーエルがあの歌を詠ったことに偶然なのかと疑問を抱いていたが・・・今の話で納得がいった。」
「・・・本当に、ごめんなさい。クラピカの気持ちを無視した、最低な行動だったわ。」
「いや、私のために詠ったのだろう?奴等の強さを知るルーエルが奴等の心配をして詠うとは思えないからな。」
「・・・・・」

暗にクラピカが弱いと言っているようで申し訳なくなる。

「・・ルーエルとヒソカの戦いを見た時、次元が違うと思った。奴が旅団と関わりがあると知って、今の私の無力さを痛感したよ。
・・・幻影旅団は、ルーエルより強いのか?」

探るようなクラピカの瞳に、私は真剣に頷き返した。

「彼らとは4年間会っていないけど、恐らくね。
・・・ヒソカは、私を襲った日に私の死を手土産に旅団に入ったの。」
「――なに?」

軽く目を見開いたクラピカ。
クラピカにみんなの情報を売るつもりはない。
だけど、彼らの強さがどれ程のものなのかは教えておいた方が良いだろう。

――それが、復讐のストッパーになるとは思わないけれど...。

(それでも、クラピカが死ぬリスクが少しでも減ってくれたらと思う・・・。)


「これは情報屋として調べたことだけど、団員になるには団員ナンバーに空きがあるか、団員を殺して入れ替わるかの二択。
4年前の団員状況は分からないけど、ヒソカは私を団員だと思ったから殺そうとしたはず。
結果的に私は死ななかったけれど、殺した証拠として切り取った私の髪を差し出したのでしょうね。」

飛行船の中でヒソカが私に話した内容を思い出す。
彼は私の死を脅しとして使い団員になった。
だけど、ナンバーに空きが無ければ団員にはなれなかったはず。

「旅団のみんなは私を殺したヒソカを殺そうとした。ヤバいと思ったヒソカは咄嗟に私は生きていると嘘をついて私の命と引き換えに団員にしろと彼らを脅したそうよ。
だけど、旅団には旅団のルールがある。だから恐らくだけど、空きナンバーが無ければ私の命と引き換えだったとしても団員にはしなかったはず。」

そう――。
それは、ヒソカが1人、団員を殺している可能性があるということ。

「それはつまり、ヒソカが団員を1人殺していると言うことか?」

クラピカの言葉に私は頷く。

「・・・それでも、ヒソカに復讐しようとは思わなかったのか。」

少し辛そうに眉根を寄せたクラピカに、私は苦笑した。

「うーん、ヒソカは恐らく団員を1人殺してる。
だけどね、何故か不思議と私と関わりのあった人達は生きている気がするのよ。」

生きていて欲しいという願いというよりは、生きてるだろうという確信。

「私を育ててくれた人達の人数を確認してみたの。
旅団は12人の団員と1人の団長で成り立っている。
1人ね、足りないのよ。私を育ててくれたのは団長を含め、12人だった。」

そう、きっとヒソカが殺したのはその足りない1人。
何故って?
団長のことだもの。私と関わりのある人が死ねば私が悲しむことくらい分かってる。

だから、私と関わりのない1人の団員の存在をヒソカに教えた。

「こんな言い方は非道だと思うけど、私は私と関わりのない人の死はどうでもいいの。
だから、ヒソカを恨む理由は“私の命を使って旅団のみんなを苦しめた”。ただそれだけなのよ。」

だから、最終試験に12発殴ることで彼を許した。まぁ、あの試合の目的は復讐というより、ヒソカに完全な敗北を味合わせることで、今後私に手を出せないようにすることだったんだけどね。

――それが、旅団のみんなを安心させる一番の方法だから。


「だけどね、クラピカ。私がヒソカに勝てたのは、“相手を死に至らしめたら失格”っていう条件があったからに過ぎないわ。
殺し合いだったら、勝てたかどうか分からない。
ヒソカは・・・いいえ、旅団は最初から殺すつもりで戦っている。
実力に差がなくても、殺すことに特化した彼らは一切の躊躇いがないの。どこを攻撃したら死ぬかを一番分かってる。
殺すことに躊躇いがある・・・・・・・・・・・私が、勝てるわけがないのよ。」

その言葉に、ハッとしたようにクラピカは目を見開く。
どうやら私の言いたい事が正しく伝わったらしい。
グッと唇を噛みしめるクラピカに、私はそっと目を伏せた。

「私は、クラピカにも旅団のみんなにも死んでほしくない。だから、クラピカと旅団が出会わなければいいと心から願ってるわ。
だけど・・・クラピカは彼らを追うのでしょう?」

どこか諦めたようにそう笑えば、クラピカは私から目を逸らした。

「私は、同胞を皆殺しにした奴等を許す事は出来ない。奴等に復讐する為だけに今まで生きてきたのだ。
その生き方を今更変えることは、出来ない。」

苦しそうにそう声を絞り出すクラピカに、私も力なく頷く。

「えぇ、分かってる。
・・・クラピカに協力する事は出来ないけど、貴方が死なないことを私は望んでいるわ。」

そう告げる私にクラピカはグッと拳を握り締め、私へと顔を向けた。

「もし、私と旅団が敵対したら・・・ルーエルは奴等を助けるか?」

不安に揺れる瞳を前に、私は揺るぎない瞳で彼に答えた。

「死にそうな方を助けるわ。私はクラピカも、旅団のみんなも、どちらも絶対に死なせない。」

それだけは、絶対に譲らない。
どちらも裏切ることになるけど、それでも私はどちらにも生きていて欲しいのだ。

「私は私として動く。どちらの味方にも、敵にもならないわ。」

どんな言葉を重ねてもこれだけは曲げないと悟ったのか、クラピカはグッと唇を噛みしめ、そして小さく息を吐いた。
ゆっくりと、覚悟を決めたように顔を上げる。
真っ直ぐに私を見据えるその瞳に、私は彼が答えを出したのだと知る。


「ならば私にとって、今からルーエルは敵だ。」


その言葉に、ゆっくりと瞳を閉じた。

クラピカが立ち上がり扉へと向かうのが気配で分かる。
その気配が扉の前で不意に止まった。


「ルーエル。」


私の名を呼ぶその声に、私はゆっくりと目を開け扉の前にいるクラピカを見る。
相変わらず厳しい目を私に向けているクラピカだが、その声音はとても優しいものだった。

「私は、ルーエルに出会わなければ良かったとは思わぬよ。」

その言葉にハッと目を見開く。

「試験の間ルーエルが私にくれたものは本物だったと思っている。その優しさも、暖かさも、笑顔も...言葉も。」

ただただ目を見開くばかりで何も言えない私に、クラピカは柔らかく微笑んだ。

そして―――、



「私は確かに、ルーエルを好きだったよ。」



それは最後の別れの言葉なのだと、上手く回らない頭でも分かった。
彼を呑み込み閉まる扉を、ただただ見つめる。

パタン――という音が、私しかいない部屋に悲しげ響いた。


「――――っ、」


喉が腫れ上がって、うまく呼吸ができない。
声を出そうとして、しかし胸腔の辺りに圧迫感を覚えそれは叶わなかった。
出ない声とは反し、目からはポロポロと涙が溢れ出てくる。
私はその涙が溢れ落ちる前に両手で顔を覆った。








彼が最後に見せた笑顔に、優しさに、どうしようもなく胸が締め付けられた。

あんなに優しくて、悲しい別れの言葉があるだろうか。
彼はあの瞬間、私と過ごした時間全てを手放した。





私が旅団とクラピカの間に挟まれ悲しい思いをしないように――、


今この時、クラピカは、私を開放したのだ。







「――ごめんなさい。・・・・ありがとう。」







私の声は誰に届くことなく、静寂の中に溶け込んでいった。












 * * *









パタン――と閉まる扉。

数歩足を動かし、私は崩れ落ちるように座り込み壁に背をつけた。


「―――――っ、」



目頭が熱くなるのを抑え込むように、片手で目を覆う。


これで、良かったのだ。


ルーエルを大切に思うならば――、
彼女の幸せを願うならばあれが最善の方法だった。


だけど、

それでも....


「つらい、ものだな・・・。」


出た声が酷く掠れていて思わず苦笑する。


ルーエルと蜘蛛に繋がりがあると知って、怒りが込み上げた。
彼女は私を騙していたのか、私を裏切っていたのか、と。

だけど先程の話を聞いて、ルーエルの幸せそうに笑う顔を見て・・・


「やはり、ルーエルはルーエルなのだな。」


私が出会ったルーエルは、ずっと見てきた彼女の姿は、間違いなく本物だったのだ。
そのことに、自分でも驚く程安堵している。

だかしかし同時に、寂しい...とでもいうのだろうか。
私が彼女の隣に並ぶことは出来ないのだとハッキリと分かってしまった。
恐らくルーエルの恋人は蜘蛛の中の誰かなのだろう。
幸せそうに笑う彼女の中に、その恋人の影を見た気がしたから――。


私は、彼女の幸せを願う。
だが蜘蛛への復讐をやめるわけにはいかない。
彼女に譲れないものがあるように、私にとっても譲れないものがあるのだ。

だからこそ、私も決断しよう。


(―――お別れだ、ルーエル。)


私は復讐の為に、

私の中に芽生えたこの気持ちと共に今、ルーエルと決別しよう。





そっと手を退け、目を開ける。

真っ直ぐ見上げた先にある窓から覗く空は、何処か鈍色をしていた―――。










* * *








いつの間にか傾いた太陽が部屋を緋色に染める。
視界の端をちらりと掠めたその色に、私はゆっくりと顔を上げた。

吸い込まれるように窓際へと行けば、緋色の空には一隻の飛行船。
何故かその飛行船にクラピカ達が乗っているような気がした。

離れゆく飛行船をボーッと眺めていると、不意にノックの音が部屋に響く。


「・・・どうぞ。」

入室を促せば、扉はゆっくりと開きノックの主を迎え入れた。

「あの人達、行ったよ。」
「・・・そう。」
「ゴンはお別れの挨拶したかったみたいだけど、クラピカの様子見て俺によろしく伝えてくれって。」
「そっか。ゴンには悪いことしたわね。」

振り向いて苦笑すれば、扉の前に立ったままのエレフは悲しそうに眉を下げた。

「クラピカとは・・・仲直り出来なかった?」

その言葉にそっと目を伏せる。

「仲直り、というよりは・・・そうね、綺麗な形でお別れは出来たわ。」

エレフならこの言葉の意味することに気付くだろう。
そして正しく答えを導き出したエレフは、そっか...と小さく呟いた。

「もう、会わないつもりか?・・・ゴンとレオリオにも。」
「私からは、ね。」

結局私が選んだのは旅団のみんななのだ。
どちらとも馴れ合うなんて初めから無理なことだった。
私が旅団を求めたからこそ、クラピカは私の為に別れを告げたのだから。

「そっか。でもあの子が会いに来たら会うんだ?」
「もちろん。笑顔で歓迎するわ。」

にっこりと笑ってそう言えば、エレフはどこか安心したように笑った。

「じゃ、次はいよいよ旅団だな!4年ぶり、だろ?」

その言葉に、みんなに会いに行くということが急に現実味を帯び、私はビクッと肩を震わせた。
ドキドキと不安が一気に押し寄せる。

「そ、そうだよねっ!みんなに、そっか・・・会いに行くんだもんね。ど、どんな顔して会えばいいんだろう。えっと・・・ひさ、久しぶり!とか言えば大丈夫?それとも、ただいま、とか・・・いやでも勝手にいなくなっちゃったしごめんなさい、かなぁっ?!」

ペラペラとよく回る口は留まる事を知らず、もはや自分でも何を言っているか分からなかった。
そんなドギマギした私にエレフは思いっきり吹き出すと大笑い。

「ぶはっ、ルーエル子供っぽい!そんなに楽しみ?」
「た、た、楽しみなんてもんじゃないっ!楽しみ通り越してどうしようってなってる!!」
「くくくっ、そっかそっか。そうだよね、待ちに待った時だもんね。」
「子供扱いしないでよっエレフの方が年下のくせにっ!」

ニヤニヤと口元を緩めながら頭をポンポンするエレフに、私はどこか悔しい気持ちになりながらも素直に撫でられる。

今まで張り詰めていたものが、一気に解けた気がした。

「・・・色々なことが、あった気がするわ。」

ハンター試験が始まってから今日まで、日数にしたら数週間くらいだったと思う。
だけどこの4年の中で、何よりも濃い日々だった。

「ゴン達に出会って、ヒソカと再会して・・・少しでも隙を見せてはいけないと気を張り詰めて。
イルミとも仲良くなったわね。イルミと一緒に受けた試験で、エフリートとロイスさんに出会った。」

助けることの出来た命だと、今でも悔やむことはあるけれど。
それでも、彼の最期の幸せそうな笑顔とエフリートのスッキリとした顔を見れば、間違いではなかったのかもしれないと思える。

「初めてエレフと出会ったのは軍艦島だったわね。」

そう言って笑えば、彼も笑顔で頷いてくれる。

「初めから私のこと気付いてたの?」
「2次試験の時に魔力を使ったでしょ?その時から魔族がいるんじゃないかって気にはしてたんだ。
まぁ、あの時は不合格の危機だったから探すどころじゃなかったんだけど。
一応3次試験が終わって受験者から魔力の気配を探ったんだけど全く見つからなかったから、その時は不合格になったんだと思ってた。」

エレフの言葉に、あぁ...と納得する。
確かに私はあの時魔力を使い切って深い眠りについていた。
念でいうところの“絶”の状態になっていたのだろう。

「だけど、軍艦島で宝探しをする時にまた魔力の気配がした。その時にルーエルを見つけたんだ。
空色の瞳ですぐに分かったよ。君がルーエル=シャンテだってね。」
「そうだったの。声を掛けてくれたら良かったのに。」
「掛けようとしたけどね。でも、ルーエルすっごい上から目線なお嬢様って感じだったからやめた。」
「なにそれーっ?!」
「んー、マジであんな感じの性格の人だったら多分今傍にいないよ。俺、高飛車な人苦手だし。」
「・・・周りからもそう思われてたわよね。」
「まぁ、ルーエルの話を聞いてただけの人とか深く関わってない人はそう思ってるんじゃない?」

特にトンパさん辺りは...というエレフに、確かに、と納得する。
トンパさんの4次試験の時の怯えようは凄かった。

「まぁでも実際に話してみてすぐにあれは演技だって分かったけどね。
旅団の人達が大切にしてた子だからどんな人なのか気になってたんだけど・・・」

そこで言葉を切り、ジーッと私を見るエレフ。
そんなエレフに首を傾げながらも目を逸らさずにいると、彼はふっと目を細め優しく笑った。

「うん、彼らが大切にするのも分かるなって思った。」

その慈しむような笑顔と言葉に、ドキリと胸が跳ねる。
じわじわと顔に熱が集まるのが分かった。

「や、やだなぁ。そんな大したものじゃないわよ。」

慌てて目を逸らし、窓の外へと視線を移す。
何か別の話題を・・・と頭を必死に働かせていると、トン...と小さな音を立ててエレフの手が窓に触れた。
すぐ後ろに感じる彼の温もりに、胸が早鐘を打つ。

「なぁ、ルーエルの恋人って・・・シャルナーク?」

耳元で響く低音にぴくりと体を震わせるも、エレフから出たその名前に私は目を見開いた。

「なんで知って・・・?」
「その指輪。ルーエルは無意識だろうけど、ルーエルが不安になってる時や旅団の話をする時、いつも触ってる。」
「―――っ!」

全然気付かなかった。
そっか...私は無意識にシャルを求めていたのね。

「軍艦島の時にシャルナークの連絡先を知ってるって言った時の反応を思い出して、そうだろうなって思ったんだ。」
「・・・そう、よく見てるわね。敵わないなぁ、エレフには。」

そう言って苦笑する。
窓についた手に、少し力が篭ったのが分かった。

「まだシャルナークのことが好き?」

どこか切なそうに発せられたその言葉に、私は迷わずに頷く。

「えぇ、大好きよ。」

私の言葉にエレフは、そっか...と溜息混じりに呟いた。
窓についていた手が、ゆっくりと離れていく。
離れた温もりに、そっと振り返りエレフを見上げる。
前髪に隠れて表情が見えない彼に、私はある一つの可能性を口にするかしまいか、迷っていた。

(エレフは・・・私のことが好き?)

私だって馬鹿じゃない。
あれだけの優しさと言葉を貰ったら、もしかしたら、と思う。
ただの勘違いかもしれない。むしろそうであってくれたらと思う。

私は、今彼にこの事を問うべきなのだろうか...。

そんな事を考えていると、不意に彼の人差し指が私の唇を塞いだ。
驚いて目を見開くと、エレフは切なそうに笑いながら首を横に振る。

「それは、言っちゃダメ。」

そう言う彼に、エレフ...と名前を呼ぼうとして、しかし次に発せられた彼の言葉に私は小さく息を呑んだ。
「その言葉は言わないで。俺は・・諦める気はないから。」

エレフはそれだけ言うと、ポンと私の頭に手を乗せいつものようにニカッと笑った。

「ほら!旅団のみんなに会いに行く準備しなきゃ!とびきりの笑顔で会いに行くんだろ?」

その言葉にぎゅっと胸が締め付けられたが、それを振り払うかのように私も負けずにニカッと笑う。

「そうね!成長した私の姿を見てもらわなきゃ!」

ぴょんっとステップを踏むように前へと一歩踏み出す。
緋色に染まった空と遠ざかる飛行船を背に、私は扉へと歩みを進めた。


(歩む道が違えど、また何処かで――。)


また何処かで、彼らと再会できたらと願う。
その時はどうかお互いが笑顔でありますように。


「行こう、エレフ。」
「あぁ、そうだな。」


色んなことがあったハンター試験に別れを告げる。
そこで出会った大切な仲間達とは別々の道を歩むことになってしまったけれど。

それでも、また何処かで会えることを願って。




私は、私の大切な人達の元へ帰ろう。





「とりあえず部屋に戻って準備だな。」
「そうね、私も着替えなきゃ。その後に試験管の人達に挨拶に行きましょう。」
「分かった。じゃあ、準備出来たらロビーに集合な。」
「了解。」










    end



















PiPiPi...

  
     Pi..






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フレイヤ様


最終試験会場のホテルを出て右にある広場のベンチ
にてお待ちしています。


シャルナーク

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