今からそいつを殴りに行こうか

「千莉先輩。あの、少し相談に乗ってもらえませんか?」

 今日はツイてる日だと思った。



 学校帰り、A級三馬鹿のうち可愛い可愛い駿ちゃ、駿くんを除いた馬鹿2人と模擬戦やろうぜと本部に連れてこられた。模擬戦にやる気がないわけではないが、ほぼいつものメンツなのでちょっと物足りない。というか三日前もこの同じメンツでやったばかりなので面白みに欠ける。新鮮味が欲しいが贅沢は言ってられない。
 とりあえずラウンジにいる暇そうな人を巻き込むことになった。

「さぁて誰にしよーかな」
 
 弾バカこと出水がラウンジを舐めるように見渡す。荒船先輩や村上先輩、カゲ先輩あたりがいると退屈しないんだけど、確か明日明後日にセンタープレテストがあるからたぶんいない。
 鼻歌交じりにレーダーになにか引っかからないか探っている出水の隣でぼんやりしていると、こちらに向かってくる小柄な影を見つけた。
 いつもは誰にでも物怖じせずぴんと背中を伸ばしているその子は珍しく眉をひそめて恐る恐るといった様子でラウンジに足を踏み入れる。

「あっ」

 声をかけようとしたとき、目が合った。
 ぱちくりと瞬きひとつ。可愛らしい大きな目が#あたしを見た。そして探し人を見つけたように少し頬を染めてこちらに来る。

「千莉先輩」
「双葉ちゃんじゃない!! ああ今日も可愛いわねえ!! 頭撫で撫でしていい?」

 普段自分から双葉ちゃんに絡みに行くことがほとんどで、逆に彼女から来るなんて数えるぐらいしかなかった。
 包み隠さず言うと、あたしは小さい可愛い子(ロリショタコンと言った龍之介には即効孤月を抜いた)が好きだ。特に中学生あたりが。まだ幼さと純粋さが残る顔立ちと『早く大人になりたい』と思って背伸びをしている姿、この時期しかない成長途中のアンバランスさがたまらない。頭を撫でる以外はノータッチなのでセーフだと思ってる。本人も満更でもない表情をするし。
 いつものちょっととっつきにくい声音で「はい」と許可が下りたのでそのまあるい頭をなでこなでこする。はあ可愛い……癒される……。
 しばらくエネルギーを補充してると、「あの、千莉先輩」と双葉ちゃんが口を開いたので「ん?」と返す。戸惑いとほんの少しの恥じらいを浮かべて双葉ちゃんはこう切り出した。

「少し相談に乗ってもらえませんか?」

 スンッと自分の顔から表情抜け落ちるのがはっきりとわかった。滅多に拝めないもじもじお願い双葉ちゃんに表情を殺さずにはいられなかった。そうでなければ今頃米屋か出水に通報されかねなかったからだ。
 表面は殺しつつ、内側では宇宙ビッグバンが起きていた。何なんだこの可愛い生き物は。むり死ぬ。いや生きる。でも無理。可愛い。死んでまう。
 手を後ろに回して左手の甲を抓ってなんとか理性を止めながら「じゃあ座って話そっか」と空いてる席に移動した。




「で、なんであんたらまで付いてくんのよ」

 ここは先輩らしく自販機でジュースを奢ってあげた。すると米屋と出水が「オレもオレも」と自販機のボタンを押そうとするので後ろからまとめて蹴ってやった。お前らに奢るぐらいならドブに捨てたほうがましだ。5本勝負で三回連続勝ち越してから言え。
 4人がけのテーブルにあたしと双葉ちゃんが向かい合うように座り、双葉ちゃんの左隣には米屋、あたしの右隣には出水が座っている。

「まあまあいいじゃねえか」
「ひとりで考えるより2人、2人より3人。3人寄れば文殊の知恵って言うだろ?」
「馬鹿が2人増えたところで何も変わらないと思うけど」
「お前が言うな!!」

 という茶番はさておき。本題に入る。

「相談してくれるのは嬉しいけど、そういうのは加古さんにしたほうが向いてるんじゃないかな?」

 双葉ちゃんが絶対的信頼を置いてる加古さんに言えば、どんな手を使ってでも一発で解決してくれるだろうに。あの人、人一倍隊員に過保護でゾッコンと言っても過言でもないから。そういえばこの間の双葉ちゃんトークは盛り上がったなあ。
 まあなんにせよ、数いる先輩の中で自分を選んだことは素直に嬉しい。今すぐにでも自慢して回りたい。

「加古さんには、ちゃんと話がまとまってから話そうと思ってるので……」
「そっか」

 双葉ちゃんには双葉ちゃんの考えがあるならばそれが最優先事項だ。尊重する。

「それで相談っていうのは?」

 答えようとするが開いた口は一度きゅっと結ばれ、しっかりとあたしの目を見ていた視線も逸らされた。恥ずかしそうに少し俯き、それでも言わなければという気持ちでやや上目遣い気味にこう切り出した。

「実は……好きな人ができたんです」

 双葉ちゃんの赤面上目遣いにすでに心のシャッターを198回切っていた。しかし爆弾発言に鉄壁の表情にヒビが入った。

「好きな、人?」

 ひゅーっと隣でヤジを入れる出水の足を思いっきり踏んづけた。米屋は相変わらずのニヤニヤ顔でジュースを飲んでいる。
 自分に言い聞かせるように繰り返すと、「はい」と双葉ちゃんは小さな声で頷いた。

 双葉ちゃんに好きな人が出来ただと……?

 相談は相談でもまさか恋愛相談を持ち込まれるとは露にも思っておらず、動揺が隠しきれない。そりゃ華の中学生だから好きな人のひとりやふたりできるかもしれない。だがそれを許容できるかと言われればまた別問題だ。双葉ちゃんに想われるなんて。
 隣で出水が「お前も一応華のジョシコーセーだろ」と茶々を入れてきたので今度は脛をえぐるように蹴ってやった。

「そ、そうなの」

 としか言えなかった。
 相手は誰だ?
 双葉ちゃんと関わりのある人物……一番身近で言えば駿ちゃんだけど、それはないかな。2人並んでたら大層可愛いけれど、たぶん違う。
 それじゃあ秀次のところの古寺くんか? この間のB級ランク戦のとき話してたな。すぐ隣に奈良坂と言う美形モンスターがいるせいでかすみがちだが、顔は悪いくないし、優れた戦術眼とスナイパーとしての実力は不測の事態に動揺しやすいけどこれからまだまだ伸びる有力株だ。年もそこまで離れてないし、まあ及第点だな。
 いや待てよ。この間のガロプラ防衛戦では犬飼先輩と仲良さそうにしてたな? 顔は古寺くんより上で実力も折り紙つきなんだけど、性格がなあ……。あの先輩遊人気質っぽいから心配しかない。というか高3と中1とかただの犯罪じゃねえか。ダメダメ。そんなのお母さんが許しません!!
 なんて考えていると、米屋が「だれ誰? オレらの知ってる人?」と無神経もあったもんじゃない聞き方をする。お前は切なく脆い乙女心がわからないのか!!

「えっと、そうです。みなさんよく知ってる人、です」

 双葉ちゃんの小さくて可愛らしい桃色の唇がその想い人の名前をなぞる。ああああ待ってまだ覚悟できてない!!

「龍之介先輩、暮林龍之介先輩です」

 右手に持っていたジュースパックが破裂した。
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