書き納めSSS

※謎空間・謎時系列のこたつ(特に龍之介と木虎ちゃん)
・千莉と三輪
・龍之介と木虎
・緋子と佐鳥
・碧子と出水



◎年越し(千莉と三輪)

「おい、起きろ。起きろ千莉」

 去年は俺が防衛任務についていたため、一緒に年を越せなかった。そのため、今年こそは、と二時間前に意気込んでいた千莉はすっかりこたつに呑まれ、漕ぐ舟と一緒に首が左右に揺れている。今にも長い睫毛がくっつきそうだ。
 千莉は俺と年を越すためにシフトを変更し、ギリギリまで防衛任務についていた。いつもなら深夜の防衛任務の後でもそのまま個人戦になだれ込むぐらいケロッとしているのに今日に限っては何故かこの有様。
 惰性で見ていたテレビのアナウンサーが「今年もあと少しですね!」と言う。
 自分から言い出しておいて……。漏れるため息。
 絶対調子に乗るから本人には言ってないが、こちらもこのために防衛任務のシフトはもちろん隊長としてのデスクワークなど、すべて片付けてきた。すっきり来年を迎えるためだったり、去年から来る罪悪感もあった。だが、この時間を楽しみにしていたのは同じだ。だというのに……。
 気が付けばごろんと横になっている。これはもう駄目だなと思ったとき、言葉を覚えたての幼児のように舌っ足らずでとろんとした声で呼ばれる。
「なんだ」と言うが千莉は「こっち」としか言わない。 テレビを正面に千莉がその左側にいた俺に角に寄れということらしい。言われたとおりすると、千莉は体をくの字にして俺の膝に頭を乗せてきた。

「かたい……」
「当たり前だろ」
「でも、あんしんする……」

 そう言って千莉は完全に落ちた。
 その数秒後、テレビから新しい年を迎える歓声が上がった。



◎お鍋(龍之介と木虎)

「ひっ、ひぃ……」
「先輩、大丈夫ですか。お水です」
「あ、あひはほう……」

 先輩の顔は赤く、額はじわりと汗が滲んでいる。炬燵から来るものではなく、夕飯に食べた鍋のせいだ。私が辛いものが好きと言うことで、先輩は今日のために木崎さんや紗世さんに弟子入りした甲斐あって出された鍋は、かなり本格的でお店に出せるほど美味しかった。しかし当の先輩はあまり辛いものが得意ではなく、唇は膨れ上がり、舌も回らない。

「豆乳や卵で緩和することもできたでしょう」

 辛さのあまり薄らと涙を浮かべながらちまちまと水を飲む先輩。情けないと思っているのか、いつもに増して体を縮める姿は二歳年上とはあまり思えない。先輩に世話を焼くのは佐鳥先輩で慣れているが、それとは勝手が違う。

「いや、そうすることも出来たんだけど……」と舌は落ち着いたが、今度は言葉が濁る。辛いものが食べれないからといって、別に幻滅したり嫌うこともないのに。

「あ、あんまり美味しそうに食べるから、つい嬉しくなってさ。そしたら俺も同じものが食べたくなって……」

 やっぱり「かっこつけるつもりはないんだけど、やっぱ情けないよな」と眉を見事なハの字を作って己の醜態を笑う。まったく……。

「先輩はもっと身の程をわきまえるべきです」
「お、おっしゃる通りです……」
「でも、それは別として、私も先輩と一緒に美味しい鍋を食べれて嬉しかったです」

 今度はちゃんと対策して。



◎寒い(緋子と佐鳥)

 こんばんは、佐鳥です。今年も残すところあとわずか。オレはいま緋子先輩と一緒に炬燵でぬくぬくとしているわけなんだけど。

「これ、普通は逆じゃないですか?」

 背後からがっちりホールドされてる。背中には柔らかいものがぐいぐいあたってくるし、お腹に回された手は炬燵のものとは違う暖かさがじんわり伝わってくる。そしてしまいには左肩に顎が乗って、

「でも寒いって言いだしたのは佐鳥じゃん」

 と喋るたびにくっついてる頬がもごもご動く。いや、そうなんですけど。そうなんですけど! 正直背中から汗が止まらないし、心臓の音だって聞こえてそう。

「先輩。先輩のおかげでオレ十分温まりましたので……」

 すると先輩はオレから離れていった。あんなにべったりだったのにあまりにあっさりすぎて、背中から先輩の温度が消えていくのが酷く寂しい。別に向かいに移っただけなのに。もともとスキンシップの差が激しいせいで、その分オレの感情メーターも振り幅がすごい。はぁ〜とため息と一緒に天板の上を滑った。

「もうすぐ新年迎えるのにため息?」
「いいじゃないですか。むしろ今年の鬱憤は今のうちにってことで」
「拗ねてる?」
「拗ねてます」もう開き直って年下らしく堂々と拗ねる。「ねえ、佐鳥」と呼びかけられても沈黙で返す。

「寒い」
「え?」

 ばっと顔をあげればちょいちょいと先輩が手招いているのを見て、すぐさま抜け出す。先輩にやられたようにやり返すと「くすぐったいよ」と触れる肩が小刻みに揺れ、先輩とオレの温度が溶け合っていく。



◎みかん(碧子と出水)

 目の前でもくもくとみかんの筋と格闘している碧子がいる。
 俺の前には花のようにも見える皮がすでに四つ。対する彼女はまだ一つしか咲いていない。どうやら筋を取る派で、しかもかなり念入りだ。時折爪の間に入った筋を取り出すのでさらに時間がかかる。夢中すぎてさっきから俺がじぃと見ていても手元のみかんから目を離さない。目が合わないのは少し寂しいが、一発で長く綺麗に筋が取れたりすると、緩む表情が可愛くて可愛くて仕方ない。
 寂しいといえば、こうして二人きりでゆっくり過ごせる間柄になったというのに彼女との会話はトリオン体による内部通話。昔に比べればマシだが、やっぱり生の声が聞きたい一方で無理強いはしたくない。碧子も碧子で何とか喋れるように練習をしているのだから、俺はその意思を尊重したい。
 あれこれ考えながら五つ目のみかんが半分過ぎたとき、「うっ、すっぱ」と聞こえた。心の呟きがうっかり漏れてしまったようだが、本人は気づいていない。身を乗り出して彼女が剥いたひと房をぽんと自らの口に放り込んだ。

「うっ、マジで酸っぱ」

 想像以上のすっぱさに眉間にぎゅうっとシワが寄る。これはハズレだ。

「酸っぱいって言ったじゃないですか! なんで自分から食べるんですか」
「いや、どんくらい酸っぱいのか気になってよ。ほら、こっちで口直ししろよ」

 差し出したひと房のみかん。てっきりその細い指で受け取るかと思えば、俺の指に触れるか触れないかのところでぱくりと食べた。「え?」と俺の抜けた声に、どちらも無意識だった彼女も「え?」と返した。
|
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -