濃密だった前期課程が終わり夏休みに入り、
合宿当日。
「え?A組補習いるの?つまり赤点とった人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ??あれれれれえ!?」
上鳴と話している時に唐突にB組の物間に絡まれ2人でポカンとしていれば、拳藤の手刀で気絶させられ連れていかれた。
「ごめんな」
「物間、怖」
「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まァよろしくね、A組」
「ん。」
軽く挨拶してくれたB組の子達に会釈をすると上鳴と一緒にバスへ向かう。
『B組には凄い子がいるなぁ…』
「あいつ、体育祭で爆豪に喧嘩売ってたよな」
『そうだったっけ?たしかに騎馬戦ではバチバチしてたような』
「梓ちゃんは周り見てる余裕なかったもんなー!ところでさ、今日隣に座らね?」
『あ、ごめん私耳郎ちゃんと一緒に座ることになってて』
「耳郎この野郎!!」
得意げに笑う耳郎のとなりに腰を下ろした梓は、合宿に行く道中おしゃべりをしてお菓子を食べて、と遠足さながらに楽しんだのだった。
ー
一時間後バスが停車した。
「休憩だー…」
「つか何ここ、パーキングじゃなくね?」
『あれ?B組いないね』
「梓、ヤオモモ、見て。めっちゃ景色綺麗」
トイレに行きたいと震える峰田の隣を抜けて耳郎について森の景色を見る。
壮観だった。心洗われるわーと和んでいたら、隣に停めてあった車から2人の女性が出てきた。
「よーーう!イレイザー!!」
「ご無沙汰してます」
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」」
「今回お世話になるプロヒーロー、プッシーキャッツの皆さんだ」
突然の登場に表情を変えることなく紹介した相澤に緑谷が興奮気味に特技を披露するが、クラスメート達は嫌な予感がしていた。
「心は18!」と緑谷が殴られる中、もう1人が森を指差しながら振り返る。
「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね、あんたらの宿泊施設はあの山のふもとでね」
「『遠ッ!』」
梓と耳郎の悲鳴のようなツッコミが辺りに響く。
「え…?じゃあなんでこんな半端なところに…」
「いやいや…」
「バス…戻ろうか?な?早く…」
全員勘づいていた。
顔を引きつらせながらじりじりと後退りをする。
「今は午前9時半。早ければぁ、12時前後かしらん」
「ダメだ…オイ…」
「戻ろう!」
「バスに戻れ!早く!」
「12時半までにたどり着けなかったキティはお昼抜きね」
その言葉に確信した一同は慌てて逃げようと走り出すが、もう遅かった。
地面が隆起し、津波のように立ち上がり、
「わるいね諸君。合宿はもう始まってる」
相澤を言葉をBGMに、全員が土に飲み込まれ崖下へ真っ逆さまになった。
(私有地につき個性の使用は自由だよ!今から三時間、自分の足で施設までおいでませ!この…魔獣の森を抜けて!!)
ー
ぺっぺっと口の中に入った土を出す。
「大丈夫か?」
『うん、轟くんも無事そうだね。にしても、雄英はむちゃくちゃやるなぁ』
ぐっと背伸びをする梓は笑っていた。
相変わらず頼もしい子である。
「魔獣の森って言ってたな」
『十中八九、何かでるね』
スカートの土を払うと、太ももに巻いているホルスターから短刀を取り出す。
「雄英こういうの多すぎだろ…」
「文句言ってもしゃあねえよ。行くっきゃねえ」
「耐えた…オイラ耐えたぞ」
その時だった。
尿意を我慢しながら木の影に走る峰田を遮るように、茶色の怪物が現れた。
「「マジュウだーー!?」」
「静まりなさい獣よ、下がるのです」
「口田!!」
『口田くん下がって!!』
口田の個性が通用しないと周りが認識するよりも早く、彼の頭上を梓が飛び越えた。
『アレからは…、生気を、』
バチバチと眩しいほどの雷が短刀に凝縮され、それを振り切る事で三日月型の斬撃が飛ぶ。
『感じない!!!』
ードガァン!!
梓の動きに合わせるように、飯田、轟、爆豪、緑谷の攻撃が炸裂し、土塊の魔獣は木っ端微塵になった。
「東堂くん、反応早いな!?」
『飯田くんも十分早かったと思うよ』
木っ端微塵になった魔獣の上に立ちながら嵐を纏う彼女は前だけ見据えていて、
ぴょんっと飛ぶと木の枝の上にくるん!と登り高くから先を見据える。
「梓ちゃん、身軽〜…」
「すんごい頼り甲斐があって惚れそう」
「葉隠マジか」
「パンツ見えそうじゃね?」
「瀬呂テメェ」
まさか下で瀬呂が爆豪に爆破されかかってるとは知らず、梓はぐーっと背伸びをして遠くを見渡す。
『さっき見た施設までの距離と、この地形を鑑みたら確実に昼には到着出来ないと思う!枝渡りでぴょんぴょん行けば別だけど、それをさせないために魔獣がいるし』
「東堂くん!随分詳細だが、君は森に詳しいのか!?」
『野外演習で山に1人で10日ほど篭ったことがある』
(((東堂一族ってマジでイカれてるな!!!)))
何人かの心の声が揃った。
飯田は「すごいな君は!」と引き気味の声を上げると、
「やはり個別で動くよりはクラス全体で力を合わせた方がいいか!?」
『うん、この人数だったら隠れながら施設を目指すのは無理だろうし、最短距離正面突破がいいだろうけど、』
「東堂くんなら人をどう配置する!?」
『どう配置ったって…私はいつも1人だからなぁ。チーム行動は素人だよ』
それでも梓は一回転して地面にストン、と着地をすると迷いつつも提案をし始めた。
『まずは索敵要員の耳郎ちゃん口田くん達を前において、そのすぐ後ろに反応の速い飯田くんや轟くん、私とかっちゃんいずっくんを置き、その後ろから残りのみんなに援護射撃をしてもらう?ただ、もう1人視野が広くて判断の速い子が後ろにいてほしいけど、』
「梅雨ちゃんとかどうだ?」
『お、切島くん流石!いいと思う!どうかな、この配置で一旦やってみて、無理だったら変えよう!』
梓の提案を基に飯田がリーダーシップを発揮し、A組の面々は森を進むのだった。
ー
「やーっと来たにゃん」
「とりあえず、お昼は抜くまでもなかったねぇ」
満身創痍。
森を出てきたA組の面々はヘロヘロに疲れ果てていた。
唯一息の乱れていないのは梓だけ。
「何が、三時間ですか…」
「腹減った、死ぬ…」
「悪いね。私たちならって意味、アレ」
「実力差自慢の為か…やらしいな」
「ねこねこねこ…でも正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら…特に、そこの5人」
指をさされる。
爆豪、緑谷、飯田、轟、そして梓。
「躊躇の無さは経験値によるものかしらん?三年後が楽しみ!ツバつけとこー!」
『うわ』
「東堂、俺を盾にするな」
「マンダレイ、あの人あんなでしたっけ?」
「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」
ピクシーボブの唾攻撃から轟を盾にして逃げると、そのまま息も切れ切れ突っ立っている耳郎のそばに駆け寄った。
『じろちゃん大丈夫?』
「なんとか、ね。梓、すごいね。息も切れてないし」
『体力はあるの!みんなもいたから、1人じゃなかったし。耳郎ちゃんは、先頭になることが多かったから余計に神経使って体力削っちゃったよね、ごめんね、私の提案で』
少しだけ申し訳なさそうに眉を下げた梓に耳郎は目を瞬いた。
もちろん彼女が謝ることではない。
「何謝ってんの」と笑えば梓はきょとんとした後に、
『耳郎ちゃんの索敵能力は重宝するから、どうしても先頭にいて欲しかったんだ!』
「はいはい、ウチで役に立つんなら頑張るよ」
相変わらず、真っ直ぐにお前は必要だと言ってくれる彼女に耳郎は少しこそばゆい気持ちになるのだった。
(いずっくんなんでうずくまってるの?)
(あの子に急所殴られたんだって)
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