惚れた弱み

 放課後、お互いの隊員を待つため教室に残っていた。風通しがいいと言う理由で窓側に前後に座った。90度体の向きを変えて耳だけ千莉に集中する。
 聞きもしていないのに千莉はぺらぺらと伊鈴(姉)との模擬戦を話している。その声は熱を持っていて、いかにその模擬戦が楽しかったかを教えてくれた。
 こういうとき俺は何も言わず、せず。ただ黙ってその話を聞く。それが暗黙の了解だ。ちらりと横目で盗み見る。すっと通った滑らかな鼻筋に長い睫毛。女性特有の少し弧を描くそれは本人曰く生まれつきで特に何もしていないらしい。少し太めの眉を多い隠す前髪はさらさらとそよ風に揺られ、黄金の光を吸収した黒は一層艶やかに見えた。さらに頬は興奮の色が強く、それがどこか子供っぽさを与える。
 昔からの付き合いで、最初の方は何とも思っていなかったが、年齢を重ねるにつれ、こいつがいかにずば抜けた顔立ちをしているか知った。幼馴染みと言う手前味噌かもしれない。いや、あるいは俺がこいつにーー……いや違う。
 確かにきれいだと思うが、今は気に食わない。

「それでね、ただでさえ白兵戦慣れてないくせに駿ちゃんの真似してグラホ使って突撃してきたから思いっきり胴体一刀両断してやったわけよ!」

 左手頬杖を付き、今で自由だった右手がどんっと、まるで裁判官の木槌のような迫力を持って下ろされた。

「ねえ聞いてる? いつもは何も返さなくてもいいって思ってるけど、せめてほかのこと考えるのはやめてよ」
「……気に食わん」
「何がよ」
「片手で頬杖ついて話すのはやめろ。腹が立つ。やるなら両手でしろ」
「な、なんでよ?」
「そのほうが可愛いから。せっかく綺麗な顔なんだからもったいないだろうが」

 数拍置いて夕日より真っ赤になったのはどちらか。
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