四十万打リク◆ある日の授業の特別ゲスト
(お家騒動後)

今日のヒーロー基礎学は学校指定ジャージで行われるとの案内があった。


「ヒーローコス、着ないで何するんかね?」

「さぁ?しんどいからお昼ご飯少なめにしておけって相澤先生に言われたけど」

「え゛?」


首を傾げた麗日は、不穏な発言をする芦戸に思わず顔を引きつらせてそばにいた梓の腕を掴んだ。


『わっお茶子ちゃんどしたの』

「ご飯少なめにしておけって吐くってことなんかな!?」

『そうかもなぁ。相澤先生、話盛らなそうだし、ほんとにキツイのかも』

「えぇぇー…持久走とかかな!?」


私体力ないから嫌いなんだよね、持久走。
と微妙そうな声音でそう言う葉隠を先頭に、女子一行は体育館へ向かった。

今日の体育館は、普通だった。
工業地帯を模しているわけでもないし、街中を模しているわけでもない、ごく普通の体育館。
集められた生徒はそわそわと相澤を窺うように見た。


「今日のヒーロー基礎学は君たち察しの通り、いつもとは違う。個性を使わない」


いつもの死んだ目でだるそうに言った彼に周りは少しざわついた。
ヒーローとは個性を使ってナンボである。
だから、ここ最近はずっと個性伸ばしに時間を使ってきた。
なのになぜ今日は個性を使わないのか。
個性を使わずに、何をするのか。

戸惑う生徒たちに相澤は続けた。


「個性を使わずに戦闘訓練をする」

「個性を、使わない…?先生、仰ってる意味がよくわかりません!」

「まあ待て飯田。順を追って話すよ」


相澤は首元の捕縛布を解きながら淡々と説明を始めた。


「ヒーロー活動において戦闘は避けては通れん道であることは君達も知ってるだろうが、稀に、個性を使えない状況が出てくることもある。まあ、例えば、俺のような抹消系の個性相手だったり、先日のインターンであったような個性を壊すクスリを撃たれた場合だったり、」

「た、確かに…」

「そうだよね…ウチの個性も、近接にはあんまり強くないし」

「私も、ガンヘッドさんとこで格闘術教わったけどまだまだやわ」


悩ましげに顎に手を置いた耳郎と納得したように頷いた麗日。確かに相澤の言う通りである。
彼女ら2人以外にも、自分の個性が直接的な攻撃向きではない峰田や八百万たちは図星をつかれた気持ちになっていた。


「…個性に頼りきりではいけないと?」

「そう、飯田の言う通り。昔こういう言葉を聞いたことがある。“個性のみを過信し、傲慢に個性に縋り、己の道を切り開けぬような者はただの軟弱者だ”と」


なんて言葉だ。誰が言ったのだろう。
個性を生業とするヒーローが言いそうにない言葉に周りが呆気にとられていれば、『んえっ?』と妙な奇声を発したものだからクラスメイトたちの視線が梓に向いた。

彼女はとても驚いた表情で、目をまあるくさせて相澤をぽかんと見ていた。


「え、何、梓」

『っ、いや、だって、その言葉、』


驚く少女に相澤の口角が少しだけ優しげに上がる。


「そりゃ、お前は聞き覚えがあり過ぎるだろうな」

『……それは、もう』

「俺は一度、過去にあの人とご一緒した時に聞いた。現場にいた若手のヒーローに向けた喝だったが、あの強烈な一言は頭にこびりついてるよ」

「相澤先生、つまり、」

「ああ、この言葉は東堂の親父さんの言葉だ。あの一族らしい言葉だが、ド正論だよ」


よく話題に上がるあの東堂一族の言葉らしい。
体術武術に秀でる近接格闘の才らしい、的を得た格言。

やっと相澤の言わんとしていることが伝わった。
近接格闘を磨いていて損はない、くらいに思っていたが、それではダメなのだ。
近接格闘が出来なければヒーローとしてまだ未熟である。
確かに、プロヒーローは個性を使わずとも強いというもんな、とクラスメイト達はうなずく。


「というわけで、今日は無個性状態での近接格闘術を鍛える。と、その前に…今日はスペシャルゲストが来ている」


「梓ちゃんのパパ超怖い」「ヒーローに説教したとかやばくない?言われたら普通に泣くんだけど」と葉隠と芦戸が震えていれば、そう言った相澤の紹介と共にそろりと比較的長身の紫髪の青年が体育館に入ってきた。


「…どうも」

「アッ」「げっ」「お。」


三者三様さまざまな反応で迎えられたのは、最近梓の門下生+眷属だということが公になった心操人使である。
驚く緑谷、嫌そうな爆豪、少し微妙そうな轟、他の好奇心や観察眼に居心地悪くなりながらのそのそと相澤の近くまで歩いていく。

一部の警戒するような視線に(これ絶対梓絡みだろ)と内心胃が痛くなるが、当の本人は全く気にしていないようで花が咲いたようにぱあっと顔を明るくさせると小走りに駆け寄ってきた。


『心操っ』

「……」

『心操だ!わー、なんでここにいるの?一緒に授業受けるの?』

「さぁ、イレイザーヘッドに呼ばれたから来た」

『そうなんだ!なんでだろうね?それより心操、あのさ、』

「東堂、嬉しいのはわかったが、私語は慎むように」

『あっはい』


「見とった?梓ちゃんに犬の尻尾見えた」「うん、ブンブン振ってた」余程嬉しいのだろう。そう言葉を交わしながら麗日と葉隠がちらりと過保護三兄弟(爆豪轟緑谷)を見れば眉間にシワが寄っていて、心操は居心地が悪そうで、少し同情した。

きっと、側に駆け寄ってくれるのは嬉しいが、彼らの前では控えめにしてほしい、という矛盾した感情がせめぎあっているのだろう。
そのせいか少し素っ気ないが、梓は大して気にしていないようで単純に嬉しそうである。


「とりあえず、各々、準備に入ってもらう。個性を使わんとはいえ、必ずしも素手でやる必要はない。ある程度の武器はこちらで揃えた。自分で使いやすいものを探すように」


相澤が指差した台の上には様々な武器が並べられていた。大太刀から短刀までの複数種類の刀や、苦無、万力鎖、十手、警棒、鉈、槍、鎖鎌、手裏剣、寸鉄、様々なそれらは圧巻だった。
わっ、と台の近くに集まる生徒たちに「扱いに気を付けろよ」と声をかけながら自分も歩み寄る。


「直ぐに手に入った分だけ持ってきたが、使いづらい時は自分で改良するのもアリだ」

「見たことねェ武器ばっかだ」

「すっげぇ、けど、使い方が」

「それもそうだな。ああ、そうだ、東堂」

『はい?』

「お前、どれなら扱える?」

『一応全部』


そうか、そうだろうな。と相澤が納得する中、クラスメイト達は唖然と梓を見た。
一部ちょっと引き気味である。
当の本人は平気な顔で、手裏剣をしゅるる、と回していて、『最近はもう刀が多いですけど』「他は」『弓新調しようかなと』「そうか」と呑気に会話をしている。


「エッまじで?東堂、これ全部扱えんの!?」

「嘘だろ!?俺もう梓ちゃん家怖い!!」

『ちっさい時から“なんでも好き嫌いせず使いなさい”って言われてて。てへへ』

「苦手な食べ物があるときに言われる台詞!!てへへじゃねぇ!!」

「峰田の全力ツッコミに初めて同意したわ」


俺もう東堂一族が信じられねェ、と頬を引きつらせる切島は遠慮がちに心操に視線を向ける。


「門下生、しんどくねェのか?」

「え?…ああ、まぁ、そりゃあね。イカれてるとは思ってる」

「お前もこの中でなんか使えるやつあんのか?」

「…梓に比べたら少ないし、練度も全然だけど…とりあえず、刀全種と苦無と万力鎖くらいなら」

「お前もおかしいところに片足突っ込んでんぞ」

「やめて。それ一番言われたくない言葉」


瀬呂の発言に思わず苦虫を噛み潰したような顔をするものだから周りは意外そうに顔を見合わせた。


「門下生って言うからには、東堂と似通った思想なのかと思ってたわ」

「冗談だろ。あれは、イカれてる」

『おっと悪口が聞こえた』


砂藤と心操が話す間にずいっと現れた梓はじとりとした目を心操に向けるが彼は慣れたように押し退けると、


「イレイザーヘッド、俺は何をすれば?」

『ちょっと心操ほっぺた押さないで』

「お前と東堂は今日はこちら側だ」

『「え。」』


若干揉み合いになっているところにちょいちょい、と手招きされ梓と心操は揃って動きを止めた。


「ど、どういうことですか」

『こちら側?先生側ってこと?』

「そうだよ。一人じゃ手が回らんからな。手伝え」

「手伝うって、具体的にどうやって」

「全員に武器を選ばせる。使い方を教えた後は打ち合い稽古だ」

『えっ、それってここにいるみんなと連戦しろってことですか』

「は!?しんどすぎるだろ…」


表情を固まらせた心操の隣で梓も顔を引きつらせていて、『うーん…これはちょっと』「出来そう?多分アンタへの比重が大きくなると思うよ」『え?なんで』「いや俺は弱いから。個性使わないとはいえ俺みたいなのがヒーロー科の相手になるとは思えない」『そうかなぁ』と2人でコソコソと話している間にも相澤は他の生徒達に武器を説明し始めていて。


「東堂さん、これ使える?」


トントンと肩を叩かれ振り返れば尾白が手裏剣を持ってい梓はこくんと頷くと慣れた様子で受け取った。


『うん、使えるよ。尾白くんは元々武闘家だから、投擲ができる武器は相性いいかもね』

「だよな。ちょっと投げて見せてくれないか」

『ん。心操』

「マジか」


名を呼ばれ嫌そうな反応をしつつも台の上から脇差を引っ掴んで後ろにトントンと飛び梓から距離をとった瞬間。


ーシュパッ、キィン!!


片手で放たれたそれは勢いよく回転し横から弧を描くと真っ直ぐ心操に向かい、彼は間一髪でそれを脇差で弾いた。


「「「お〜!!」」」

「っと、疾いんだよ…!」

『両手で打てば、撹乱にもなる!』

「うわ、」


ーキィンキィン!!


「ちょっ、待って梓。疾い」


心操が一度手をあげて休止の姿勢を取ったことで、梓はふうっと息を吐くと残りの手裏剣を尾白に返す。


『こんな感じ』

「凄いね!?忍者みたいだった」

「梓ちゃんすっごーい!!かっこい!!なんでいつも手裏剣使わないの!?」

『あ、ありがとう、透ちゃん。うーん、あんまり手裏剣って攻撃力は高くないし、斬撃を飛ばせるようになったからあまり必要性を感じてなくて』

「東堂、これは?かなりでけえが、使えるのか」

『大太刀かぁ、うん』


わくわくしている轟から大太刀を受け取った梓が腰に添えるように帯刀し、構えたのを見て切島は「天蓋のバリアを崩した時、大太刀だったよな!」と興奮気味に目を輝かせた。


『うん、破壊力をあげないといけなかったから。でも重くて、機動力が落ちるのがネックなんだけど』


シン、と静まり返る体育館で轟をはじめとした視線が彼女に注がれる。


ーカチッ、シャン


鯉口を切ると大きな刀身を体全体を使って抜刀し、上段の構えから袈裟斬り、すぐに霞の構えから突き、くるんとステップを踏むと横に薙ぎ払った。


ーブォンッ


小さな体では扱いにくいであろうそれを難なく操る。
一通りこなすと、刀を仕舞う。


『大太刀は、通常の刀より威力が大きく、振る、薙ぐ、突くって幅広く使える』

「…すっげえな」

『でも、轟くんにこれは合わないと思うよ』

「いや、別に使いたいわけじゃねえ。お前が扱う姿が見たかっただけだ」

『そうなの?ふふ、変なの。あ、心操も使えるよ?』

「あいつのは別に見たくねえ」


すん、と表情を無にした轟にあからさますぎだろ、と心操が口元をひくつかせていれば、他のクラスメイトたちに矢継ぎ早に「次はこれ!」「これの使い方も教えて!」と梓が囲まれ始めていて。それは心操も例外ではなかった。


「おーい心操、これ使えんだっけ?」

「あ、うん。それくらいなら」


苦無をブンブン振りながら駆け寄ってきた切島と口田に遠慮がちに頷きつつ「でも、梓の方が上手いよ」と呟くが、


「そりゃあいつはガキの頃からやってっからな!」

「まだ期間も短いのに、色々な武器が扱える君も凄いと思う…」

「稽古って大変なんだろ?九条さん容赦なさそうだし」

「…九条さんもだけど、俺は、水島さんの底無し体力に吐きそうになる」


げっそりと言いつつ苦無をくるんと回した心操は自分が水島たちに教わったように、切島たちに教え始めた。





刀や苦無などの武器を手にする者もいれば、体術の基礎を向上させる者もいた。
基本は相澤が教えるが、要所要所で梓と心操が手伝うような形で授業は進んでいった。


「わかってたつもりだけど、やっぱアイツん家ってぶっ飛んでるよな」


砂藤にそう声をかけられ、瀬呂と上鳴は苦笑ぎみにこくんと頷く。
視線の先には組み手でやり合っている梓と爆豪が居て、いつも差しの勝負では競るのに、今日は爆豪が綺麗に負け越していた。
それもそのはず。無個性状態で彼女に適うはずがない。

一朝一夕でどうにかなる差ではないのは、わかっていたがこうも圧倒的か。


「すげえって思うと同時に、今までどんだけ稽古漬けだったんだってゾッとするよな」

「個性含めた時の動きには慣れ始めちまってるけど、無個性の時はほんと圧倒的にやばいよなぁ」

「俺があの体術扱えるようになんのにどんくらい掛かんのかな?」

「10年くらいじゃね?」

「冗談抜きでそんくらいかかりそうなんだけど」


上鳴の引きつった顔に瀬呂と砂藤が笑っていれば、相澤から集合の号令がかかった。
どうやら授業も終わりに近いようで、


「各々、自分の近接格闘について感じが掴めてきたと思うが、今後、こういった授業は少ない。各自鍛錬を積むように。今日は最後にデモンストレーションを行って終わりとする」

「「「デモンストレーション?」」」

「イメージがあったほうがいいかと思ってな」


そう言って面倒そうに捕縛布をしゅるる、と解き、台の上に置いた相澤は首元を緩めながら、ちょいちょいと指で梓と心操に合図をした。


「『?』」

「お前ら2人、素手でまとめて掛かってこい」

「『エッ!?』」

「協力して俺に攻撃を1発入れろ。制限時間は1分だ」


そう言ってパキポキと首を鳴らしたものだから、周りは騒ついた。


「いや、キツくねェか!?」

「流石の東堂さんも相澤先生相手じゃ難しいんじゃないか…?なんたって相澤先生は個性の性質上、近接格闘に優れてるわけだし」

「尾白さんの言うとおりですわ。それに、素手だなんて。梓さんの得意分野は剣術ですのに…」


周りから溢れる不安げな声は最もで、実質相澤に弟子入りしている身である心操は(そりゃそうだ、あの人に勝てるはずない。俺よりも、梓よりも沢山の場数を踏んでるんだし)と納得しつつ、轟と爆豪に挟まれている少女にちらりと視線を移せば、


『……』


目を閉じて何かを考えているようで、その目がパッと開くと


『…うーん、考えても勝てそうないい策は見つからないけれど』

「………」

『そもそも私は考えて行動するタイプじゃ無いんだった』


ゆっくり上がった口角に、ああこいつやる気だ、と心操はその背を支えるために重い腰を上げた。


「勝てないと思うよ。流石に」

『うーん』

「そもそもアンタと共闘したこと、殆どないよな」


正直言って、相棒と呼ばれている轟や幼馴染の2人のように流れる連携が出来るとは思えない。ずっとそばにはいるけれど、彼らのように一緒に死線をくぐってきた訳ではないのだ。
見定めるように見てくる轟や爆豪の視線が痛い。

どうやって合わせたらいいのやら、心操がどうしたものかと項垂れていれば、


『私がどう動くか、君ならわかるだろ』


不思議そうに、当然のように言うものだから心操は面食らった。
思わず「は?」と声を漏らせば、『あれだけ打ち合い稽古してるんだから』と肩を竦めていて、その絶対的な信頼は俯いていた心操の顔を強引に上げさせた。


「……それもそうか」

『うん、私も君の動きはずっと見ててわかるから、ぶっつけ本番で大丈夫だと思う』

「うーん、嬉しいけれど、そういう発言は2人の時にしてもらえると」

『え、なんで?』

「皆アンタみたいに能天気じゃないんだよ。前にも言ったろう」


「そろそろ良いかな」


ますます轟たちの視線が痛くなった時。相澤の声かけで緩みと動揺があった場が一気に締まった。
ほんわかしていた主人(仮)の気配が打ち合い稽古の時のように鋭く引き締まったのを感じ、自分も慌てて深呼吸をして気持ちを入れ替えれば、
「うわ、心操くんも梓ちゃんと同じ目しとる」「目ぇギラッてる!門下生痺れる!」「葉隠がきゃっきゃっしてる横で爆豪の目が人殺しそうになってんだけど」と周りの声が聞こえ(あ、爆豪の方見ないでおこう)と心の中で誓う。

そして、ピッという笛で開始の合図が鳴った。
瞬間だった。


まず最初に勢いよく地面を蹴ったのは相澤だった。
まさか、あの梓が先手を取られるとは思わなくて周りはざわつくが、
それ以上に周りを驚かせたのは相澤の本気のスピードである。まるで電光石火、目が追いつかない身のこなしで彼は一気に心操への距離を詰めると腹に拳打を打ち込もうとするが、


ーパシィンッ!!


間一髪で梓が2人の間に入ると同時に拳を払い、受け流した。
相澤の軌道を捉え、上手くいなした少女はその勢いのままタンッと飛ぶと空中で90度体を捻り相澤の横っ面に蹴りを入れようとする。

と同時、彼女が飛ぶのをわかっていたかのように心操の足払いが彼女の足元を抜け相澤に届く。


「カウンターで同時攻撃!?」

「マジか!」


相澤は梓の足首をパシンッと掴んで攻撃を止めると同時に飛んで心操の攻撃を躱すが、
足を掴まれているのにぐるんっと空中で体をひねると相澤の脳天にかかと落としを食らわそうとするものだから流石に「曲芸か」と舌を巻きつつ腕でガードしようとするが、


「こっちです、よ!」


梓のトリッキーで防御ゼロの超攻撃的に一瞬意識を持っていかれたことで心操からの攻撃に一歩出遅れた。
かかと落としと同じタイミングで迫っていた脇腹への全力の蹴りに、思わず掴んでいた梓の足首を離してダンッと一歩後ろに下がる。


「うそ、連続同時攻撃!?」

「やべェな!わ、東堂の奴、体勢めちゃくちゃだったのに着地と同時に地面蹴ったよ、猫かよ!?」


ダンッと地面を蹴り1間下がった相澤の懐に難なく入るとガガガッ!と拳撃を連打するが、全て受け止められる、しかし、その目にも留まらぬ拳撃は囮だった。
いつの間にか背後に回り込んだ心操の回し蹴りが真横に迫り、「おっと、!」と相澤が間一髪で避けた瞬間。
バランスが崩れたのを梓は見逃さなかった。


『ナイス心操!』


咄嗟だった。拳撃を打ち込もうとして、ああそういえばこれは先ほどすんなり受け止められたなぁ、とコンマ数秒の間に攻撃を転換する。
それは図らずとも相澤へのフェイクになっていて、
その隙に梓はもう一歩踏み出すとガンッと肘を打ち込もうとするが、


ーパシィンッ!


ギリギリで止められ、その瞬間、相澤と渾身の攻撃を受け止められたはず梓は何故か同じタイミングで一緒に口角を上げた。

肘打ちでほぼ0距離になる。腕を掴まれ蹴りも打ち込めない状況で少女が選択した最後の一手。それは、


ーがんっ!


相澤の顎への頭突きだった。


「ぐっ」

『いったぁ…!』


痛そうな呻き声と共にバランスを崩して相澤が後ろに倒れる。
頭突きは、された方も痛いだろうがする方も痛い。つられて梓も上に乗っかるようにして倒れ込み、相澤の後ろにいた心操は巻き込まれて下敷きになり3人で痛みに呻いた。


「頭突きかよ…」

『うわああ…痛いぃ…』

「重い!重いんですけど!」

『先生、顎硬すぎ…おでこ血ぃ出た』

「自業自得だろうが。ちなみに血は出ていない」

「俺の上で話すのやめてもらえません…!?」

「だそうだ。どけ、東堂」

『えぇ〜…まだおでこ痛いのに』

「早く!どいてくれ!重い!」


心操に叱られ、おもむろに相澤の上から降りた梓は額をさすりつつも少し嬉しそうで、


『1発入れたので、この勝負、私たちの勝ちでしょう?』

「…どうかな、捨て身の攻撃は嫌いでね」

『ええ!?捨て身ですか、これ。トリッキーでいいと思ったんですけど』

「デコ押さえて何言ってんだお前」

「イレイザーヘッドの言う通り。今のは相打ち判定がしかるべきだと思うけど」

『ええっ心操!君は私の味方だろ!』

「味方だけども。贔屓はしない」

『贔屓してよう!甘やかしてよ!』

「うるさいなこいつ。心操、黙らせておけ」


言われた通りに心操が手で口を抑えるものだから梓はむぐっと変な声を上げる。

相澤はパッと埃を払うように服を整えると、ポカンとやりとりを見守っていた生徒たちに向き直った。


「と、まぁこんな感じだ。あそこまでやれるようになれとは言わんが、やれて損はない。ただし、東堂の真似はするなよ」


わかってると思うが、と付け加えた相澤に心操もげっそりしながら頷いていて、梓は心外だとばかりにぷんすかしている。


『ぷはっ、何故ですか!』

「諸刃の剣だから。全部が全部じゃないけど、梓の戦い方は特殊だから普通の人じゃすぐ死ぬと思う」

『えぇっ心操も一緒じゃん』

「天地レベルで違う。俺は危ない橋は渡らない。差し違えようなんて思ってないから」

『天地レベルって!私だって差し違えようなんて思ってないっての』

「どうだか」


なんだとこの、と2人が若干言い争う中、「じゃあ、今日のヒーロー基礎学はこれまで」とさっぱり授業を区切った相澤はくるっと踵を返すと、



「喧嘩するな。ま、あそこまで動きが揃うとは思わなかった。よくやったよ」


ぽん、ぽん、と梓と心操の頭に順番に手を置いて体育館からいなくなった相澤に2人で思わずほっこりする。


『褒められたっ』

「顔ゆるっゆる。ま、梓はあまり褒められなれてないからな。…げっ」

『え?』


のんびり話していたのに、どこかを見て顔を青ざめさせた心操の視線を追えば、不機嫌そうな顔をするクラスメイトや幼馴染たちがいて。
爆豪に至っては目がつり上がってキレかけており切島に止められている。


『えっ何!?怖っ!』

「お、俺もう普通科に戻るから。またね。あとはよろしく」

『えっちょっ心操なんで逃げるの』

「身の危険を感じて。それじゃ」


心操が足早に、逃げるようにいなくなった後、残された梓は訳もわからず詰め寄られる。


「組手でクソチビに負かされてどうでもいい連携見せられて胸糞わりィ1時間だわ!!クソが!!」

『何をそんなに怒ってるの!?』

「どうでもいい割にはガン見だったし俺の方がってうるさかったよな」

「るせえテープ野郎黙っとけや!!」

「心操くん、梓ちゃんに近寄りすぎじゃない?門下生とか眷属とかよくわかんないけど、僕との付き合いの方が長い訳だし、もちろん僕との連携の方がやり易いよね?だよね?」

『えっ?んー、いずっくんの動きは』

「僕との方が連携しやすいよね?間違っても心操くんだなんて言わないよね?」

『うわ、目ぇ据わってる。こわい』

「緑谷、誘導尋問はだめだ。そもそも、あいつよりもお前よりも俺の方が梓との連携は上手いんだよ。あいつよりもお前よりも俺の方が信頼されてるし。な?」

『え?』

「そうだよな?他を見んなっつってたお前が俺以外を見るはずないよな」

『だから目が怖いんだってば!ちょ、耳郎ちゃん後ろ隠れさせてっ』

「やだよ!巻き込まないで!」

「梓ちゃんと心操くん、熟年夫婦みたいで超萌えたし相澤先生の保護者感がしっくりして見てて超可愛かった」

「葉隠黙って!!」


「可愛かったよねぇ?」「ええ、とても仲がよろしいようで」と話す葉隠と八百万や、芦戸が「恋!?恋じゃない!?」と囃し立てる中、なぜか轟と幼馴染2人の機嫌が急降下するものだから、梓は訳もわからず機嫌を取ろうと四苦八苦するのだった。
_222/261
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