八百万の発信機で場所を特定した脳無格納庫の制圧状況を見ていた緑谷達は、制圧部隊だったベストジーニストやMt.レディが一瞬で吹き飛ばされ、言葉を失っていた。
「せっかく弔が自身で考え、自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよして欲しかったな」
一瞬の出来事、何が起こったのか。
一瞬、一秒にも満たない。それでもその男を気迫は、彼らに死を錯覚させた。
声でベストジーニストがヤラれたのがわかる。
ドッと音がした後ドサっと何かが地面に落ちたのだ。
振り向くことすらできなかった。
(なんだあいつ、何が起きた!?)
(一瞬で全部かき消された!)
(逃げなくては…!わかっているのに)
(恐怖で体が、)
5人とも身体が動かない。
指先一ミリたりとも動かせなかった。
その時だった。
「ゲッホ!!くっせぇぇ…んっじゃこりゃあ!」
『ごほっ!うー、…!』
「梓オイしっかりしろよ」
(かっちゃん、梓ちゃん!)
(爆豪と東堂!?一緒にいんのか!)
「悪いね、2人とも」
「『あ!?』」
警戒するような2人の聞き返しに、目の前にあの敵のボスがいるのだろうと察する。
姿を見たいが、指一本動かせなかった。
バシャバシャと音が聞こえ、他の敵達も現れ始める。
「また失敗したね、弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り戻した。爆豪君と東堂さんもね…君が爆豪君を大切なコマだと判断し、東堂さんを側に置くと判断したからだ。いくらでもやり直せ。その為に僕がいるんだよ。全ては君のためにある」
敵のボスとみられる男の言葉。
それに轟は愕然とした。
止まっていた息をハッと吐き出す。
(東堂を側に置く!?は!?)
堪え難い焦燥を感じているのは彼だけではなかった。
切島も緑谷も吐きそうになりながらも、突然わかった事実に動揺が隠せない。
(死柄木が梓ちゃんの事を気にしてるとは言ってたけど…どういうこと!?側に置く!?)
(やべぇ、ぜってぇ取り返さねえと…!!)
動かなければ。
あの2人を助けださなければ。
あの時身体が動かなかった。捕まった爆豪の表情と飛び込んだ梓の背中が忘れられないのだ。
隣で緑谷が動きそうになる。
それに合わせて自分も手を動かそうとすれば、
隣の飯田に腕を掴まれた。
「「!」」
彼の表情は必死だった。
行かせない、と守る、と顔に出ていて。
彼越しに動きそうになった切島を抑える八百万が見える。
ああ、2人は2人なりに自分たちを守ろうとしてくれているのか、と理解した時、
大きな破壊音とともに平和の象徴の声が聞こえた。
ーガンッ
「全て返してもらうぞ、オール・フォー・ワン!」
「また僕を殺すか、オールマイト」
因縁の対決が始まった。
ー
オールマイトが現れ、戦況は一変した。
2人がいくつか言葉を交わした後
とんでもない衝撃波が全てを吹き飛ばす。
思わず爆豪から離れて地面に転がった梓は痛そうに呻き声を上げた。
『オ、オールマイト先生も…あいつもヤバイ…』
「あ!?梓!?」
『こっここにいる!大丈夫…!』
「離れんなっつったろーが!!」
『いや今の衝撃波で離れない方が無理でしょーがぁ!それより先生は…!?めっちゃ吹っ飛んだよね』
「心配しなくてもあの程度じゃ死なないよ。だから…ここは逃げろ、弔。その子達を連れて。黒霧、皆を逃すんだ」
オール・フォー・ワンの手から分岐した黒い何かが黒霧に刺さり、個性を強制発動させる。
「ちょ!あなた!彼やられて気絶してんのよ!?よくわかんないけどワープを使えるならあなたが逃してちょうだいよ」
「僕のまだ出来立てでね、マグネ。転送距離はひどく短い上、彼の座標移動と違い、僕の元へ持ってくるか僕の元から送り出すかしか出来ないんだ。ついでに…送り先は人、なじみ深い人物でないと機能しない。さぁ、行け」
ぶわりと靄が広がり、梓はやっばい、と顔を引きつらせた。
『かっちゃん…!正念場!!』
「梓、お前動ける状態じゃ…!」
『だっ、いじょうぶ!』
近くにあった鉄パイプを掴むと爆豪に駆け寄り背中を合わせる。
『東堂家はね、痛みと逆境に強い、から!』
「……そりゃ、心強いこった」
『かっちゃん、生きて、帰るぞ。またみんなと会うために!』
「…あぁ、背ぇ頼むぞ」
2人の前では、敵が動き始めている。
Mr.コンプレスが気を失っている荼毘を圧縮して小さくし、こちらを見る。
「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれてる間に!コマ持ってよ」
「めんっ…ドクセー」
『いこう、踏ん張りどころはここだ…!』
「爆豪少年、東堂少女!」
この時のために自分は彼を追いかけたのだ。守るために。
今までは鎖で繋がれ命を盾にすることしか出来なかったが、ここからは違う。むしろ、本当にここが正念場。
(ここで守りきれなかったら私の存在意義はない!)
ズキズキとした痛みは忘れていた。
集中し切った彼女の目は敵しか見えていない。
洗練された気配を纏う。
そして、戦闘が始まった。
先に一歩前に出たのは梓だった。
横からナイフを向けてきたトガの攻撃を避けるどころか、ナイフめがけて鉄パイプを振り抜き一瞬でナイフを弾く。
避ける必要もないと言わんばかりの圧倒的戦力差。
驚くトガの前髪を掴むとガンッ、と頬を殴り地面に組み敷く、が
横からスピナーの刃が迫り梓はトガを解放すると彼の攻撃をいなした。
「いっ…たぁい!!梓ちゃんひどい!」
『お前の方が、ひどいだろ!かっちゃん右!』
「おお、!」
『ええっと、スピナー…!?』
「ステインが認めた存在、死柄木が欲すのであれば、」
『弱い奴ほどよく喋る…!』
斬撃がスピナーに飛ぶ。
痛みが意識が飛びそうになるがぐっと踏みとどまると、横から来たMr.コンプレスを頭を下げるだけで避け、瞬間、爆豪の爆破が敵を襲った。
爆風にのって片手でバク転をすると、もう一度爆豪と背を合わせる。
「チッ…、さっきまでと違って強引さが増してやがる…!6対2だぞ!?」
『仮面注意ね…!』
「二度も同じミスしねえよ!」
立て続けに襲いかかってくる敵をいなし、避け、
コンビネーションで敵を退ける。
が、6対2は流石にきつかった。
頼みの綱のオールマイトはオール・フォー・ワンを相手にしており頼れない。
その時だった。
右側から壁が破壊される音が聞こえた。
ハッと顔を上げれば、大氷壁がまるでジャンプ台のように空にのびる。
驚きで思わず動きを止めれば、
その一瞬で死柄木が梓の腕を掴んだ。
『ッ!』
「堕ちろ、一緒に」
『だれが、』
「梓!!爆発させろ!」
反射だった。
爆豪の言葉が聞こえた瞬間、梓は自分を中心に嵐を爆発させる。
暴風が吹き、稲光が煌めき、水が身体が溢れる。
思わず死柄木が手を離してしまうほどのその災い。
が、爆豪は迷うことなくその中に突っ込んだ。
『は…!?』
「止めんな!!」
止めるなったって。
雷と風で怪我をしながらも突き進んだ彼が、梓の腕を掴んだ瞬間、
空から切島の声が響いた。
「来い!!」
『!』
ードガァン!!!!
爆風でぐわりと身体が浮く。
突然現れた大氷壁。
それをジャンプ台のように飛び抜けた3人の影と切島の声。
身を裂くような嵐の中に飛び込んできた爆豪。
全てに驚いて息が詰まりそうになった。
地面から足が離れて少ししてハッとしたように嵐を収め、追い風を吹かせる。
そして、
ーパシッ!
「…バカかよ」
爆豪が切島の手を掴んだ瞬間、敵達の驚愕の叫び声が空に響いた。
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