二次試験




私達の命って、何の上に成り立っているのかしら?


無駄な命なんて、きっと1つもないのよ。








3

 





森を抜けると、大きなプレハブ倉庫のある広い場所に出た。
ヒソカを見つけると彼はニヤリと笑い、ある方向を指す。
彼の指した方を見ればそこには木に寄りかかり未だに気絶しているレオリオの姿。

「レオリオ!!」

駆け寄るゴンとクラピカを横目に、私はヒソカに念文字を綴る。

“ ありがとうございます ”

ヒソカは一瞬驚いた顔を見せた後、クスリと1つ笑いを溢すと、

“ どういたしまして ”

と同じように念文字で返してくれた。
私は満足気に笑うと、レオリオの元へと向かった。



元の原因はヒソカはだけど、レオリオを無事に運んでくれた事に関しては感謝を言うべきだと私は思ってる。

物事を全体で捉えたとき、私にとってヒソカは絶対に許せない存在。
だけど、全体ばかりを気にしていたら憎しみしか生まれないでしょう?
だから私は、今起こっている事実だけを切り取って接しようと思うの。

これはビスケが教えてくれた私の好きな言葉の一つだった。



「レオリオ、大丈夫?」

「腕の傷以外は特に問題ないようだ。」

「おいこらクラピカ。よく見ろ、顔だよ、顔。」

「ふふ、いつも通りね。」

フレイヤまで!?とショックを受けるレオリオの痛々しく腫れた頬に私は手を添える。

「少し動かないでね。」




− この者に“風の癒やし”を −




小さく唱えると、指先からひんやりと冷たさが広がる。

「な、なんだ!?急に冷たく…っ」

「腫れには冷やすのが一番でしょう?」

驚き慌てるレオリオに私がそう言うと、クラピカもレオリオの頬に触れ、目を見開いた。

「――っ!何をしたんだ?フレイヤ…」

信じられないものを見るかのように尋ねるクラピカに、私は悪戯っぽく微笑み言った。

「私、魔法使いなの。」

二人は口をポカーンと開けて私を見る。
その表情が可笑しくて、私はお腹を押さえて笑った。


「何笑ってんの?」

後ろからの声に振り向けば、そこには少しムスっとした顔のキルア。

「ぁ、キルア。ただいま。」

にっこりと笑ってそう言えば、チッとそっぽを向き

「余裕かよ。」

と悪態をついている。
そんなキルアの態度に首を傾げていると、ゴンがその後ろから、

「キルアってば心配だったんだって!
さっきキルアに話し掛けに行ったら、一番に“フレイヤは?”って聞かれたんだよ。」

「なっ!?ば、バカっ余計な事言うな!」

ゴチンっというなんとも痛そうな音と同時に、いったーいっ!というゴンの叫び声が響いた。
顔を真っ赤にしてゴンを殴るキルアと、殴られた頭を抑えて涙目のゴン。
そんな二人のやり取りに一瞬ポカンとしたが、だんだんと心が暖かくなってくる。
私は嬉しくなって思わずふふ、と笑った。

キルアの肩をトントンと叩き、こっちを向いたキルアに向かってお礼を言った。
キルアは照れ臭そうに頬を掻いていた。

「おーい、甘酸っぱいとこ悪いんだけどよ?」

レオリオがそろ〜っと会話に入ってくる。
“甘酸っぱい”の部分に反応したキルアは真っ赤になりレオリオをキッと睨んだ。

「フレイヤ、さっきのは一体どういう事なんだ?」

クラピカが真剣な面持ちで私に聞く。

「魔法使いって事?」

「え、魔法使い?フレイヤ魔法使いなの?」

「ばっか、魔法使いってのはおとぎ話の中だけだろ。」

驚くゴンとバカにするキルアに私は可笑しげに笑うと、自分が魔族であることを説明しようと口を開いた。

と、同時―。


グゴゴゴゴァァ...という獣の鳴き声のような音と共にプレハブのシャッターが開いていく。

時計を見れば時刻は、正午。



「二次試験、始まるみたいね。」

「そのようだな。」

「魔法使いに関しては、二次試験が終わったら詳しく話すわ。」

「当たり前に合格するみてーな言い方だなぁ、おい。」

「するでしょ?合格。」


当然のように言えば、4人ともニッと笑い“もちろん”と声を揃えた。







開ききった扉の奥にはソファに座る小柄で美人なお姉さんと、とても体の大きな男性。
その男性のびっくりするほど膨らんだお腹からは、先程から聞こえていた獣の鳴き声が。

「どーお、ブハラ。お腹は空いて来たあ?」

「聞いてのとおりだよ、メンチ。もー、ペコペコさ。」


「あれ、お腹の音だったんだ…。」

「人間とは思えねーな。」

「きっとあの人も魔族なんだわ。」

「「は?」」

私の呟きにゴンとキルアが、何言ってんだコイツ、みたいな顔で見てきたけどこの際無視だ。
ハンター試験にはどうやら同族がたくさんいるらしい。
私は胸を踊らせた。

「そういうわけで、第二次試験の課題は料理よ。
美食ハンターであるあたし達二人が満足する食事を用意してもらうわ。」

美人なお姉さん、メンチさんの言葉に受験生達はざわついた。
当たり前だ、何せ天下のハンター試験の内容が“料理”なのだから。

「りょうりぃ!?ここに来て?マジかよ…。」

「俺、料理なんて作ったことない…。」

ゴンとキルアもこれには言葉が出ないみたい。
そりゃ、12歳で料理なんてしないわよね。

そんな受験生の反応にメンチさんは満足そうに笑い、声を張り上げた。

「つまり、あたし達が一言『おいしい』って言えば晴れて二次試験は合格ってことよ!
私達がお腹一杯になった時点で試験は終了。簡単でしょ?」

(確かにルールは簡単で分かりやすいけど…。)

美食ハンターである二人を満足させる料理を、料理に関してはド素人な私達が作れると?

「くそ……料理なんざ生まれてこの方作ったことねーぜ。」

「まさかこんな試験があるとはな。」

クラピカとレオリオも得意分野ではないみたいね。
二次試験、これは結構ヤバいんじゃない?

受験生の間に緊張が走る。
一体何を注文されるのか…。

大柄の男、ブハラさんが満面の笑みで言った課題、それは――


「オレのメニューは大好物、豚の丸焼き!」


ポカーン。

受験生達の緊張が一気に解けた瞬間だった。

(豚の丸焼き…。そうね、料理よね…。)

「豚の種類に指定なし。
この森林公園に生息するやつだったら何でもオーケー!」

「それじゃあ、二次試験スタート!」

メンチさんの声を合図に、受験生達は一斉に森の中へと駆けていく。
ゴン達も我先にと森に入っていった。



「あんたも意地が悪いわね。“豚の種類に指定なし”なんて。」

「これぐらいは言わないと試験にならないだろ?」

「まぁ、豚の丸焼き、なんて美食ハンターが出すメニューとしてどうかとは思うけどね。」

「グレートスタンプは凶暴だから狩れるだけで十分試験になるとは思うけどなぁ。下手したら死んじゃうだろうし。」

「そうなんですか?」

「えぇ、あいつは一筋縄では…って、はぁ!?」

「びっくりした…。まだここにいたんだね、キミ。」

お二人が話に夢中になってたから邪魔しないように近付いたのだけれど…。
どうやら驚かせてしまったらしい。

「ちょ、アンタ何盗み聞きしてんのよ!?失格にするわよ!」

「え、え、違いますっ!私、ブハラさんに聞きたい事があったからここに来たんです!」

「試験に関する事なら一切、答えないわよ!ていうかアンタさっき盗み聞いたでしょ!
この森林公園にはグレートスタンプっていう豚しかいないって!!」

「そこまで詳しくは聞いてなかったですけど…。」

「ぬぁー!誘導尋問ね!?アンタ可愛い顔してやる事えげつないわ!!」

「ぉ、落ち着いてくださいメンチさん…。」

私は困った顔でブハラさんに助けを求めた。
ブハラさんもメンチさんを止めるのには手を焼くらしく、同じように困り果てている。
私は誰かいないかと辺りを見回し、遠くの木に身を潜めている人物を見つけた。


「あ!サトツさーーん!!」


「え?」


「ん?」
「サトツさん?」

「サトツさんにもお聞きしたい事があるんですーー!来ていただけませんかぁー?」

「この子、試験中だって分かってんのかしら。」
「ん〜、どうだろ…。」

大声で呼びかける私に、サトツさんは木からスマートに飛び降り私の元へと来てくれた。
その顔には若干の困惑の色。

「私がいる事、気付いていらっしゃったんですね。」

「さっき偶然見つけたんです。丁度良かった、聞きたいことがあったので。」

「なんでしょう?」

私はブハラさんとサトツさんに向き合い、やや緊張した面持ちで本題を切り出した。


「お二方は、その…“魔族”、ですよね?」


「は?」
「え?」
「まぞくぅ?」

「え…。あれ?違うんですか!?」

三人の顔が訝しげに潜められるのを見て、私は困惑した。

「だ、だってだって、サトツさん口がないのに喋ってるし…っ」

「ぇ、あー、これは大人(作者)の都合でして。」

「ぶ、ブハラさんだって人間とは思えない大きさです!!」

「食べるのが好きだからねぇ。成長しすぎちゃったみたい。まぁ、これも大人の(以下略」

「じゃ、じゃあ…」

「二人とも人間離れしてるけど、人間よ。」

「そんなぁ…」

私はガクーっとその場に項垂れた。
絶対に魔族だと思ったのに…。

「貴女は魔族なんですか?」

項垂れた私に手を差し伸べながら、サトツさんは聞いた。
私はその手を取って立ち上がりながら頷く。

「はい。手、貸していただきありがとうございます。」

「いえ。」

「魔族なんて書物の中でしか知らなかったけど、本当にいるんだねぇ。」

「はい。私は行ったことないんですけど、魔族の集落もあるみたいなんですよね。」

「行ったことないって、アンタそこで生まれたんじゃないの?」

「両親が死んですぐに別の国の方々に引き取られたみたいで…。記憶にないんです。」

「だから魔族探してるってわけ?」

「えぇ、同族の方にお会いしてみたいなぁって。」

やっぱり簡単には見つからないんですねぇ。と苦笑すれば、少し空気がしんみりしてしまった。

「お時間取らせてすみません!聞きたかったこと聞けたので、課題、やってきますね!」

パンっと空気を切り替えるように明るくそう言えば、三人とも笑ってくれた。
私も笑って森へと行こうとして、あ、と足を止める。

「私、情報屋やってるんです。
フレイヤって言うんですけど、何かあればお声掛け下さい。
依頼達成率は120%ですよ!」

お茶目にそう言い残し、私は森へと駆け出した。









「フレイヤ…って、あの子だったの!?」

「1年前くらいから一気に有名になったよね。」

「実力派との噂は聞いていましたが…まさかあの方が。
今年の試験、なかなか面白い逸材が揃っているようですね。」




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