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ずっと心配してくれていた友達が倒れている。
駆けつけ、守ってくれた友達が血を流している。
叱咤し、奮い立たせてくれた友達がステインを前に応戦している。


(何が、ヒーロー…!友に守られ、血を流させて!!)


「氷に炎、言われたことはないか?」

(んでっ避けられんだよコレが…!)

(あぁくそ!!止めらんなかった!!戻んなきゃッ)

「個性にかまけ、挙動が大雑把だと」


轟の至近距離の炎を避けたステインが真横に現れる。


「化けモンが…」


轟の首元に刀が迫る。
ヤバい、避けきれない。轟が怪我を覚悟した時、飛びつくような素早さで梓が現れ、


ードンッ


「東堂…ッ」


首に到達する前に轟を後ろに押す。

そして、


「レシプロ…バースト!!!」


ーガキィンッ!!


復活した飯田が空振りした刀を蹴り折った。
立て続けにステインに蹴りを入れる。
トルクオーバーし無理やり高速移動を可能した飯田は、この路地裏で最速だった。


「飯田くん!!」


地面に倒れこんだ轟は上に乗っかったままの梓と顔を見合わせるとニッと笑った。


『解けたね…っ』

「あぁ、…意外とたいしたことねぇ個性だな」

「東堂くんも、轟くんも緑谷くんも、関係ないことで…申し訳ない…」

「またそんなことを…」

「だからもう、これ以上みんなに血を流させる訳にはいかない」


飯田の目から憎しみと怒りは消えていた。
ただ鋭くステインを睨む。想いのこもった目だった。

梓と轟は立ち上がると、飯田と並んでステインと対峙する。


「感化され、とりつくろおうとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。お前は私欲を優先させる偽物にしかならない!英雄を歪ませる社会のガンだ。誰かが正さねばならないんだ」

「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳貸すな」

『ほんとだよ、つか、なに勝手に人に重いもの背負わせてんだ。人に言う前に自分がそうなれよ』

「ぷっ…」

「いや、言う通りさ。僕にヒーローを名乗る資格などない。それでも…折れるわけにはいかない。俺が折れれば、インゲニウムが死んでしまう」

「論外」


ステインの殺気が爆発する。


(緑谷が動けねえなら、こいつとやるしかねえ…!)


右腕を刺され血を流している彼女を頼るのは酷だが、そうするしか時間を稼ぐすべはない。
轟は断腸の思いで「東堂、陽動頼む」と言えば、彼女は痛みなど感じていないかのように『はいよ!』と地面を蹴った。


(悪い東堂…っ)


「馬鹿っ…!!ヒーロー殺しの狙いは俺とその白アーマーだろ!応戦するより逃げたほうがいいって!!」

「そんな隙を与えてくれそうにないんですよ」


立て続けに炎と氷でステインに応戦する。


(上手いこと避けてくれちゃいるが…こんな無茶、東堂としか連携できねえな…っ)


重力など感じていないかのように壁を走りギリギリでステインの攻撃を避け炎と氷を避け嵐を巻き起こし、息をつく間もない怒涛の攻撃を寸でのところで防ぎきる。


「さっきから明らかに様相が変わった…奴も焦ってる!」

「轟くん、温度の調整は可能なのか!?」

「炎熱はまだ慣れねえ!なんでだ!?」


目の前では梓が炎と氷が渦巻く中雷と洗練された身のこなしと剣術武術でやっとかっとステインと応戦している。
轟のフォローが少しでも緩めば梓は死ぬだろう。
それが分かっているからこそ轟の声は余裕がなかった。


「俺の脚を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」

「邪魔だ!」

『やばい轟くん避けて!!』


梓の悲鳴。
ステインによって投げられたナイフが轟の左腕に深々と刺さった。


「ぐぅ…!」

『ああ!!轟くん!』


立て続けに二刀目が投げられる。
それは庇った飯田の腕に刺さり、彼は地面に倒れた。


「飯っ…」

「いいからはやく!!」

『お前の、相手はっこっちだろうが!』


飯田に向かって飛んでくるステインと梓が応戦する。

彼女の肩をナイフが貫く。
小さな悲鳴が聞こえ、轟はやるしかないと飯田の足を凍らせた。

吹き出した梓の血をステインが舐める。

空中にいた彼女は為す術もなく行動不能になり、ステインの上からの攻撃によって地面に叩きつけられた。


『う゛ァ…!!』

「東堂っ」


飯田が個性を限界まで発動する。
緑谷にかかっていたステインの個性が解ける。

地面に叩きつけられた梓を守るように2人は空中にいるステインに捨て身の攻撃を仕掛けた。


ードガァッ!


「お前を倒そう!!今度は…!犯罪者として…」

「たたみかけろ!!」

「ヒーローとして!!」


飯田の渾身の一撃がステインに入る。
追い討ちをかけるように轟の氷と炎が襲う。


「おおおお!」

「立て!!まだ奴は…」


痛みで悲鳴をあげる体にムチを打って立ち上がるが、ステインは轟の氷柱の上で気絶していた。


「……さすがに、気絶してるっぽい…?」


そこで、やっと轟は息をついた。
すぐに梓に駆け寄る。


「東堂…大丈夫か、わりい、すげえ無理させた」

『っ…いてて、ステイン、は?』

「気絶してる」


ステインの個性で体が動かない梓を横抱きにすると、
痛みでうめく彼女は悔しそうに顔を歪めた。


『抱えなくていいよ、轟くん腕怪我してるし、』

「お前に比べりゃどうってことねえ。動けねえんだから頼れ」

『うー、ごめん、ありがとう。あと、最後も、ごめん…気圧されたぁ…そっちにナイフいったの、防げなかった』

「何言ってんだ。お前があれだけ動けたおかげで俺も飯田も緑谷も全員生きてる」

「梓ちゃん!ごめん、一緒に守るって言ったのに、早々に戦力外になっちゃった!!」

『大丈夫、とりあえず、何か縛れるもので縛って、通りに出よう』


ごめん、体動かないわぁ。と大人しく自分に体を預けている梓を大事そうに抱え直していれば、緑谷が縄を見つけてきてステインを飯田と縛った。


「さすがゴミ置場、あるもんだな」

「俺が奴を引く」

「お前腕グチャグチャだろう。俺も東堂抱えなきゃだから引けねえし、」

「俺が引こう。…悪かった、プロの俺が完全に足手まといだった」

「いや、一対一でヒーロー殺しの個性だと、もう仕方ないと思います。強すぎる…」


轟は梓を抱え、緑谷と飯田は体を引きずり、ネイティブは縄で縛られたヒーロー殺しを引きながら、
5人で通りに出るためにゆっくりと歩く。


「4対1の上に、こいつ自身のミスがあってギリギリ勝てた。多分焦って緑谷の復活時間が頭から抜けてたんじゃねえかな。ラスト飯田のレシプロはともかく、緑谷の動きに対応がなかった」

『あぁー…死ぬかと思った』


話しながら通りに出れば駆けつけてきたのだろうプロヒーロー達がわらわらと出てきた。
その中には緑谷の職場体験先であるグラントリノもいて、


「む!?んなっ、なぜお前がここに!座ってろっつったろ!」

「グラントリノ!」

「まァ、ようわからんがとりあえず無事なら良かった」

「グラントリノ…ごめんなさい」

「細道…ここか!?あれ?エンデヴァーさんから応援要請承ったんだが、」

「子ども…?」

「ひどい怪我だ、救急車呼べ!」

「おい、こいつ…ヒーロー殺し!?」


慌てふためくプロヒーロー達に轟は首を傾げた。


「あいつ…エンデヴァーがいないのは、まだ向こうは交戦中ということですか?」

「ああ、そうだ!脳無の兄弟が…!」

「ああ!あの敵に有効でない個性らがこっちの応援に来たんだ」

『えっ、脳無?向こうそんなやばいの?』


梓が顔をしかめて轟と目を合わせていれば、後ろでカシャンとアーマーの擦れる音が聞こえ、視線だけやれば、飯田が頭を下げていた。


「三人とも、すまなかった。僕のせいで、傷を負わせた。本当に済まなかった…。何も、見えなくなってしまっていた…!」


飯田は泣いていた。


「……僕もごめんね。君があそこまで思いつめてたのに、全然見えてなかったんだ。友だちなのに、」

「しっかりしてくれよ、委員長だろ。ほら、東堂から何か言うことはねえか?」

『戦闘中余裕なくてすんごい冷たいこと言ってごめん』

「何言ったんだ?」

『邪魔』

「ぷっ」


今日こいつに笑わされたの3回目だ。

思わず吹き出して笑いをこらえようとしているのに、『邪魔といった人間がこの状態よ』「完全に轟くんのお荷物になってる」『いずっくんひどい』なんて緑谷と話すものだから耐えられなくなってまた吹き出した。
最近梓の言動がいちいち自分の笑いのツボに入る轟と、それを物珍しそうに見る周りなのであった。

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