Who is the egoist?
これは2人がまだ大人になる前の話。
「じゃっ隊長!あたしこのあとオペレーターの報告会があるので!」
「僕達もまだC級の合同訓練があるので」
それじゃあと宇佐美は愛想よく手を振り、菊地原と歌川は軽く会釈してから離れていく。風間は小さく宇佐美の挨拶に手を振り、菊地原たちには「頑張れ」と声をかけた。
その入れ替わりに後ろから「やあ蒼也」と声をかけられる。変声期がまだ終わってないような高く柔らかい声。
「伊吹か」
「やっほー」
「最近どうよ?」と聞く伊吹。風間はラウンジの隅にある自動販売機から缶を2つ買うと、ブラックと書かれたほうの缶を伊吹に放り投げた。
緩やかな弧をえがいてそれは彼の手に収まる。
「ありがとね」
受け取り、ぷしゅっと封を切った。風間も同じようにミルクたっぷりのコーヒーを開けた。
「さっきの子たち、訓練生?」
「ああ、そうだ」
「背の高い方の彼、今期の新人王を争った1人だよね。もうひとりの髪が長い子は確か聴覚のSE持ちの子か」
「よく知ってるな」
「まあね、一応指導員で関わることあったし」
コーヒーをひと口飲んでから「それにしても」と続ける。
「さすが風間隊長。目のつけ所がすごいなあ」
「あいつらに目をつけたのは宇佐美だ」
「でもカメレオンと彼のSEを結びつけたのは蒼也でしょ」
「……まあ、な」
「彼らは強くなるよ」
「伊吹、何が言いたい」
鋭い眼光で伊吹を睨む。不良でも尻尾を巻いて逃げそうな視線にも伊吹は風間を一瞥するだけで余裕そうにコーヒーを飲んだ。そしてふぅと息を吐いてこう言った。
「彼らを復讐のための道具にしてはいけないよ」
その目は深海のように冷たく、暗い色をしていた。初めて見る伊吹のその瞳に風間はぴくりとたじろぐ。
「進さんのこと、あの子みたいに復讐に生きるのも蒼也の自由だけど、隊長の私情で可愛い後輩たちを巻き込むのは、僕は、どうかと思うよ」
そう言葉を締めると、いつもの人懐っこい笑みを浮かべた。