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無事職場体験を終えた次の日。
登校してきた爆豪の髪に一通り爆笑した梓は自分の机にカバンを置くと、集まっている轟、飯田、緑谷の元へ行った。


『3人とも、おはよ!無事職場体験が終わって良かったね』

「おはよう」

「東堂くん、おはよう!」

「梓ちゃんおはよう!エッジショットさんの所、どうだった?」

『あの一件以外はパトロールとトレーニングだったよ。エッジショットさんが色々アイデアくれてね』


へぇ、いいなー!と言う緑谷に、いずっくんも良い動きしてたじゃん、とお互いの成長を褒め合う。
轟も先日の戦いを思い出しながら、


「あの斬撃飛ばしてたやつ、すげえよな」

『あれもエッジショットさんの案なの!腕に負担がかかるからそう何度もうてないけどね』


確かにあれはすごかった。
ステインに当たりこそしなかったが、路地一帯に嵐が吹き荒れているようだった。

4人であの日を振り返っていれば、


「ま、一番変化というか、大変だったのは…お前ら4人だな!」


上鳴に話を振られ、それぞれ話していたクラスメートたちの注目が自分達に集まった。


「そうそう、ヒーロー殺し!」

「…心配しましたわ」

「命あって何よりだぜ、マジでさ」

「エンデヴァーさんが助けてくれたんだってな!流石No.2だぜ!」


色んな所からかけられる声。
どう返そうかと迷っていれば、「…そうだな、助けられた」と轟が肯定し、便乗するようにも頷いた。


「俺、ニュースとか見たけどさ、ヒーロー殺し、敵連合ともつながってたんだろ?もしあんな恐ろしい奴がUSJ来てたらと思うとゾッとするよ」

「でもさあ、確かに怖ぇけどさ、尾白動画見た?あれ見ると一本気っつーか執念っつーかかっこよくね?とか思っちゃわね?」


あまりにも軽率な発言に思わず緑谷が上鳴の名を呼べば、彼も思い出したのだろう、飯田の顔を見てハッと気まずそうな顔をした。


「あっ…飯…ワリ、」

「いや、いいさ。確かに信念の男ではあった…。クールだと思う人がいるのも、わかる。ただ、奴は信念の果てに粛清という手段を選んだ。どんな考えを持とうとも、そこだけは間違いなんだ」

『その通りだね』

「俺のような者をこれ以上出さぬためにも!改めてヒーローの道を俺は歩む!」


ビシィ!と決めた飯田に緑谷たちはホッとした表情をするのだった。





「ハイ、私が来たってな感じでやっていくわけどもね、ハイ、ヒーロー基礎学ね!久し振りだ、少年少女!元気か?」


ぬるっと始まったヒーロー基礎学。
パターンが尽きたのかと少しざわついた生徒たちだったが、遊びの要素を含めた救助訓練レースが授業の内容だと聞いて浮き足立ち始めた。


「救助訓練ならUSJでやるべきではないのですか!?」

「あすこは災害時の訓練になるからな。私はなんて言ったかな?そう、レース!ここは運動場γ!複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯。5人または6人にわかれて1組ずつ訓練を行う。私がどこかで救難信号を出したら一斉スタート!誰が一番に私を助けに来てくれるかの競争だ!もちろん、建物の被害は最小限にな!」


びしっと指をさされ顔をそらす爆豪に梓はけらけらと笑う。


「指さすなよ」

『あっはっは!かっちゃんすぐ物壊すから!』

「てめえもだろうが!つか初めの組並んでんぞ、さっさと行け!」


どん、と背中を押して送り出せば笑いながら緑谷と一緒にフィールドに入っていった。
残された生徒たちは第一陣のレースを見るためにディスプレイ前に集まって座る。


「飯田、まだ完治してないんだろ。見学すりゃ良いのに…」

「クラスでも機動力良いやつが固まったな」

「うーん、強いて言うなら緑谷さんが若干不利かしら…。梓さんも、戦闘時のスピードは速いですが、機動力という面では劣りますわね」

「確かに緑谷の評価ってぶっちゃけ定まんないんだよね。梓も、見る度に進化してるっつーか個性の扱い上手くなってるしさ」

「緑谷さんは何かを為すたび大怪我してますものね」

「俺、瀬呂が一位!」

「あー…うーん、でも尾白もあるぜ」

「オイラは芦戸、あいつ運動神経すげえぞ」

「デクが最下位」

「ケガのハンデがあっても飯田くんな気がするなぁ」

「東堂だろ、あいつはすげえ」


いつもなら入ってこない轟が話に入ってきたことでワイワイしていた生徒たちは驚きでピタリと動きを止めた。
爆豪もじろりと轟を睨む。
当の本人はディスプレイに映る梓から目を離さずに、あいつが一位だ、となぜか絶対的な信頼を置いていて。


「え、轟の梓贔屓がすごい。何かあったの?」


思わず耳郎が問いかければ、轟は少し考えたあとに


「…いや、別に何もない」


いや絶対なんかあるだろ!!
とクラス中の心の中が一致したが、ヒーロー殺しの件はあまり公にしてはいけないため轟はそれ以上口に出すことはなかった。

もやもやとした中、第一陣がスタートした。

最初に飛び出したのはやはり機動力に定評のある瀬呂だった。


「ほら見ろ!こんなごちゃついたところは上を行くのが定石!」

「となると、滞空性能の長い瀬呂が有利か」


瞬間、ダン!!という金属を蹴る音ともに緑谷が一瞬で瀬呂を抜き去り、観覧していたクラスメート達は大きくざわめいた。


「おおお緑谷!?」

「なんだその動きィ!?」

「すごい…ぴょんぴょん!…なんかまるで、梓ちゃんと爆豪くんの動きを足して2で割ったみたい」

「1週間で…変化ありすぎ…」


まだ慣れないコントロール。
物凄いスピードで屋上を駆ける緑谷はギリギリの状態だった。
そして、右足をパイプに乗せた瞬間にズルっと滑る。


刹那、強風が吹き荒れ、突然現れた群青色が落ちかけた緑谷の腕をパシィッと掴むと、下からの風が吹き上がり屋上に舞い戻った。


「東堂!?すげええ!」

「あいつ大規模な個性操作苦手だったよな!?」

「あ、見て!すごく大きな扇子持ってる!」


緑谷をつかむ反対の手には、上半身が隠れるほどの大きな扇子。
彼女は安全な場所まで緑谷を運ぶと、すぐにレースを再開した。
トンっと手摺を踏み台に飛び、扇子をブンッと振って追い風をつくり滞空時間をあげる。
テープで追い上げる瀬呂と良い勝負だ。


そして、


「フィニーッシュ!」


僅差で瀬呂に抜かれ、2位となった梓は悔しそうに扇子を背についているホルスターに仕舞った。


「一番は瀬呂少年だったが、みんな入学時より個性の使い方に幅が出てきたぞ!この調子で期末テストに向け準備を始めてくれ!」


『くっそー…』

「いや東堂すげぇよお前。まじで負けるかと思った」

「そ、そうだよ梓ちゃん、扇子どこから持ってきたの!?」

『昨日お風呂でシャンプーしながら、扇子使えるかも?って思ってね、家にあったやつ持ってきた』

「わかる、シャンプーしてる時色々思いつくよね」


芦戸が変なところに共感する中、なんでそんな扇子が家にあんだよ骨董品かよと瀬呂と尾白は顔を引きつらせたのだった。





「梓凄かったじゃん。個性の扱い苦手だったのに、1週間で変わったね」

『苦手なのには変わんないんだけどさ、エッジショットさんがアドバイスくれて』


着替えながら耳郎と話していれば、興味を持ったのか他の女子達も話に入ってきた。


「そっか!梓ちゃんエッジショットの所に行ったんだ!すごーくミステリアスなヒーローだよね!」

「梓ちゃんどんなアドバイスもらえたん?」

『私ね、素手での個性調整が下手だけど、何かを媒体にしての調整は割と上手くいくみたいで』

「それで扇子か!頭いい!」


着替えながらぽんっと手を叩く葉隠に梓は控えめに首を振る。


『でも扇子で後ろに風おこすのちょっと不便だったなぁと思ってる』

「確かに、前と下は扇子で振れますが、後ろは勝手が悪いですわね」

「しかも東堂、メインの武器は刀だったよね?戦う時不便じゃない?機動力の為だけに扇子持つのも効率悪いよね」

『だよねー…ちょっと考えてみる』

「梓ちゃんは素直ね。きっと良い活用方法が見つかるわ」


芦戸のアドバイスに最もだなと頷けば蛙吹に褒められて梓は少し嬉しそうにしながらコスチュームを脱ごうとした、その時だった。


「梓待って」


耳郎が珍しく鋭い目つきで壁を見ながら梓を止めた。


『え?なに?』

「なんか聞こえる、穴空いてるし」

「えっ、響香ちゃん、まさか覗き!?」


んなまさか。
葉隠を楽観的に大丈夫でしょ、と宥めるが、それを否定するように壁から峰田の声が聞こえてきた。


《八百万のヤオヨロッパイ!芦戸の腰つき!葉隠の浮かぶ下着!麗日のうららかボディに東堂と蛙吹の意外おっぱァアア!》

ードガァンッ!

《峰田が!爆破されて凍ったァ!!やべぇ、緑谷助けてあげて!》

《別に助けなくてもいいんじゃないかな》

《冷たっ》


耳郎が成敗する必要はなかった。

男子更衣室で制裁をくらっているらしい峰田に一頻り笑った女子達は早々に着替えを済ませると、八百万の個性で穴を塞ぐのだった。


(有り難いけどさ、爆豪とか轟が怒るのは意外だったわ)

(三奈ちゃん、爆豪ちゃんは梓ちゃんのことについては過保護よ。自覚はなさそうだけど)

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