175接触
緑谷は神妙な顔で隣に座る幼馴染を盗み見た。


『これはぁ、こっち』

「は?こっちだろ」

『こっちだよ!』


爆豪と戦略思考ゲームで遊んでる彼女、梓は呑気そうでこちらまで平和ボケしそうになる。
が、緑谷はとてもじゃないがそんな気分になどなれなかった。


(心操くん…どうしてあんなこと言ったんだろ)


脳裏に過るのは、体育祭で戦った洗脳の彼である。
知らないうちに梓の家の門下生になっていたり眷属になっていたりする秘密主義な男だが、梓に関する事情はよく知っており、時折情報を流してくれる。
そんな彼からインターン前に呼び出され、言われた忠告が頭から離れない。


“インターン中、絶対に梓から目を離さないでくれ”


最初は、危なっかしい彼女のことを思っての言葉かと思ったが、神妙な彼の顔を見て違うと悟った。


“何をするにも、緑谷か爆豪、轟の誰かが一緒にいるようにしてくれ”

“…同じインターン先だし、大体一緒にいるけど、心操くんどうしたの?”

“大体じゃダメだ。朝稽古の時も、夕稽古の時も必ず3人の誰かの視界に入れておいて欲しい”

“文字通り四六時中ずっとってこと!?”
 

驚いて、何があったの?梓ちゃんに危険が迫ってるの?と質問責めにするが、心操自身も詳しくはよく分からないそうで、「とりあえず、目を離してほしくないそうだよ」と肩をすくめられその話は終わった。
一応、爆豪と轟にも伝えると、頷きつつも怪訝そうにしており、よくわからないまま結局3人でずっと梓を見守っている。


(敵連合から狙われているとはいえ、エンデヴァー事務所内でまで一緒にいなくてもいいと思うんだけどな)


流石に1人になりたい時もあるだろうに、と少し梓を不憫に思いつつ緑谷は黙って遊んでいる幼馴染2人を眺める。


「緑谷、茶淹れたんだが、飲むか?」

「轟くん、ありがとう」


温かいお茶を持ってきてくれた轟にお礼を言って湯呑みを受け取れば、彼もじっと梓の方を見ていて、


「四六時中一緒にいて気づいたんだが」

「え、うん。なに」

「アイツの稽古量ヤバくねえか」

「うん、僕も思った。敵連合の心配より体のほうが心配になるくらい鍛錬してるよね。ちょっと引いた」


前からふらっといなくなるなぁとは思っていたが、全ての時間で稽古をしているとは思わなかった。


「……相澤先生が過保護になる意味がわかった」

「これは…、ほっとけないな。心操が一緒にいるよう言ってきたのは、この稽古を休ませるためなんじゃないのか?」

「うーん…そういうわけではないみたい。心操くんも、なぜずっと一緒にいないといけないのかまではよくわかってないみたいだった。ただ、敵連合関係に警戒して、じゃないかとは言っていたけど」

「それはわかるが、インターン中に敵連合が突っ込んでくるなんてあり得ないだろ」

「そうなんだけどね…」


微妙そうな緑谷の表情に轟が「なんだ?」と首を傾げれば、彼は「…かっちゃんも、何かに警戒してるんだよね」とぽつりと言葉をこぼした。


「は?何に?」

「相澤先生に発破かけられたって言っててさ」

「?」

「心を守れって言われたんだって」

「……、」

「梓ちゃんの心が壊れそうな時って…、きっと何かを守れなかった時なのかなって思っててさ。つまり、僕たちが一緒に肩を並べて五体満足で戦うことができれば、きっと梓ちゃんの心は壊れないと思うんだけど」

「……」

「それよりも気になるのは、相澤先生が何故そんなことを突然言い出したのか。かっちゃんも聞いたらしいんだよ、“何か起こんのか?”って」

「……起こるのか?」

「何かが起こるし、梓ちゃんもそれを感じ取ってるって言われたんだって」

「………、不穏だな」


眉をひそめた轟に緑谷がこくこくと同意するように頷いていると、エンデヴァーが現れた。


「お前たち、出かける準備はできてるか?」

「アッはい」


今日はどんな任務だろうか、と4人とも気合の入った表情で腰を上げるが、怪訝な顔のエンデヴァーに「今日は敵退治はせんぞ」と言われ、4人揃って首を傾げた。


「え?じゃあ、今日はどうして呼ばれたんですか?」

「今日は公安の支部に、最近起こった敵関連の報告書を届けに行く。いい機会だからお前たちもついてくるといい。タイミングが良ければ、他のプロヒーローにも会えるだろう」

『わぁい!!』

「はしゃぐなリンドウ」


公安の支部だなんて初めて行くなぁとワクワクしてエンデヴァーに叱られている梓をよそに、一行はヒーローコスから制服に着替えると、エンデヴァーの準備したハイヤーに乗り込むのだった。





公安支部に着き、エンデヴァーの後ろをついて行きながら梓はキョロキョロと忙しなく首を動かした。


「前見て歩けよ、コケんぞ」

『うーん…周りが気になる』

「気持ちわかる。すれ違う人みんなプロヒーローだよ…!」


同じくキョロキョロと視線が動く緑谷がギロリと爆豪に睨まれる中、前を進んでいたエンデヴァーが扉の前で止まった。


「お前たちはここで待っていろ。報告してくる」

「「「『はい(ああ)』」」」


部屋の中に入っていったエンデヴァーを見送り、大人しく4人揃って近くの長椅子に座る。
その間も廊下をプロヒーローたちが行き交うものだから、梓は緊張しつつも目をキラキラとさせた。


『すごいね、こんなにたくさんのプロヒーローがいるんだね…!』

「そうだね、壮観だね!」

『いずっくんは、みんなわかる?私あんまりヒーローに詳しくなくて、わかんない人も結構…』

「大体わかるよ!素晴らしい人たちばかりだよ」

『そっかぁ、すごいな』


梓が、プロヒーローに対して、そしてヒーローオタクを遺憾無く発揮する緑谷に対しても感心していると、ふとピリッとした気配を感じ取った。


(ん?)


殺気に満たないが、少し害意のありそうな不穏な視線を感じ、思わず振り返る。


『…………』

「梓ちゃん、どうかした?」

『……ううん、なにも』


振り返った先には数名のヒーローしかいなくて、梓は勘違いか、と少し張り気味だった緊張の糸をゆるめた。

きっと勘違いだ。人が多い時は、そういう勘違いをすることは時々ある。
見られている、と感じるのも、そりゃエンデヴァー事務所のインターンが4人揃って座っていれば目立つというもの。
見られて当然だよな、と視線に対する警戒を解こうとして、側近達と自宅の書庫で話した話を思い出した。


『………。』


“異能解放軍には、少なくはない数のヒーローが与していると思われます。インターン時には、知らないヒーローにはついて行かぬようお願いいたします”


信じたくはないけれど、優秀で思慮深い側近たちが仕入れてきてくれた有益な情報だ。


(もしかして、今の視線は、)


解放軍に与するヒーローが向けてきたものではないだろうか。


『…、』


梓はもう一度、視線があった方角を振り返る。


(最初こそ、こういうヒーローを炙り出すための撒き餌になれればいいと思ったけれど、)


“随分と、詰めが甘くていらっしゃる”


側近の西京は、あの日書庫で、厳しい目でそう言ってきた。

相手はマイナーといえどプロ。
危ないと勘付かせた時点で生きて返す訳がない、と。

たとえ逃げ果せることが出来たとしても、ヒーロー側が解放軍の存在に気付いていることを解放軍側に悟られることになり、それはホークスの足を引っ張る行為だと。


(私に何もできることはない。この視線にも気づかないふりをした方がいいけれど、もしも、みんなに危害が、)


確認のつもりだった。どのヒーローからの視線だったのかだけでもわかれば、うまく立ち回れるとそう思った。
のに、


「おや君たちは!奇遇だね!」


先程視線を向けてきた気配と似通った雰囲気を持つ知らないプロヒーローに声をかけられ、梓は思わずビクッと肩を揺らし、上を見上げた。

屈強で大柄な体格のマントを羽織った男に天井を覆うように見下ろされ、思わず『へあっ』と情けない悲鳴をあげて後ろにひっくり返りそうになったところを「あぶねっ」と間一髪爆豪に支えられる。


「あ、あん時の」

「轟君に爆豪君、あの日以来だね!あのエンデヴァー事務所で輝かしい活躍をしていると聞いているよ!」

「真上から話しかけんじゃねェや!梓がビビってひっくり返りそうになっただろうが!!」


「えっ、2人とも知り合いなの?」

「仮免取った日の夜、敵捕縛した時にいたんだ。確か名は、」

「スライディン・ゴーだ!よろしく、緑谷出久くん、そして、東堂梓さん」

「『名前、』」


エンデヴァー事務所のインターン生は有名だ、もちろん知ってるさ!と明朗快活に笑うスライディン・ゴーは緑谷と握手すると、梓にも手を差し伸べてきた。


『…、』


こんな快活に笑う気の良さそうな人が、解放軍な訳ないか。
視線も勘違いだったのかもしれない、そう思い直して、彼の手をぎゅっと握れば「よろしくな!」と握り返される。


「君たちは何故ここに?」

「エンデヴァーさん待ちです」

「ああなるほど、彼が支部長に報告をしているのだね。ここの支部長は話が長いから、もう暫く時間がかかるだろう」

「そうなんですか…」

「ああそういえば、東堂さん、」


緑谷とスライディン・ゴーが話しているのをぼんやり聞いていれば彼の視線が自分に注がれていて、梓はピッと背筋を伸ばした。


『なんですか?』

「さっき向こうの方にエッジショットが居たが、君の職場体験先ではなかったかな」

『え!?エッジショットさんが?』


嬉しさで思わず立ち上がった梓にスライディン・ゴーは人のいい笑みを浮かべると窓から下の渡り廊下を指さす。


「ほら、あそこを歩いてるだろ」

『ホントだっ。エッジショットさーん!!』


大声で彼を呼ぶが届いていないようで、「うるっせ!叫ぶな!」と爆豪に怒られる。
が、謝っている暇などないのだ。
エッジショットは忙しい、なかなか会えない。

ここまで強くなれたのは彼のおかげだし、神野でも助けてもらったし、なにより、話したい。挨拶をしたい。
梓は目を爛々に輝かせると、


『私、ちょっと追いかけてくる!』

「「「え?(はァ?)」」」

『エンデヴァーさんの報告が終わるまでに戻ってくるね!』


あ、バカ!
ちょっと梓ちゃん待って!
と引き留めようとする幼馴染や轟をよそに、梓は廊下を引き返すと階段を駆け降りたのだった。





エッジショットに会うために階段を駆け降りたはいいものの、どっちの方角に進んでよいのかわからず梓は迷子になっていた。


(ど、どうしよ。こっちだっけ?)


窓から見える渡り廊下を頼りに、なんとなく勘で進んでみるが全然近くならない。
そんなことをしている間にエッジショットは既に渡り廊下からいなくなっていた。


(………、残念だけど、もう帰っちゃったかな)


方角的にきっと帰るところだったのだろう。
肩を落とし、諦めて仲間達の待つ支部長室前に戻ろうとした、その時。


「良ければ案内しようか?」


スィーっと地面を滑って現れたのは、先程声を掛けてきたスライディン・ゴーだった。


『あ、』

「迷ってしまったんだろう」

『え、と、はい。でも、大丈夫です。エッジショットさん、もう見えなくなっちゃったし、』

「まだ帰っていないぞ」

『え?』


そうなの?
期待に満ちた目でスライディン・ゴーを見上げれば、彼はにこりと明朗快活に笑った。


「ああ!こちらに来るといい!」


どうやら本当に案内してくれるようで、梓は少し申し訳なさそうにしつつもその親切を断りきれず、スライディン・ゴーの後ろを小走りでついて行った。


ースィーッ


なめらかに滑る彼の後ろをついていきながら、ふと、梓の脳裏に過ったのは、あの日の会話。


『……』


“梓様、インターン中は知らないヒーローにはついていかぬようお願いいたします”


(……いやいや、この人は知らないヒーローってわけじゃ……元々は、かっちゃん達の知り合いだし、)


“姫様、くれぐれも、拐かされることのないよう”


『……』


“顔見知りといえど信用なりませんよ”


頭の中で、側近の西京とハルトの言葉が反芻する。

まるで彼らが今のこの状況を危険だと言っているようで、警告音が頭に鳴っているようで、梓は(いや考えすぎでしょ流石に。この人が解放軍なわけ、)と思いつつも、思わず立ち止まってしまった。


「…おや、どうかしたのかい?」

『あ、いや…やっぱ、戻ります。エンデヴァーさん怖いし』


振り返ったスライディン・ゴーは心配そうに近寄ってきた。


「顔色が悪いようだが、」

『え、そうですか?なんでだろ、』

「そこの空き部屋で休むといい」


ぐいっと肩を押され、その力が強くて思わずよろける。
ふわりとスカートが捲れそうになり、手で押さえれば、両肩をスライディン・ゴーに掴まれ、強い力で空き部屋に押し込まれそうになった。


『え、ちょっ大丈夫ですって。じ、事務所で、事務所で休みます』

「いやいや、少し休んだほうがいい。顔が青いぞ!」


(待って待ってこれはヤバい)


この部屋に入ったらまずい。
頭の中で警告音が嫌というほど鳴る。

いつの間にかスライディン・ゴーの気配も自分に対して害意のあるものに変わっていて、梓は自分の直感を誇らしげに思うとともにすぐに警戒を解いたポンコツ具合に嫌気がさした。


(直感当たってたじゃん勘違いじゃなかったこの人やばい人だ!解放軍だよ絶対どうしよう!?)


倒そうにも、倒せない。梓はこの人に敵意を向けることはできない。疑うような言動も行動もできない。


(ホークスさんは、ヒーロー側が解放軍の存在に気付いてると思わせたくない、私がここでこの人と会敵したら、それこそ水の泡だ)


でも、


(このままじゃ大きな抵抗もできずにこの空き部屋に連れ込まれる…!何されるか分かったもんじゃないし、ここで私が連れ去られて仕舞えば、ホークスさんの根回しがこれまた水の泡に…!)


せっかく強くなるために、エンデヴァー事務所への受け入れを提言してくれたのに。
エンデヴァー事務所だったら、守られながら強くなれると考えてくれたのに。


(どうしよう…!!)


西京にも、ハルトにも、あんなに拐かされぬようにと言われたのに。
心操にも相澤先生にも心配をかけたくないのに。


と、その時、


「そこで何をしている!」

「『!?』」


仲裁するような鋭い声にハッと顔を上げれば、廊下の先にエッジショットがいて、梓は希望の光が見えた気がした。

彼が厳しい目でカツカツと歩いてくる中、スライディン・ゴーも動揺しているのか「帰ったはず、」と小さく呟いている。


「揉め事か?リンドウ、いや、今は梓か」

『エ、エッジショットさん…えっと、』

「体調が悪そうだったもので、介抱しようとしていたのさ!」


梓が何かを言う前に被せるようにスライディン・ゴーが喋り出したものだから、エッジショットの目が怪訝そうに歪む。


「本当か?梓」

『うーーん…と、そんな感じです。でも、私が…休みたくなくて、エンデヴァーさんのところに戻りたくて』

「そうか。スライディン・ゴー、俺の弟子が世話になったな。エンデヴァーの元へは俺が送り届けよう」


ぐいっとエッジショットに引っ張られ、肩を抱かれたところでやっとスライディン・ゴーの表情が諦めにに変わる。


「…そうか!では私はこれで!」


歯切れ良く、最初の明朗快活な笑みでそう最後のセリフを残した彼は、梓に手を振るとそそくさといなくなった。


「『………。』」


スライディン・ゴーがいなくなり、気配も随分遠くなったところで、エッジショットの手がふわりと梓の頭に乗った。


「久方ぶりだが、本当に体調が悪いのかな?」

『……』

「先刻のお前の声は明朗快活に聞こえたが」

『…えっ聞こえてたんですか!?』

「街中なら兎も角公安支部であんなに元気よく名を呼ばれることなどないからな。最初は聞き間違いかと思ったが、どう考えてもお前の声だと思い引き返した次第だ」


くつくつ笑うエッジショットを見て、梓は恥ずかしいのと同時に、やっと安堵感が湧いてきた。
なくなっていた手足の感覚が戻ってきて、
ぎゅっとエッジショットのコスチュームの端を掴むと、『はあぁぁ…、』と大きな安堵のため息をつく。


『良かったぁぁ…』

「ん?」

『エッジショットさんが、いなかったらどうなってたか…』

「やはり危ない場面だったようだな。断片的ではあるが、俺も公安本部より暗号にて少し情報は受け取っている」

『え?』

「間に合って良かった」


くしゃりと頭を撫でられ、梓は安堵感の中へらりと笑みを破綻させた。


『ありがとう、ございました』

「お安い御用だよ」

『えへへ』

「それにしても、状況が状況なだけにエンデヴァーがお前から目を離さないと聞いてはいたが、先刻のは一体どういう…」

『アッ、いや…、あの人がエッジショットさんの場所まで案内してくれるっていうから、』

「釣られてついて来たのか!?」

『あうっごめんなさい!だってなかなか会えないし、エッジさん秘密主義だから事務所の連絡先以外教えてもらってないし!』

「愚鈍すぎるぞ梓!連絡先は教える、頼むから二度とそんなバカな手には引っ掛からないでくれ」


憧れのプロヒーローに完全に引いた目で見られて梓はショックを受けた。
腕を掴まれエンデヴァーの元まで引っ張られる間も彼の説教は続く。


「幼児に対する誘拐の常套手段にまんまと引っかかるとは…、これでは守る方も骨が折れる。エンデヴァーとイレイザーヘッドの心中察するぞ」

『うう……』

「いいか、お前はお前の立場をもう少ししっかり理解しなければならない。知らぬヒーローについていくなど言語道断。そしてこれからは、見知ったヒーローでも警戒するべきだ。たとえ見目がお前の知り合いと一緒でも中身まで一緒とは限らんぞ」

『こわい!こわいですよエッジさん!』


見た目が仲間だったら信じちゃいますよ!と青ざめる梓にトガヒミコの存在を忘れたわけではないだろう、とエッジショットが呆れた顔をする。


『あう、そうか…』

「とりあえず、No.1の側から離れないようにしなさい」

『はい…』


そして、しょんぼりした梓を連れてきた呆れ顔のエッジショットを見て、少し事態を察したらしいエンデヴァーに盛大にため息をつかれた。


「はぁぁ〜……世話をかけた、エッジショット」

「いえ。では俺は行く。梓、くれぐれも気を抜くなよ」

『アッはい!ありがとうございました!』


両腕を振ってエッジショットを見送り、「どこ行ってたんだよ」「なかなか戻ってこないから心配したぞ」と声をかけてくる爆豪と轟にごめんね、と謝りながら、待たせていたハイヤーに乗りこむ。

そして車の扉をバタンとしめた、瞬間だった。


「リンドウ、あそこで待っておけと言っただろう!?」

『ぴっ』


どかーん、とエンデヴァーの雷が落ちて梓は思わず隣に座っていた緑谷にぎゅっと抱きついた。


「うわぁ梓ちゃん!?」

「お前達も!!こいつから目を離すなとあれほど!!」


爆豪、緑谷、轟にもエンデヴァーの怒りの目が突き刺さる。
意味がわからないくらいの激怒に思わず3人でポカンとする。


「親父……なんでそんなに怒ってんだ?」

「目を離したのは…すみません、でも、少しだけですし、それに…」


あの建物にはたくさんのプロヒーローがいた。
万が一にも敵連合と相見えるわけがないのに。
そういう意味を含んだ緑谷のもごもごにエンデヴァーの眉間に皺が寄る。もう寄っていたのに深く寄る。


「あの場で連れ去られる可能性も、ゼロではない」


言いにくそうに、不機嫌そうにそういったことで、梓以外の3人に戦慄が走る。


「「は??」」

「えっどういうことですか!?侵入の痕跡でもあったんですか?」

「言えん」

「っ、梓ちゃんの周りや、相澤先生がピリついてるのは、今まで以上の危険性を感じているからですか…?」

「…そういうことだ」

「詳しく言えねェってか…。とりあえず四六時中見とけってのは額面通り受け取った方がいいらしいな…。オイ梓、テメェはどこまで知ってんだ」

『え?』

「テメェは自分の身の危険について、どこまでわかってんだ」

『………すごく危ないとは、予想してる。拐かされぬよう、と何度も言い聞かせられてる』

「ほーーう?なのにあの行動力…バッカだろテメェ!!!」

『ひい!かっちゃんまで怒った!』


梓は二度目の雷に身をすくめるが、(危険度分かった上であんな行動したのか…)と流石に同情できなかった轟と緑谷だった。


(本当に目を離すべきじゃなさそうだな)

(うん…可哀想だけど、過保護くらいがちょうどいいかも)

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