彼の目にまつわる二篇
※繋がってるようで繋がってないような微妙な2つの話
彼の目は不思議だ。
彼の優しさを含んだタレ目はだいたい一緒に上京してきた勝呂くんや三輪くんに向いている。そして大の女の子好きと豪語するように塾ではしえみちゃんや出雲ちゃんにも向く。
けれどふと思うときがある。彼は、彼または彼女らを本当に見ているのか。
もちろん彼の瞳には相手が映っているだろうけど、物理的なものではなくて、もっと目に見えないような、概念に似た何か。上手く言葉にする術がないのが歯がゆい。
忙しく色々な人に目を向けては、見てるようで見てない。同じく全体を見ているようで否。
目は口ほどにものを言うもので、どんなに言葉で飾って、隠して、繕っても目だけは否が応でもその真意を映してしまうものだと知っている。
一度、彼に言ったことがある。
「志摩くんの目って面白いね」
すると彼は目を丸くしてぽかんと首をかしげた。目が綺麗ではなく、面白いと言われてすぐに何か反応できるものではない。
きっとこれまで他人の目を、機敏を過剰なほど気にしてきたあたしだからこそ気づいた。いやもしかしたら、もうこの時点で志摩くんという存在が自分の中でとてつもなく大きなものになっていたのかも。それがただ“惹かれた”ものなのか、彼の奇妙な目に“取り憑かれた”のかわからない。
でもほんの一瞬、彼の愛想があってひとを茶化すのが上手な顔から一切の色が落ちたとき確信した。
しかし彼はすぐに瞬き1つすれば、もうそこにはいつもの志摩くんがいて、
「せやろか? あ、タレ目やからやろか?」
と、何事もなかったように笑った。
【不思議なことを言う彼女の話】
志摩くん、と良く目立つ髪色にひょろりとした後ろ姿を見つけて呼んだ。
あたしは今、普段と同じように彼の名前を言えただろうか。ある日を境に彼という存在はあたしの中で隅にいるのに確実に大きく成長した。それももう見ないふりもできないぐらい。
それはきっと“好き”という単純なものでありながら、それ以上に彼の裏、いや本当の志摩廉造と言う人間を暴きたいという酷く暴力的なものが多分に含まれている。
学校であまり顔を合わすことはなくとも、塾ではもう聴き慣れたあたしの呼び声にくるりと上半身を回して「お、奏ちゃんや!」といつものにへらぁとだらしない笑顔で迎え入れてくれた。
あたしの向ける感情など、お構いなしに涼しい雰囲気を醸し出すのは彼の出身地によるものか。一見親しそうに見えても決して一線を越えさせない、踏み込ませない強固な意志があった。それはやっぱり彼の目が如実に訴えていた。
くすんだ桃色の短髪と年頃らしい女の子に甘くておちゃらけた性格からは真逆な眼を持つちぐはぐな彼。
「一緒に教室にいかない?」
と、純粋無垢で無知な女の子を決め込んで志摩くんを誘う。もちろん彼は「喜んで!」とふにゃふにゃしながらあたしが追いつくのを待った。
今はまだその目にすら映ってないだろうけど、いつか必ずその余裕な表情や常に整っている体裁を跡形もなく崩して暴いて、その目に魅せるから、覚悟してね。
【虎視眈々と】
お題メーカー:君の名前を呼んでみた(https://shindanmaker.com/641554)