泣きべそ告白劇

「じゃーん! 佐鳥見てー!! もらっちゃったー!!」

 ちょうど防衛任務上がりに忘れ物を取りに本部に寄ったら緋子先輩が何かを広げて迫ってきた。

「ちょっちょっ先輩近いです! 近すぎて見えない!!」

 ひっつきむしのように人目を憚らず距離を詰めてくる。何とか押し上げて先輩の持ってるモノに焦点を合わせる。ばっと目に入ったのは眩しいほどの赤。

「これ、今月号の……」
「そう佐鳥が出てるやつ!!」

 緋子が手にしていたのはつい先日発売された三門市の広報だ。その中にボーダーの顔とも言える嵐山隊の独占インタビューなる特集が組まれていた。緋子が開いていたのは嵐山隊5人全員が仲良さそうに写ってる集合写真である。
 まさか先輩の手に渡ってるとは思わず、顔に熱が集まる。

「ふふーん佐鳥も男の子だねえ」
「な、なんですかその意地悪そうな笑顔は……」
「意地悪い言うな」

 正直どんな質問があって何と答えたかなど覚えてない。とりあえず広報に恥じない言葉を選んでいるが、この人を弄ることに一生をかけてる先輩に目をつけられてしまった以上どんな難癖をつけられるかわからない。そして何より、まさか先輩のほうから来るとは思ってもいなくて、色んな意味で心臓が激しく脈打つ。

「ほら、ここ」

 そう言って指したのはほぼ最後に近い質問。

「佐鳥も恋したいんだー?」

 Q.広報や防衛任務で忙しいと思いますが、恋とかしてみたいですか?

 嵐山:してみたいですけど、この前友人に「お前の恋人はボーダーだもんな」と言われたばかりなので(笑)。
時枝:おれは現状で満足してるのでいいです。
木虎:そ、そんなことにうつつを抜かしてる場合ではないので。
綾辻:私も嵐山さんと同じかなあ。
佐鳥:オレはしたいですね〜。青春なんてあっという間ですから!!

「あっそれは……」

 言葉に息詰まる。この時は根付さんにもたまには好きなこと喋っていいと許可をもらっていたこともあってつい素で言ってしまった。あとで添削なり何なり入るだろうとタカをくくっていた。

「い、いやでもほら言葉の綾っていうかなんていうかその」
「いいよいいよ佐鳥も男の子だもんねー恋のひとつやふたつしたいよねー」

 わかるよわかると強く頷く緋子先輩。

「で、誰なの?」
「へ?」
「だから、誰狙ってるのって聞いてるの」
「え、ええ?」

 ぐいっと一歩迫る先輩にオレは半歩後ろに下がる。近い、近い!! 近いですって!!

「いや誰が好きとかではなく佐鳥はみんなの佐鳥なんで、あの、その」

 そのときだ、緋子先輩の雰囲気がガラリと変わった。

「佐鳥は、それでいいの?」

 あんなにはしゃいでた声が急に色を変え、氷にも似た冷たさを持った先輩の言葉は見えない刃のように自分の胸に刺さる。なんだ、これ。戸惑いとなんと答えればいいかわからないオレに先輩はさらに踏み込んでくる。

「確かに佐鳥は嵐山隊で広報部担当でみんなの佐鳥だけどさ、」

 ――佐鳥は誰かの一番になりたくないの?

 ダメだ、と思った。

「佐鳥?」

 黙って俯くオレに先輩は何でもないような顔して覗こうとする。

 ダメだ。
ダメだオレ。
我慢しろ。
こんなところで、こんなところで。

「佐鳥!?」

 悲鳴のにも似た声に思わず顔をあげたそのときぽたりと頬を何かが伝った。
 それが自分の流した涙と気づくには少し経ってからだった。

「佐鳥どうしたの!? どこか痛いの!?」

 突然泣き出したオレに先輩は慌てふためく。

「いや、ちがっ」

 そうは言うもののとめどなく涙は溢れてくるし、自分でも何が何だかわからなくなっていた。

「と、とりあえず医務室行こう医務――」
「……先輩」

 先に行こうとする先輩の袖を掴む。ぎゅっと力を入れれば、先輩が「佐鳥?」やはり心配そうにこちらを見る。
 一瞬奇妙な沈黙が流れるが、次の瞬間には言葉が、ずっと言いたくて言えなかった言葉が出た。

「好きです」

 緋子先輩が、好きです。
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