「リンドウ、おいで」
玄関口からエッジショットに呼ばれ、梓は会話していたサイドキックに断りを入れると駆け寄った。
職場体験3日目の午後だ。
『はい!なんでしょうか?』
「今日は、遠征に行く。リンドウも行こうか。きっといい経験になる」
『あ、はい』
邪魔にならないだろうか。
すこし遠慮気味に頷き、エッジショットについて事務所を出た。
ー
エッジショットとそのサイドキックの後ろを同じように足音を立てないように歩き、駅で電車に乗ったまでは良かったのだが、
電車内で偶然会った人物に梓は忍ぶことを忘れ思わず駆け寄っていた。
『轟くーん!』
「お、リンドウちゃん、知り合い?って、エンデヴァーさん!?エッジショットさんこっち!」
微笑ましげに梓を追いかけていたサイドキックは、電車のボックス席に轟くんと呼ばれた少年と一緒に座っているエンデヴァーを見た瞬間さっと青ざめた。
エッジショットも驚いた様子で会釈をする。
「これはこれは、お疲れ様です。エンデヴァーさん」
「エッジショットか」
どうやら行き先は同じ、保須市らしい。
エンデヴァーよりも「轟くん」に食いついている梓の腕を引っ張ると、となりのボックス席に座った。
「東堂、久しぶりだな」
『だね!轟くん、元気?』
「あぁ、東堂も元気そうで良かった」
『轟くん、エンデヴァーさんの事務所だったんだね!』
「あぁ」
やっとエンデヴァーの名前が出た。
いきなり現れて妙に親しげに轟と喋る彼女にエンデヴァーのサイドキック達はヒヤヒヤしていた。
それと同時に、しかめっ面しか見ていなかった轟が優しい表情で笑いながら話すものだから、エンデヴァーを含め皆が物珍しげに見ている。
「三位の子だ」
「エッジショットの所に行ったのか」
誰かが言った。
三位の子、東堂梓だ。体育祭では轟との接点はあまり感じなかったが、同じクラスということもあり仲は良い方らしい。
エンデヴァーに会釈だけすると、通路を挟んでまた2人で話し始めている。
「東堂はエッジショットさんのところなんだな」
『うん、とても学ばせてもらってる!轟くん、君はなんでエンデヴァーさんとこにしたの?』
ど直球な質問に周りはヒヤヒヤした。
(あれ、この子、ショートくんとエンデヴァーさんが親子って知らない感じ!?)
質問を投げかけられた本人も、まさか聞かれると思っていなかったのか、フリーズしている。
その代わりに答えたのは、もう1人の本人であるエンデヴァーだった。
「そいつは俺の上位互換。最高傑作だ。父である俺に学ぶ為、この事務所に来るに決まっている」
『エンデヴァーさんが轟くんのお父さんなのは知ってるけど、それとこれとは話が別でしょうよ』
何を言ってるんだ?ときょとんとしてそう言った梓にエンデヴァーはぽかんと口を開け、周りは青ざめ、轟は飲んでいた水を吹き出した。
「ブハッ」
『うわ、轟くん汚なっ』
「…だ、だって、お前が誰も言わねーようなおかしなこと言うから」
『えー?だってそうでしょ?私は君がなにをもってエンデヴァー事務所に行きたいと思ったのかを聞きたいんだもん』
「あぁ、わかってる。答えるよ。ヒーロービルボードチャートNo.2で実績はあるし、左の使いこなし方も勉強になるからだ」
『あっ、本格的に左使うんだ!いいと思う!』
周りの空気が固まっていることなんて御構い無し。
からりと笑った梓に轟もつられた。
へらりと笑えば、エンデヴァー事務所のサイドキック達がざわついている。
マイナスイオンが放出される2人の雰囲気に思わずエッジショットは隣に座るサイドキックに「リンドウ、結構な大物になりそうだな」と苦笑した。
そして、
保須市に着いたエッジショット一行は駅でエンデヴァー達と別れると、
「ヒーロー殺しは人目につかない路地で出現していることが多い。路地に重点を置こう。俺は西をみる。お前達は東を頼む。2時間後に一度ここに集合しよう」
『「はい!」』
二手に分かれて町のパトロールを始めた。
その時はまだ、夕方にあんな騒動が起こるとは誰も予想だにしていなかったのであった。
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