みんな同じ気持ちで




さて――、と。

窓から射し込む日差しに目を細目ながら俺は伸びをした。
隣の部屋からルーエルが動いてる気配がする。

少し前の日常だ。


俺は少し急いで着替えて顔を洗った。
もちろん、髪も整える。

ザッと自分の部屋を見渡し、床に何も落ちてない事を確認して部屋を出た。


「おはよう、ルーエル。」

俺の声にピクッと反応して、ルーエルは嬉しそうに笑った。

そして満面の笑みでこう言うんだ。


「おはよう、シャル!」
















いつもの様に手を引いてソファに座らせる。
ふわっと髪を持ち上げれば、微かな違和感。

「あれ、シャンプー変えた?」

「昨日はパクに洗ってもらったの!」

「なるほどね。なんか香りが大人っぽいと思った。」

「大人っぽい?」


首を傾げるルーエルに、俺は少し考えた後、

「えっとね、パクみたいな雰囲気の女性の事かな。」

そう言った。
ルーエルにとっては一番イメージしやすいんじゃないかな。

「包まれる感じ?」

「うん、まぁ…そんな感じ。ルーエルには似合わないね。」

ははっと笑うと、ルーエルは頬を膨らます。


「いつかパクみたいになるもん。」


なんだか子供が頑張って背伸びしてるみたいで可愛くて。
同い年ぐらいなはずなのに、何故か微笑ましい気持ちになってしまった。


「ルーエルはルーエルのままでいいよ。」

そう言って髪に櫛を通す。

「今度ルーエルに似合いそうな香りのシャンプー盗ってきてあげるよ。」

「とる?」

「あー…と、買ってくるって意味ね!」


やば!

つい、いつもみたいに言っちゃった!




――今更、って思うかもしれない。

でも、俺はルーエルにはちゃんとした事を教えたかったんだ。
蜘蛛の俺が何を言ってるんだ、って笑っちゃうけど。

でも、ルーエルだけは大切にしたかった。
その純粋さを穢したくないと思った。


ルーエルの中の綺麗な世界を守りたいと――…。


ふっと自嘲気味に笑みを溢し、俺はルーエルの髪を梳いた。





* *





「世界には色があるんだ。」

「色?」

「赤とか青とか…って言葉で表すんだけど…。
これはルーエルの目が見えるようになったら、一つずつ教えようか。」

「見えるようになるの?」

「もちろん!もうすぐ――…」


ヴーヴー...とポケットで振動する携帯。


「ちょっとごめんね。」

携帯を確認すれば、メールが2件。





From:フィンクス
To:シャル
:団長
Sub:(件名なし)
==================================
自然が多くて住める場所を見つけた。
空き家で中も綺麗だから、ルーエル育
てるには良いんじゃねえか?
ホームからそう遠くもねぇしな。

今パクとシズクが部屋を掃除してる。
==================================





From:団長
To:シャル
 :フィンクス
Sub:プリン食べたいな
==================================
ナイスだ、フィンクス。
俺もさっき例の物を受け取った。
早い方がいいだろう。
俺が戻り次第、その場所に移動する。
住める状態にしておいてくれ。

シャル、ルーエルに伝えてくれ。
==================================





なんだかなぁ。

みんな、ルーエル大好きだよね。





To:フィンクス
 :団長
Sub:あいさー
=================================
<このメールに本文はありません>





=================================





「どうしたの?」

「ん?ぁ、ごめんね。
フィンクスと団長からメール来てたから返信してたんだ。」

「めーる?」

「そう、携帯やパソコンから遠くにいる人にメッセージを飛ばせるもの。」

「携帯?パソコン??」

「まぁ、便利な機械だよ。ほら、これが携帯。」


そう言って、ルーエルに携帯を握らせる。


「固くて四角い、、……?なんかとんがってる?」

「そう、俺のは手作りだから特別なんだ!
コウモリの形してるんだよ。」

「!コウモリさん?パタパタパタパターっ!」


ぇ。何それ可愛い。

コウモリの飛ぶ音のマネって...
教えたの誰だよ、いいぞもっとやれ。


「今度ルーエルにも作ってあげるよ。俺とお揃い!」

「おそろい?」

「同じものって事だよ!仲良しの証!」

「――!仲良しのあかし!…?あかし?」

「ははっ、仲良しだよっていうのを形にしたもの、かな。」

「……お揃いだと、仲良しって事でいいの?」

「うーん、まぁそんな感じかな!」


良くできました、って頭を撫でれば、ルーエルは気持ち良さそうに目を細める。



ヴーヴー....


「メール?」

「うん、正解!覚えたね。」

「えへへ。」

照れ笑いするルーエルに癒されながら、俺はメールを開く。





From:団長
to:シャル
 :フィンクス
Sub:プリン食べたいな
=================================
↑件名に何故誰も反応してくれない
んだ。


=================================







……。



「フィンと団長から?」



…………。



「…?シャル?」



そっと電源ボタンを押してメール画面を消す。
心配そうに顔を覗き込むルーエルの頭にポンっと手を置いて、


「いい、ルーエル?団長みたいな大人にはなっちゃダメだよ。」


満面の笑みでそう言った。

ありったけの気持ちと願いを込めて。



「……?」





不思議そうに首を傾げるルーエルを見て、俺は何となく大丈夫だな、と安心した。






[ 19/75 ]

[*prev] [next#]
[目次]

[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -