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かの子「突然だが、戯曲形式になった!」
風香「は?」

(威圧感に塗れた声)

かの子「え、ちょっ、こっっっわっっ!!」

(恐れ戦くかの子)

風香「怖いもなにもいきなりすぎて意味がわからない」
かの子「いや意味がわからないっていわれても見たまんまだから……というか記憶が戻った瞬間当たり厳しない? ようやく自己紹介文の回収かな」
風香「何か言った?」

(右手をわきわきと力強く動かす)

かの子「いいえ〜なにも〜」

(顔を背けながら口笛で誤魔化す)

風香「……今回は一応情報整理会って聞いてるんだけど」
かの子「“回”だからあながち間違ってないんじゃない?」
宵「ようするにメタ的なあれですよーん」
かの子&風香「!?」

(宵の登場に驚く)

宵「どもども。不知火宵です〜」
かの子「お、おう? 同じく榎かの子です〜?」
風香「何でいまさら自己紹介……」
宵「ほら情報整理するならまずはそこからかなって」
風香「……」

(一理あるような気がするが何とも言えない表情)

風香「えっと、とりあえず展開についていけない千鳥風香です」
かの子「あれ、そういえばハルは?」

(辺りを見渡す)

風香「そういえばいないね?」
かの子「おっかしいなぁ。ちゃんと教えたんだけどなあ」
風香「おおかた沖田さんの尻拭いか何かで遅れてるんでしょ」
宵「お、噂をすれば」

(息を切らしながら駆けてくる)

ハル「ごめん〜遅れたぁ〜!!」
かの子「5分の遅刻な。バツとして人数分×3の団子買ってきて」
ハル「んんん!?」
風香「コラ、そんなこと言わないの」

(軽く頭を叩く)

宵「まあまあ。それじゃあ自己紹介をどぞ」
ハル「じ、自己紹介? えっと、芹野ハルでっす! 職業は国家公務員です!」
風香「一番まともだ」
かの子「というかハルの口から国家公務員なんて言葉が出るなんて思わなかったわ」
ハル「……なんかノッケから酷くない?」
風香「気のせいだよ」

(優しく頭を撫でる)

ハル「えへへへ〜」
かの子&宵「(ちょろい)」
宵「(まあそんなこと言い始めたら宵さんはほぼ無職みたいなものだから深追いはしないで起こっと)」



宵「さて気を取り直してこれまで我々の身に起きたことについてなんだけど」
ハル「はい!!」

(笑点のノリで挙手をする)

宵「はい、ハルさん早かった」
ハル「宵の顔が今にも死にそうなぐらい真っ青なんだけど、それ大丈夫なの!?」
かの子「あ、それうちも言おうと思ってた。船のときよかそりゃあ良くなってるけど、それでもやばくね?」
風香「……病院から、抜け出してきたんじゃないよね?」

(どこからともなく槍を構える)

宵「ちょいちょいちょい待ち。は、話せばわかるよん! これには一応理由がありまして、お願いですのでその物騒なものを一度置いて……」

(とりあえず置く)

風香「それで理由っていうのは?」
宵「ちょっと早めてもらったけど一応退院の許可はもらってるよん」
風香「……」

(黙って再び手に取る)

宵「ステイステイステイ。心配する気持ちも痛いほどわかるけど、お願いだから人の話をきいてください」
ハル「まあまあとりあえず聞いてあげようよ」
かの子「それいうたらハルも大概顔色悪くね?」

(咳払いをして誤魔化す)

宵「ちょいと無理して来たのは、まあ、何というか、自分のためっていうかある意味みんなのためなんだよん」
風香「というと?」
宵「全快状態だと言わなきゃいけないことだとしてもきみたちに都合が悪いものなら平気で隠そうとするからさ……。ちょっと弱ってる方が口が滑ってくれるかな〜と思いましてねん」
風香「……」

(眉を寄せ、何とも言えない表情で見つめる)

かの子「ん、まあ、確かに普通の宵ならその辺簡単にはぐらかしそうだもんね〜」
ハル「それな!」
宵「でしょ〜って、なんとまあ信用されてないことよん……まあわかってましたどねん」
風香「いままで散々やられてきたから当然でしょ」
宵「弁解のしようもないですん……」
ハル「でもそういう面を考慮して来てくれたのは立派な進歩ってことでいいんじゃないかな!」
宵「……あのハルにフォローを入れられるとは」
かの子「世も末吉だな」
風香「それを言うなら世も末だよ」
ハル「ひどい!! せっかくのひとのフォローを何だと思ってるんだい!!」
宵「……さてさてこのままだと雑談回で終わりそうだからこの辺で次り付けますかねん」
風香「いちいち突っ込んでたらキリもないしね」
かの子「始めるのはいいけど、まず何すればいいの?」
宵「ひとりずつ覚えていること、それからできればここに飛ばされる前の記憶があったら言ってほしいな」

(何か口にしようとして迷っている様子)

ハル「あ、宵ってば遠慮してるでしょ!」
風香「覚えていることっていってもみんな恐らく思い出したくもないものだろうから本当は言わせたくないんだよね?」
宵「う、うん、まあ」
風香「……」

(黙って見やる)

かの子「だいじょーぶ、と言い張るにはちょっと自信けど、でもやっぱりいまのうちらにはみんながいるから」
ハル「そーそー。……宵が思うほど、自分たちは弱くないんだよ」
宵「……余計な心配だったみたいだね」
風香「……」

(安堵と優しさに溢れた視線に変わる)

宵「ってちょっ、なんで頭撫でるのさ!!」
ハル「えへへ〜固いことばっかり考える頭をほぐしてあげようと思って」
かの子「あ、じゃあうちも撫でる〜」
宵「やめ、やめええええええい!! 背が縮むでしょうが!!」
風香「ん? 喧嘩なら買うよ?」
かの子「風香やっぱり気にしてたんだ」
風香「かの子もご所望かな?」
かの子「とばっちりッ!!」



・ひとつの世界線をループしてるわけではない
・世界を脅かす何かに巻き込まれ、それぞれ何らかの形で死亡する
・全員死亡で次の世界線に飛ばされる
・記憶の引き継ぎはまばら(今回は宵が一番濃く記憶に残っていた)
・それぞれの世界線での関係性、役割はある程度決まっている
・役割は4種類に分けられる
・ひとりは世界(多数)を守るために仲間(少数)を捨てる(世界のため)
・ひとりは仲間を守るために世界を捨てる(みんなのため)
・ひとりは上記ふたりの衝突をやめるように説得しようとする(みんながいる世界のため)
・ひとりは上記ふたりの衝突を防ぐために一番最初に行動する

風香「大まかにまとめるとこんな感じ?」
宵「状況を鑑みるにやっぱり前の世界で失敗したから次に“ここ”に飛ばされたみたいねん」
風香「そこのふたりついてこれてる……?」
かの子「なんとか?」
ハル「かの子に同じく〜」
風香「わかってるならいいけど」

(本当にわかってるのかなと疑心の目)
(ふたりしてあさっての方向を見て逸らす)

宵「現状誰がどの立ち位置にいるかはわからないねん」
風香「誰ひとり欠けてない、対立してない中でこれまで整理・情報共有できたことは大きいね」
宵「そうだねん。これから何が起こるかわからないのは怖いところだけど……」
かの子「まあそう悲観しない〜。これならこれから万が一ってのがあっても対策も取りやすいんじゃない?」
ハル「そだね!!」
風香「でもこれって何の因果(?)があって、そしてそのゴールって何なんだろう?」
ハル「う、うーん……」
かの子「ゴールとか関係ないんじゃない?」
風香「というと?」
かの子「誰も死ななきゃこれ以上のことはなくない?」
宵「はっはっはっ。ごもっともなご意見ですな」
ハル「そりゃあそうだよね。誰も死ななければいい話だよね! 平和が一番!!」
宵「その通りだわ」



風香「宵が持ってきてくれた茶菓子と一緒に一服したところで、宵」
宵「なんじゃらほいさっさ?」
風香「一発殴らせて☆」
宵「ハァン!?」

(某MGSで発見された時のSE)

宵「いやいやいやいやさすがの宵さんも展開についてけないんですけど、前置きの茶菓子必要だった? っていうか、『☆』付けるほど怒ってる?」
かの子「これは怒(おこ)てはるわ、確実に怒てはるわ〜」
ハル「こういう発言が一番ヤベーってザッキーさんが言ってた!」
宵「外野ヤジ入れない!」
風香「言っておくけど、宵が終わったら次は2人だからね?」
かの子&ハル「ハァン??」

(宇宙猫)

風香「別に飛躍した話じゃないでしょ、”これまで”のことはどうにもならないし、どうこうするつもりもないけど、“こっちに来てから今まで”に関してはいろいろやる権利はあると思うの」
宵「お、おう?」
風香「どうして相談しなかったの?」
かの子&ハル「あ(察し)」
風香「この中で状況を一番把握してた宵だよね?」
宵「い、いえす。そうだねん。でもさ、いきなりそんなこと言われてみぃ? 誰がわかってくれると思いますん? 信じてくれますん?」
かの子「(あ、こいつちょっと開き直り始めたぞい)」
ハル「(この風香に口答えするとは、おいおいこいつ死んだわ……)」
宵「かの子とハルはまだしも風香は“完全に”忘れてたんだよん?」
風香「……そうだね。だけど、あたしじゃなくても二人には話すことはできたはずだよ」
宵「それはさっき整理したはずだよん。誰がどうなのかわからない状況でおいそれと話せる内容でもないでしょん? 万が一というか今回が奇跡的に丸く収まったけど、これまでを考えるなら軽率に数を増やす危険性を冒すわけにはいかないよん」
ハル「(さっきまで美味しい棒茶でほかほかしてたけど、いまめっちゃ寒い)」
かの子「(これが噂に聞くツン……なんちゃら気候……)」

(ツンドラです)

風香「だとしても、なんで宵だけがこんな目にあわなきゃいけないの? いや宵だけじゃない、かの子もハルもこんな大怪我を負うことだって!」
宵「……」
かの子「……」
ハル「……」
風香「いまのあたしにはみんなみたいに自分で身を守ることすらできないし、記憶だってこれっぽっちもなかった。宵があたしたちのためにどれだけ心を砕いたか、きっとあたしなんかじゃ計り知れないほどだろうけど、苦しんだことわかるよ。全部全部あたしのエゴだってわかってる。でも、『でも』って叫びたくなるっ!!」
宵「それをいうならこっちもエゴだ。誰が味方か敵かなんてそう大きな問題じゃなかった。記憶が戻らなくてもいい、何も知らなくてもいい、覚えていなくてもいい、ただみんなにはいまあるそれぞれの生活を大切にして欲しかったッ」
ハル「――ちょっと待ったァ!!」

(某逆転する裁判のSE)

風香&宵「!?」
かの子「ちょっとちょっとふたりだけで盛り上がってんじゃないよ!!」
ハル「何のために4人いると思ってんのさ!!」
かの子「あのね、ふたりともエゴエゴエゴエゴってゲシュタルト崩壊するしながら言うけど、それじゃあね! うちも言わせてもらうけどね! うちは宵やみんなのこと忘れたままでいいなんて、そんなこと絶対ねぇから!!」
宵「かの子……?」
かの子「そりゃ確かにいま思い出しても胸糞悪いけどさ、全部が全部そんなわけないじゃん!! 例えわずかな間だけだったかもしれないけど、そこにあった楽しい思い出までなかったことにしないでよ!!」
宵「……」
ハル「こればかりはかの子の言うとおりだよ……。なんでそんな、ほかでもない自分たちが否定してどうするの……嫌だよ、そんなの……あんまりだよ」
かの子「うちは思い出さない方が良かったなんて思わないから。逆にずっとそのままにしてたらうちは死んだあとも宵を憎むよ」
宵「そ、そんなに……?」
かの子「そんなにだよ。地雷です地雷〜」
ハル「解釈違いも華々しいですぅ〜」
宵「……それをいうなら『甚だしい』」
かの子「しまらないなぁ」
ハル「う、うるさい!! 頭ぱっぱらぱーなかの子にだけは言われたくねえわ!!」
かの子「はいぃ? それ寺子屋でダントツ一位の成績とった自分に言います〜? 我一位ぞ? 一位ぞ?」
風香「その寺子屋って10歳以下の子対象のところだよね?」
宵「あながち間違っちゃない気がしなくもないけどねん……。でも、そっかぁ。はぁ〜そっかぁ……なーんだそんなもんかぁ」
風香「宵」
宵「ごめんね、一人突っ走って。しかも無様に転んだ挙句結局みんなに手を貸してもらうんだから。ざまぁないね」
かの子「まあそれを言うならうちも体調全然万全じゃないのに無謀にも乗り込んではばちくそにやられてごめん」
ハル「自分もかの子たちの大切なものを守るためとは言えいろんな人に迷惑かけてしまったし、なによりみんなが一番大変な時に傍にいなくて、守れなくてごめんなさい」
風香「なんでみんなが謝るの……? 無知と無力を免罪符に詰ったのはあたしで、言いだしたのもあたしなのに……ごめん、ごめんなさい……」
全員「……」
ハル「あーーーーーーもうこれでいいじゃん!! やめよやめよ! 自分こういう空気ほんと無理なのっ!!」
かの子「わかりみ〜〜〜〜。もうやだ、おらぁこんなお新香みたいな空気きらい!!」
宵「えーっと、それはお葬式かなん?」
かの子「やっべ宵の手土産の名残でくどいものが食べたいのがバレちまったぜ」
ハル「やーい食い意地張ってる〜」
かの子「うるせーおれ知ってんだかんな、こっそり宵の分ひとつとってたこと」
宵「……どおりで」
ハル「いや、あの、ソノデスネ、うっかり間違えたというか、えへっ☆」

(盛大な溜息とともに脱力する宵)

宵「風香さんや、お茶をいっぱい淹れてくれぬかのう。宵さんはもうツッコミに疲れたよん……」
風香「もうだめだ、ほんとに収拾つかないやつじゃん」
かの子「ついに風香も匙を投げた」
ハル「ということではい終わり!! ちゃんちゃん!!!!」
宵「ハイハイ」
風香「じゃあお茶のおかわり淹れてくるね」
ハル「おなしゃーす」
かの子「……忘れてたけど、ここ宵の家だよね?」
宵「たまに掃除しに来てもらってるから☆」
風香「こうして使われるのも慣れてたよ……」
宵「まあまあ。今度隠れ家的茶店連れてってあげるからさ〜」
かの子「えっ、風香だけずるい〜! うちも行く!!」
宵「お金はどうすんのさぁ。悪いけど、宵さんはびた一文出さないからねん」
かの子「大丈夫だ、問題ない。どうせ銀ちゃんのへそくり場所なんてわけもないし?」
宵「それじゃあ来週の定休日とかどうかねん?」
かの子「おk〜」
ハル「ちょっとちょっと自分も連れてってよ!! さも当たり前のようにはハブらないでよぉ!!」
かの子「でもハルその日休み取れる? そりゃあうちらだって好きでハルハブってるわけじゃないよ」
宵「この間もオキタくんがどうのこうので緊急招集かかって行っちゃったじゃん」
かの子「だいたいおっきーくんのせい、はっきりわかんだね」
ハル「あのクソガキがァ!!」
風香「こら、そんな汚い言葉使わないの」

(人数分のお茶を入れて戻ってきた)

風香「で、なんの話ししてたの?」
宵「ん?」
かの子「そりゃあ、」
ハル「楽しい思い出はこれからまた作ろうねって話だよ!」

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