学徒動員紛いのインターン開始の知らせを受けた職員会議後、帰りのホームルームに向かっていた相澤の携帯が鳴った。
ディスプレイに“九条”と表示されており、教え子の後見人の名前に相澤の眉間にシワが寄る。
「もしもし」
《不機嫌そうな声だな、イレイザー。うちのお嬢がいつも世話んなってます》
「社交辞令はいい。なんだ?」
《いや、ちと面倒なことになっちまってな。イレイザーに相談がある。一族案件だ》
「お前が俺に相談とは、珍しいな」
嫌味のつもりだった。
彼の最優先は守護一族と守護の意思なので、あまり担任である自分には話が通されず事後報告を受けることが多い。
それなのに相談とは、珍しい。それと同時に嫌な予感もした。
もごもごと言いづらそうに電話口で話し始めた九条にますます眉間のシワが寄る。
《まだ詳しい情報は入ってきてねェんだが、さっきお上から召喚命令が出た》
「は?」
《順を追って話す。うちの一族は国の要人と伝手があり、有事の際は直々に指示が降りる事もある。ま、ここ数十年はからっきしだったんだが…。指示が下る時、招待状によって各代の当主は中央に呼ばれ、守護要請を受けた。招待状なんて可愛い呼び名になっちゃいるが、召喚命令のようなものよ。それが、ウチに届いた》
「……何故?何のために?」
《さァな、今からすぐに中央に向かうんだが、そこで指示が下るんだろうよ。ただ、不穏な何かが起こってることは確かだ。それこそ、まだ仮免ヒーローで未熟な当主を据えている守護一族に声をかけるべきと判断されるほどの、な。まるで、人を守る手が足りないとでも言いたげな》
そこまで言われたところで、相澤は先ほどの職員会議で脳裏をよぎった“学徒動員”を思い出した。
何かが起こっている。否、起こる可能性がある。
学生や、古の守護一族を頼らねばならぬほどに。
「……断れねえのか」
《愚問。召喚命令っつってんだろうが。流石の俺も気が進まねェ。なんか、とんでもねェ無茶振りされそうなんだが…》
珍しく弱気な九条に、相当な事態なのだと相澤はますます眉間にシワを寄せる。
《お嬢にはまだ言ってないんだわ。アレは、責任感だけは強ェから、大人しく召喚に従うと思うが、》
「ほう?つまり、お前らだけで対応するということか。どういう風の吹き回しだ」
《本来ならお嬢にさせるさ。だが、今回ばかりは急だし、ちょっとな…。ハヤテさんの時代にも召喚命令なんて無かったから俺らも初めてだし…まァ、学生でまだ未熟なので代わりに側近が来ましたって言やァ角は立たんだろ?》
「そうしてくれるとありがたい。ウチのカリキュラムも中々ハードな上、インターンも始まる。正直くだらん命令に付き合ってる暇はない」
《くだらんって!ひでェ言い草だな!ま、場合によっちゃお嬢を巻き込まざるを得なくなるからよ、アンタに情報流しとかねェとと思ってな。とりあえず、指示の内容によっては今日中にお嬢に連絡することになると思う》
その言葉を最後に電話は切られた。
あの子が、彼でも対応できない大きな流れの中に巻き込まれてしまえば、それこそ相澤にはどうすることもできない。
苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめるとチッと舌を打った。
「面倒な事になった」
インターンといい、召喚命令といい。
面倒だとは思うが、事前に情報があるのとないのでは対応に大分差が出る。
九条ら側近陣からは、時々不安定になるアレのメンタル面のサポートを期待されているのだろうが、そういうのは専門外なんだよ、と相澤はこめかみをトントンと指で叩くのだった。
ー
その日のホームルームはいつもとは違う緊張感があった。
いつも気怠げな相澤がやけに真剣な目でプリントを配ったからかもしれない。
梓は前の席から受け取ったそれを1枚取って後ろの席に回す。
「インターンを再開させる。今までは任意だったうえ、その後敵連合の件もあったので各事務所と学校の間で決めた自粛…つまり様子見だった訳だが、国からヒーロー科全生徒の実地研修実施が要請された」
「インターンを再開ぃ!?」
「おいおい冗談だろ、期末もあるってのに」
驚きの声をあげたのは切島と瀬呂だけではなかった。
前回のインターン参加を勉強との両立ができないという面で見送った生徒や、前回敵連合関連との接触によりインターン中止となったため、そこの問題が解消されていないのにも関わらず再開することを不思議に思う生徒がざわつく。
「敵連合の動きも掴めてねーのに再開ってどういうことだよォ!しかも全員!?」
「峰田、落ち着け。敵連合については詳しい状況は上がっていないが、奴らがどうであれお前たちが経験を積むに越したことはないだろ。ちなみにこれは冬休みの課題だ」
「「「「冬休みの課題!?」」」」
課題デカすぎんだろ、と青ざめたのは峰田だけではない。前回インターンに参加していない者は皆一様に戸惑った表情をしていた。
相澤は続ける。
「プリントにも書いてある通りだが、任意参加だった前回と違って今回は課題なので当てがない者は学校で紹介する」
勿論、自分で探してもらっても構わない、と相澤が肩をすくめ、生徒たちはそれぞれ受け入れてくれそうなヒーロー事務所を思い返す。
そんな中、質問するためにパッと手をあげたのは緑谷だった。
「先生!あの、今回のインターン…梓ちゃんはどうなるんでしょうか?前回は確か、敵連合に明確に狙われているということもあり、学校の判断で相澤先生がインターン生として受け入れたんでしたよね?」
まさか緑谷が自分の質問をするとは思わず梓は目をぱちくりとさせるが、周りのクラスメイトたちも気になっていたようで皆一様に相澤の方を向いた。
彼はキュッと眉間にシワを寄せる。
どうやら、ほぼ彼女の保護者的立ち位置である彼からすれば不本意な結果らしいことはその不機嫌な表情で伝わった。
「……外部の事務所に受け入れを頼むことになった。全員参加となれば東堂だけ例外的な対応をするわけにはいかないと。前回と同じように俺が受け入れようと提案したが、それも却下された。詳しい話は直接本人に話す、東堂、この後職員室に来るように」
仕方なさそうに息を吐いた相澤にちらりと見られ、梓は意外そうに頷いた。
まさか自分に外部インターンの許可が出るとは思わなかったが、彼の様子を見るに上からの圧力があったのかもしれない。もしかして、公安だろうか、いや、一介の生徒相手にそんな圧力かけるだろうか。
不可解に思いつつも、ホームルーム後、梓は真っ直ぐ職員室に向かうのだった。
ー
職員室に着くと、よう問題児、とプレゼントマイクに声をかけられ、貴女も大変ね、とミッドナイトにふわりと頭を撫でられた。
あまり誰かに頭を撫でられることがないのでふへへ、と笑えば見ていた相澤にだらしない顔をしている暇があればさっさとこっちに来なさい、と注意を受けた。
『ひどいです、先生』
「そうか?それより、さっきの話だが、」
『外部にインターン、ですよね?』
「そうだ。教室でも話した通りだが、俺がお前を受け入れるのも却下された」
『却下…誰にですか?』
「平たくいえば公安だな」
眉間にシワをくっきりと刻んだ状態で額に手を当てた相澤の言葉に梓は一瞬言葉に詰まる。
何故、一介の生徒に公安が口を出すのだろうか。
たしかに自分は守護一族の当主だが、正直言ってこのヒーロー飽和社会で東堂一族の影は薄い。
今までほとんど無個性で影が薄かった都市伝説のような一族から仮免ヒーローが輩出された、と一部の界隈はざわついているとは聞くが、そこまで公安から重要視はされていないはず。
『どういうことですか?公安が私を名指しした訳じゃないですよね?』
「ほぼ名指しだ。敵連合に狙われている者については、エンデヴァー事務所に受け入れを要請すること、と。先にそういう指示が下れば、俺がお前を受け入れることはできないだろう?」
『エンデヴァー事務所!?えっ!?なんで!?』
一族関係か?と考えていたところでのまさかの指示に叫ぶが、すぐに静かにしろと怒られて梓はきゅっと口を閉じた。
「何故そうなったかはわからんが、No.1ヒーローでなければお前を守れない、と誰かが判断したのかもしれん。……油断するなよ」
『No.1ヒーローでなければ守れないって…、そこまで警戒されるほど自分が強く狙われているとは思えないんですけど。今までだって、普通に生活している分には敵連合の影などなかったですし』
「何を呑気な……」
『どうせ外部にインターンするなら、できれば私、ホークスさんのところに行きたかったです。エアライドのコツ教えてもらえそうだし』
「贅沢言うな。No.1に教えを乞う機会なんてそうそうないぞ。色々と違和感や心配ごとは多いが、お前は学ばなければならないことも多い。この際もう開き直ってしっかり学んでこい」
疲れ切った顔でしっしっと手を払われた。
どうやら話は終わったらしい。
『はぁい』と言いつつ、相澤の自席の横に置いていた椅子を片付けていれば、ふと少し寂しさがわきあがった。
些細な表情の変化に気づいたらしく、どうした?と心配そうに眉間にシワを寄せる相澤に梓はぷるぷると首を横に振る。
『なんでもないです。ただ…前のインターンは、先生が一緒だったのでそこまでの不安はなかったんですけど、今回は先生がいないのでちょっと寂しくなっただけです』
「………そうか、そりゃ残念だったな」
『先生、なんで笑うんですか』
「いや?いいから早く行け」
何故か少しだけ口元を緩めている彼にもう一度しっしっと追い払われ、梓は少し名残惜しそうに寮に帰るのだった。
ー
寮に帰ってすぐにサンタの格好をしている友人たちに服を着せ替えられ、梓は目をぱちくりとさせた。
「あら、可愛いサンタね。似合ってるわ、梓ちゃん」
共有スペースに降りてすぐ蛙吹に褒められ、周りのクラスメイトたちも同じような格好をしていて、テーブルに豪華な料理がたくさん並んでいるのを見て、フリーズする。
ぽかんと口を開けて固まった少女にまわりは首を傾げるが、緑谷は1人だけ事情がわかるようで苦笑していた。
「梓ちゃん、今日クリスマスだよ。クリスマスパーティー初めてだった?」
『いずっくん、うん、…初めてだ。こんな赤い服着るのも、みんなでこうやってパーティーして、美味しそうなご飯を食べるのも初めて!』
ぽかんとした顔が崩れ、幸せを噛みしめるような素の笑みでそう言った梓に緑谷は思わず両手で顔を覆った。
「超可愛い」
「あ、緑谷がやられた」
「いやあれは仕方ない。凶器の笑みだった」
放心した緑谷を置いて手招きしている耳郎と麗日の間にどーんっと座った少女は幸せそうである。
そして料理や飲み物の準備が終わり、「メリークリスマス!!」という聖夜の挨拶とと共にクラッカーが鳴り、楽しいパーティーが始まった。
『じろちゃんそこのお肉とって!』
「はいはい、あんたホント嬉しそうだね」
『だってこんなの初めてだ。嬉しいし楽しいよ』
ぱくぱくご馳走を食べ、美味しいジュースを飲んで、皆の楽しい会話に耳を傾ける。
会話の内容は次第に今日のホームルームで告げられたインターンの話になっていった。
「二人はリューキュウだよね?」
左隣に座る耳郎が、自分の右隣にいる麗日と蛙吹に視線を投げる。
「そやねぇ、耳郎ちゃんは?」
「うーん…どうしようかな」
どうやら悩んでいるらしい。
『耳郎ちゃんは索敵強化して私と共闘してほしい』とここぞとばかりにわがままを言えば「梓と共闘?無茶言うねえ」と面白そうに笑われた。
無茶ではないし冗談ではないのだが。
さてどうしよう、と耳郎が悩む中、飯田と緑谷の会話が聞こえてきた。
「緑谷くんはどうするんだい、その…ナイトアイ事務所…」
「センチピーダーが引き継いでるんだろ!?久々に会えるじゃねェか!」
「僕もそう思ってたんだけど…今引き継ぎで余裕がないみたいで。グラントリノもダメだから、今宙ぶらりん」
「そっかあ。梓はどこにするんだ?今回は外部インターンに参加できるんだろ?」
切島の問いに、気になっていたらしい緑谷と飯田の目がこっちを向いた。
隣の2人もどうなの?と目で聞いてきていて、梓は悩むように頬に手を当てる。
『うん、ただ私に選ぶ権利はないみたいだ』
「どういうこと?梓ちゃん、指名たくさんきとったよね?たくさん選べるんやない?」
「麗日の言う通りだろ。職場体験先はエッジショットだし、ホークスとも繋がりがあるんだろ?」
『エッジショットさんからも色々学びたいし、一族としての繋がりとはいえホークスさんからエアライドのコツとか盗みたかったんだけどねぇ…』
「なら、」
『エンデヴァー事務所一択。相澤先生が言うには、対敵連合対策だろうって』
「「えっ」」
驚いた表情の彼らに梓は頬に手を当てたままうなずいた。
こちらとしてはNo.1事務所に受け入れてもらえるのはありがたいのだが、向こうからすれば厄介者を押し付けられるだけである。
エッジショットと違って職場体験で指名してくれていたわけでもないのだ。
申し訳ないんだよねぇ、と息を吐けば、
驚きから最初に我に返った麗日が「いいんやない?」と笑う。
「エンデヴァーが凄い人なのは、九州で一緒になった梓ちゃんがよくわかってるやん。この機会に学んできたらいいんよ」
『お茶子ちゃんと同じことを相澤先生も言ってた』
ふ、と息を吐いて梓が笑う。
少し気が楽になったらしい。学ぶか、とぐっと伸びをした少女に思わず峰田はそれ以上強くなってどうすんだ、と遠い目をした。
『切島くん、そういう君はファットさん?』
「おう、勿論。爆豪はジーニストか!?」
「あ!?……決めてねェ」
ベストジーニストが行方不明になったという報道はつい最近だった。ジーニスト事務所自体は稼働しているとはいえ、No.3のヒーローがいない事務所にインターンが受け入れられるのかは微妙だろう。
「でもまーおめー指名いっぱいあったしな!行きてーとこ行けんだろ」
「今更有象無象に学ぶ気ィねェわ」
『有象無象て。ていうか、インターンって冬休みの課題だったよね?正月明けからかな?』
「そうなんやない?」
『よかった。年末、刀鍛冶に武器類研ぎ直してもらう予定だったんだよね』
「そっか、梓ちゃんの武器ってサポートアイテムやないもんね。刀鍛冶に頼むんだぁ」
『うん、うちの専属がいる』
にっと口の端をあげた梓に麗日が「お嬢様やん」と目を丸くする中、峰田が怒りの形相で立ち上がった。
「おオい!清しこの夜だぞ!!いつまでも学業に現抜かしてんじゃねー!!」
「斬新な視点だなオイ」
「まァまァ、峰田の言い分も一理あるぜ。ご馳走を楽しもうや」
七面鳥の丸焼きを持ってきた砂藤を周りが料理もできるシュガーマン!と絶賛していると、かちゃりと寮の扉が開いた。
「遅くなった…もう始まってるか?」という言葉とともに相澤が連れてきたのは、可愛らしいサンタの格好をしたエリだった。
わっとみんなが集まり、口々に来訪を喜ぶ。
「かっ可愛〜!」
「似合ってるねえ!」
「通形先輩はいないンスか!?」
「今日はこっちで、と伝えてある。通形はクラスの皆と過ごしてるよ」
『エリちゃんだ!』
緑谷の後ろからひょっこり顔を覗かせた梓にエリの顔が笑みで破綻する。
「梓ちゃんっ!わたし、こういうのはじめてで、」
『あははっ一緒一緒!こっちにおいで、ご馳走を食べよう!』
花が咲くような笑みで手招きをする梓にエリは飛びつくように笑った。
ー
パーティーが楽しくって嬉しくってずっと笑っていれば、隣に座るエリが「梓ちゃん、しあわせそう」と目を細めるものだから、梓は一瞬きょとんとした。
『幸せ…うん、そうだね、私は幸せなのかもしれない!』
「梓ちゃん、わたしね、がんばってこのちからをつかえるようになるね」
エリの小さな手が額のツノを覆う。
「梓ちゃんや、ルミリオンさん、デクさんみたいになりたいから。たのしい時間を、もう無くしたくないから」
『……そうだねぇ、うん。エリちゃん、私も一緒に頑張るよ』
「梓ちゃんもがんばるの?」
『うん、エリちゃんは力の制御。私は、こういう幸せを丸ごと守るために頑張る』
ね?と笑う梓に近くで聞いていた峰田がそれ以上頑張ってどうすんだよ、と遠い目をする中、「皆、各自持ち寄ったプレゼントをここに置いてくれ!」と飯田の号令でプレゼント交換の為の準備が始まった。
「プレゼントこうかん?」
『…なんか人にあげられるもの準備してろとは言われたけど、この為だったのかぁ…』
少しだけ気まずそうに風呂敷に包まれたプレゼントを出せば「クリスマス感なさすぎんだろ!」と切島に爆笑される。
しょうがないのだ、自分の部屋にはこういうものしかないし、まさかクリスマスパーティーでのプレゼント交換に使われるものだとは思っていなかった。
飯田と八百万で各プレゼントに紐をつなぎ、「せーの!」という掛け声とともに一斉に引っ張る。
ぐいっと引っ張って飛んできた小さな袋をキャッチした梓は、わくわくしながら開封し、中身を取り出した。
『わっ、りんごだ!?すごい、なんで!?』
「え、東堂がりんご引いたぞ!誰だりんご入れたやつ!」
「りんごの供給源といやァ、爆豪か緑谷だろ」
「ぼ、僕じゃないよ。僕はオールマイトのキーホルダーを入れたから」
「ってことはぁ、」
にやにやと振り返った芦戸の視線の先には顔を逸らしている爆豪がいる。
どうやら彼らしい。梓がそのプレゼントを引き当てるかもわからないのに、りんごを入れるなんて。と周りが揶揄うような目で見れば、「余ってたからいれたんだよ!悪ィか!」とキレていた。
『悪くないさ、嬉しいっ!』
「ホントに嬉しそうだな。良かったね」
『嬉しいよ、耳郎ちゃんはなんだったの?』
「ウチは多分瀬呂のやつかな?アジアンテイストの膝掛け」
お洒落だねぇ、と2人で笑っていれば、轟が開封したプレゼントを見て尾白と瀬呂が「「ぶっ」」と勢いよく吹き出した。
「轟のプレゼント凶器なんだけど!?誰だよ苦無入れたやつ!?」
「誰って…武器的に1人しかいねーだろ!?しかも風呂敷だし!東堂!!」
叫ぶように瀬呂に呼ばれ思わず姿勢を正して彼の方を見れば、手のひらに苦無を乗せて周りからドン引きの目で見られている轟がいた。
『あああごめん!その!趣旨がわかってれば、他の選んだんだけどさ!』
「「はァ!?」」
「流石に轟が可哀想だろ!わくわくしながら開けたのに出てきたの凶器で放心状態だぞ!?」
『ごめんって瀬呂くん!だって!誰かにあげるものって言われて、え?武器かな?扱いやすいやつがいいのかな?って思うじゃん!!』
「「「思わねーよ!!」」」
聞こえていたクラスメイト達ほぼ全員にツッコまれ梓はぐっと押し黙った。
ちなみに耳郎と葉隠は腹を抱えて笑っている。
『うう〜…ごめん轟くん!ほかのと変える!?私、次はちゃんと選ぶから』
「……」
ホントごめん、と両手を合わせる少女に許しを乞うように見上げられ、轟はやっと意識を取り戻した。
ハッとして、苦無と梓をゆっくり見比べると、無表情な彼の表情が少しだけ柔らかくなる。
「いや、いい。これをもらう」
『いいの!?』
「梓が、誰かを守れるようにって思って入れたプレゼントだろ?なら、相棒の俺がもらうのが一番じゃねえか?」
『あ、そういうもん?ならいいや』
いや良くないよ!とツッコむ者もいれば、轟が幸せそうだからいいんじゃない?と笑う者もいる。
一騒動あったが、無事プレゼント交換が終わった。
楽しかった時間も終わり、次はパーティーの後片付けである。
かちゃかちゃと食器を割らないように慎重に片付けていれば、ふと後ろから声がかかった。
「緑谷、爆豪、梓」
幼馴染2人と一緒に振り向けば、両手に食器を持ってこちらをじっと見ている轟がゆっくりと口を開く。
「もし行く宛が無ェなら、来るか?No.1の、インターン」
問われ、驚愕に目を見張った2人の幼馴染の間で、梓はぽかんと口を開けた。
どうやら今自分はエンデヴァー事務所へのインターンにお誘いを受けたらしい。
やっと自分の中で咀嚼したところで、こちらをじっと見ている轟と目を合わせる。
『まだ君には言ってなかったけど、私…実はもうエンデヴァー事務所にお世話になる予定なんだ』
「!?…そうだったのか。自分で頼んだのか?」
『いや、私は敵連合に狙われているから、エンデヴァー事務所にお願いするって上の人が決めたらしい』
「なんだそれ。まるで、No.2以下はお前のことを守れないとでも言いたげだな。やり過ぎだろ」
『うん、私もちょっと思ったけど、もう相澤先生のところに降りてくるころには決定事項だったらしいんだ。敵に狙われてる厄介者を引き受けることになってエンデヴァーさんも大変かもしれないけれど…』
「それは別にお前が気にすることじゃ無い」
きっぱりと否定された上に、「守るのがあいつの仕事だろ」と肩をすくめた轟に少し気が楽になり、お世話になります、と頭を下げつつちらりと爆豪の方を見れば難しい顔をしていた。
『かっちゃんはどうするの?』
「………行く」
『いずっくんは?』
「勿論お願いしたい!轟くん、いいかな?4人受け入れることになっちゃうけど…」
「アイツの事務所は無駄にでかいから、多分大丈夫だ」
「そっか、なら良かった…」
『幼馴染3人共々、よろしく頼むよ』
肩をすくめて笑った梓に轟は俺も一緒に頑張る側だけどな、といいつつつられたように口角を上げるのだった。
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