あなたがくれた花を今度は僕が渡そう



よねづさんの花に.嵐をモチーフにした雪(→)綴ss
突発的に書いたので見直しなしの60分クオリティ






 その話を聞いて私は真っ直ぐに温室へ駆け出した。

 その稀有な出生と見た目と歳に似合わぬ才能を持った奥村は学校のみならず、祓魔塾のほうでも少なからず嫉妬の対象となった。ほぼ全員が高校生であることもあり、学校よりも執拗ないじめを受ける。そんなときはだいたい私が間に入るも、今日のは私が講師の手伝いを狙った悪質極まりないものだった。

 温室へ向かう途中、からからとあざ笑う声に足を止めた。

「泣き虫坊やのお守りに行く途中でちゅか? 大変でちーー」

 すぐさまそいつの腹に膝蹴りを食らわせた。
 いくら人だろうと抜かることなく全身全霊の蹴りに多少の胃液を吐きながら男子生徒は廊下を派手に転がった。

「言いたいことはそれだけか?」

 体格差など目に見えているが、小学生とは思えないほどの殺気と威圧感にグループ全員が震え上がる。もうひと睨みすれば、蹴りを受けて気を失った男子生徒を引きすりながら去った。
 ふんと息を漏らし、再び温室へ向かった。




 こういうとき決まって彼は普段は立入禁止の温室に逃げ込む。
 塾の端に位置する温室へ伸びる石畳の通路は激しい雨風に晒され、一面水浸しだ。さらに吹き付ける雨風にも負けず、私はどうどうと歩いていく。1度濡れてしまえばあとはどれだけ雨に打たれても同じだと急がず、水をはねながら進む。
 温室の扉を開ければ、むわっとした空気が出迎えた。天気の関係上ずっとついている明かりは今は完全に落ちていた。しかしとうに慣れてしまったことに、ここの仮の主の思いを汲んで明かりに手を伸ばすことなく、ほの暗闇の中を迷わず歩く。

「奥村」

 温室の一番奥にある小さなガゼボに縮こまった彼を見つける。彼の少し濡れた体が震えるのは寒さか、己の不甲斐なさか。名前を呼ぶと、小さく体が跳ねるが顔をあげようとはしない。

「奥村」

 もう一度名前を呼ぶも今度は何の反応も見せなかった。必死に泣き声を堪えるも、なまじ閉鎖された空間で外の喧騒が届きにくいせいもあって、その嗚咽はよく私の耳に届いた。
 ふうと息を吐き出すと、濡れないように必死に服の奥に隠していたあるものを取り出す。

「『神父さんみたいな強いひとになる』」

 そこでようやく奥村は顔を上げた。大事に大事に書かれたその紙は皺だらけで裏はセロハンテープでちぐはぐに止められている。

「どうして」

 ここに来る前、男子生徒に鉄拳制裁を下したあと少し寄り道をした。教室のゴミ箱をひっくり返してひとつひとつ拾い集めて繋ぎ合わせた。

「なぜ捨てた」

 先生から聞いた分には、その身に不相応な目標に破られただけだと。捨てたのは奥村自身によるものだった。もう一度怒気を含ませて問うも彼は口を一文字にしたまま何も言わない。

「なぜーー」
「放っておいて!!」

 紙を差し出していた手を拒むように叩かれた。もうたくさんだと言わんばかりの彼に私はただ「すまなかった」と謝ることしかできなかった。しかし彼は余計
にまゆを潜め、必死に止めていた涙を再びこぼした。



「ここに来るのも久しぶりだな」

 あの頃からちっとも変わってない綴さんが懐かしむように言った。
 すべてが片付いたいま、僕と綴さんは祓魔塾の温室を訪れていた。

「嫌なことがあると決まってお前はここに来ていたな」
「そうしてあなたも決まってここに来てくれましたね」

 当時から嫉妬の対象だった僕は何かある度にこの温室に逃げ込んだ。そして必ず彼女もここに来てじっと僕の隣にいてくれた。ときに神父さんから教わった賛美歌を歌うと必ず彼女も歌った。

「覚えてますか、僕の将来の夢を破られたこと」
「ああ覚えている。私も珍しく本気で怒っていたからな」
「そのとき僕はとても悲しかったです。もちろん夢を馬鹿にされて破られたことも悲しかったんですが、1番は紙を復元してくれたのに僕が叩き捨てたのにあなたがひたすらに謝ったことです」

 捨てたのは僕の意思だったのにそれでもあなたは必死に拾い集めて元に戻してくれた。

「何よりそのときのあなたの顔がとてもさびしくて、それをどうすることもできない自分が嫌でした」

 苦しいとか悲しいとか恥ずかしくて言えない僕のそばに、気づけばいつも隣にいたあなたが初めて泣きそうな顔をした時自分の不甲斐なさを思い知らされた。
 今でもまだ素直に言えないし、曖昧に笑って誤魔化すこともあるけど、すべてが終わったいま、あなたに伝えたいことがある。

「綴さん、僕はあなたのことが――」

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