我々に年越しという概念はない
クリスマスに遅刻した雪は大晦日という今日やっとやってきた。
「あと12分で新年だぞ」
「はあ、そうですか」
「興味なし、だな」
「新年迎えるからってなんだって言うんですか。最初の年こそ兄さんと過ごしたかったなあとか思いましたけど、もう次の年から興味なくなりましたよ」
「そろそろ片手では足りないぐらいか」
吹きすさぶ夜風に舞う雪を受け止める頬は熟れた林檎のように赤く、冷え切った指先には霜焼けやあかぎれが目立つ。
「……あの」
「ん、なんだ? おっ10分切った」
「手袋とか、ないんですか?」
「ないな」
間髪入れずに答える綴に謎の潔さを感じられる。
「見ていて痛々しいんですけど」
「じゃあ見るな」
「そういうわけにもいかないでしょう。ほら手貸してください」
「なんでだ」
他人との肌の接触をあまり好まない綴だが、「いいから」とやや怒気を込めて言うと、意外とあっさり雪男に手を差し出した。
「あ゛い゛っ!?」
「ちょっと滲みるかもしれません」
「言うのが遅い!!」
懐から小さなチューブを取り出し、半透明のクリームを少しつけると割れ物を扱うようにそっと綴の手になじませていく。最初こそすぐ引っ込めてやろうとしたが、真剣な眼差しで塗っていくのだからそうすることもできず、ただひたすら滲みるのを黙ってこらえた。
「はい。これで少しは良くなるでしょう」
「なんかヌルヌルして柄が安定しないんだが」
「ちょっとの間だけですから我慢してください」
少し脂ぎる両手を握っては開いてを繰り返す。クリームのおかげか地味に痛かったのが緩和された。
「前にも言いましたが、あなたはもっと自分を大切にすべきだと思います」
「お前がそれを言うか。誰だ、この前包帯で銃を右手に固定して無茶したバカは」
「じゃあ、その馬鹿を真似た挙句、大怪我して3日も目覚めなかった大馬鹿は誰ですか」
お互い一歩も譲らない睨み合いは意外と早く同時に出たため息により終わった。吐いた息は白い水蒸気となってはあっという間に霧散する。
「ああ、兄さんの年越そば食べたかったな……」
「私も淹れたてのコーヒーが欲しいな……」
がくりと項垂れた。
祓魔師に年越しなんて関係ないのだ。