46期末テストに向けて


時は流れ六月最終週
期末テストまで残すこところ1週間を切っていた。

八百万家での勉強会に参加する予定の耳郎は席でノートにメモをとっている梓のところまで来ると


「梓!今週末ヤオモモん家で勉強会する予定なんだけど一緒にどう?」

『え、そうなの?いいなぁ。でも、私週末は家のことしなくちゃいけなくて』

「マジで?大丈夫?」

『うん、全然大丈夫!あと、テスト対策はいつもかっちゃんに頼んでるんだ』

「は?爆豪?」

『小学生の頃からね!』


こういう時に2人が幼馴染って実感するわ、と耳郎が微妙に納得していると轟がスッと2人の会話に入ってきた。


「東堂、お前勉強わかんねえのか?」

『おう、いきなり煽ってきた』

「そういうつもりじゃねえ。一緒に勉強しねえかと思ってな」

(え、最近の轟、梓にめっちゃ絡む)


目の前で起きている現象に目をパチクリとさせていればやはりクラスでも注目されていたらしく、わくわくした表情をしている芦戸と目があった。


(轟が東堂、誘ったの?)

(誘った!ウチのこと無視!)


思わず口パクで状況を伝えればブフッと芦戸が吹き出す。


『轟くん、ごめんね!いつもかっちゃんに教えてもらってて、今回もお願いしてるんだ』

「…そうか」


轟に尻尾が生えていたらしゅん、と落ち込むように垂れているだろう。
やべえフォローしなきゃ、と耳郎は変に笑顔を作ると、


「梓、爆豪に教えてもらう日とは別の日に轟と勉強すれば?」

「お。」

『それでいいの?かっちゃーん!!いつテスト対策してくれる!?』


耳郎の提案にパッと顔を上げた轟の期待に満ちた目。
耳郎と芦戸がブフッと吹き出す中、梓は教室の端にいる爆豪に声をかけた。
ぎろりと睨むように振り返った彼は


「今日と明日ァ!!」


と割と素直に教えてくれて、
『ということで明後日一緒に勉強しよ!』と轟に答える梓に爆豪が「ハァ!?」と怒り出して慌てて切島が止めた。


「ちょ、落ち着けって、あ。東堂!今回は俺も参加させてもらうぜ!」

『うん、いいよー!』

「てめえ、なんで半分野郎と!俺とじゃ不満なんか!」

『かっちゃん何怒ってんの』

「爆豪は今までずっと東堂と仲良かったんだから少しくらいいいだろ。俺だって仲良くなりたいんだ」

「轟、あんた結構堂々というね…」

「そうか?」


何故耳郎が目を見張っているのかわからず首を傾げる轟に、話を聞いていた尾白も「どうして東堂さんと仲良くなりたいんだ?」と首を傾げた。


「どうして?」

「いや、単純な疑問だよ。クラスメートとして仲良くなることは良いことだけどさ、体育祭の頃はちょっと話す程度だったのに、職場体験以来…」

「…さぁ、俺もよくわかんねえ。けど、」

「「けど?」」

「もっと東堂と仲良くなりたいと思った」


だからなんでそう思ったのかが聞きたいんだよ!
と、クラスメートの心の声が一致したのだった。





放課後、爆豪と切島とともにファミレスに寄った梓は飲み物だけ頼むと勉強に没頭していた。
爆豪は慣れた様子で隣に座る彼女につきっきりで勉強を教えており、向かいに座っていた切島は珍しそうにそれを見ていた。


「ん、ここ」

『あ、これかぁ。むずかしいね、ここ』

「ああ」

『かっちゃん、これは合ってる?』

「合ってる」


こんなに穏やかな爆豪は初めて見る。
学校での彼しか見たことがない切島はぽかんと口を開けていた。
彼からしてみれば、クラスメートの中で一番信頼をおいている切島と幼い頃から一緒に育ってきた梓と3人のため、特に不機嫌になることも気を張ることもないのだろう。


(緑谷とえらい違いだな…。東堂には激甘)


すぐ喧嘩をする2人だが、次の瞬間にはけろっとしていて普通に喋っているのをよく見かける。
何かにつけて爆豪が梓を心配そうに見ている。


(ガキの頃から、無個性の東堂を守らなきゃって思ってたんだろうな〜)


だからこそ、今でも無個性が!と罵るのだろう。
彼は、無個性であってほしかったのだ。
無個性であれば、たとえ東堂一族の当主だろうがなんだろうが、ヒーローになって自分が守ればいい。

そんな幼馴染に個性が発現し、
父が死に一族の当主となり、


(爆豪も、キツかったんだろうな)

「何見てんだ切島」


どうやら梓はトイレに行ったらしく手の空いた爆豪にギロリと睨まれた。


「いや、お前も色々あったんだろうなって思ってよ」

「は?」

「ずーっと、そうやって東堂のこと守ってきたんだろ?今でこそ、となりに並んじゃいるが」

「……」

「爆豪、お前のことだ。東堂に個性が発現した時、素直に喜べなかったんじゃねーのか?」


図星をついてきた切島に爆豪は不機嫌そうな顔をした。
からん、と氷の音がする。彼はアイスティーを一口飲むと、


「別に、守ってねえし、なんとも思ってねえよ」

「……」

「ガキの頃から、あいつは勝手に隣に並んできやがる。個性が発現した後に限ったことじゃねぇ。ずっと隣に並んできやがる」


無個性なのに、上級生から自分を守ろうとするし。
無個性なのに、ヘドロ敵から守ろうとした。


「俺は、あいつに個性が発現した時に、諦めたんだ」

「諦めた?」

「あいつが、梓が…諦めるのを諦めた。クソムカつくが、一緒にヒーローになって、」


隣で守るしかねえだろうが。
諦めたように、そして吹っ切れたようにそう言った爆豪に切島は体育祭での彼の思いの丈を知った。

あれはいろんなことを含めての、彼の叫びだったのだ。


「男らしいな、爆豪」

「ケッ」

「でも、それ恋愛感情なのか?」

「ハァ!?俺があんなクソチビのこと好きなわけねえだろうが!!」

「えっそうなの」


いきなりの怒声である。
少し顔が赤い爆豪に切島は苦笑すると、


「東堂って、可愛いし明るいし、それに、あんなに小柄で華奢なのに強いし時々カッコいいだろ?信念もある。結構人気だから、気をつけた方がいいぜ」

「…」

「かくいう俺も、気になってる」

「は!?」

「体育祭ん時のな、あの涙にぐっときちまった。隣に並びてえって思った。ま、気になってるだけだ。お前の溺愛ぶりには負ける」

「溺愛してねえわ!!つかお前、気になんな!!」

「無茶言うなよ!」


自分に牙をむき始めた爆豪に切島が慌てていれば
まさかそんな話をしていたとは夢にも思わないだろう梓がなんだなんだと止めに入った。


『かっちゃんそんなに怒鳴ってどうしたの。あっちにまで聞こえてきたよ』

「てめえのせいだクソチビ!つかトイレ遅えんだよ!」

『仕方ないじゃん。トイレの前で待ち伏せされてたんだもん』

「「は?」」

『扉開けて出た瞬間、めっちゃ写真撮られてね、腕引っ張られたから逃げてきた』

「……どいつだ」

『びっくりだよね。トイレ行くの見張られてたのかなぁ』

「どいつだって言ってんだろうが!」

『ひい!なんで怒るの!』

「東堂、爆豪は怒ってねぇよ?でも教えてくれ、な?」

『えー…もうお店の中にはいないよ。すぐ出て行ったみたい』


肩をすくめて、さっ勉強しよ、と梓が切り替えたのに対し、爆豪と切島は(こんなモヤモヤの中で勉強できるか!)と心の声を一致させていた。


(おい爆豪、お前苦労してんな)

(わかってんならテメエもフォローしろや)

(どうしたの2人とも)

(東堂、あのな、写真撮られたら携帯ぶんどってバキッて折っていいんだからな?東堂の反射神経ならできるだろ?ほら、相澤先生も自衛しろって言ってたし)

(切島くんが突然いずっくんみたいになった)


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