自傷した腕をマルコに治療してもらっていれば、イカダで漂流していた仲間が甲板に上がってきたと情報が入った。
「マルコ隊長」
「おう」
『隊長…?』
「ああ、隊長。一番隊隊長だよい。で、なんだ」
「この2人以外にオンナノコが2人、男が4人。全員子供ですぜ。混乱して1人暴れてまさァ」
「予想はしていたが、やっぱりそうなるか。よし、お前、そこのアホになってる金髪つれて甲板に行くよい」
『えっ、暴れてるんですか、すみません』
さっと青ざめた少女がうぇ〜い、とアホになっている上鳴の腕を掴んでマルコとともに甲板に戻れば、
「てめェら梓を何処にやった!?」
「わー待って待ってかっちゃん落ち着いて!暴力はまずいって!!」
「爆豪落ち着け!」
「喧嘩腰では何も解決しませんわ!梓さんも上鳴さんも無事とのことですから、ここは穏便に…!」
「ダメだ、ヤオモモ、聞こえてない」
今にも船員たちを爆破せんとばかりにキレる爆豪を緑谷と切島、轟が必死に抑えていて、白ひげはグラララと愉快そうに笑っている。
「威勢の良いガキじゃねェかァ」
「ああ゛?てめェが親玉だな…!」
1発ぶちかましてやらァ!と爆発音をたてて緑谷達を振り解いた彼に周りは「こいつも能力者!?」とざわつくが、爆豪の手が白ひげに向けられる前に横から上半身裸の男に蹴り飛ばされ、ガシャーン!と派手に酒樽の山に突っ込んだ。
「「「エース!!」」」
「「「爆豪!!」」」
エースと呼ばれた男は爆豪を蹴り飛ばした足を上げたまま「やべ、やり過ぎたかも」と苦笑いし周りに「相手子供だぞ!?手加減しろよ!!」と怒鳴られている。
対して爆豪は、周りの心配をよそに弾かれたように体を起こしてキレていて、
「いきなり何すんだコラァ!!」
「いやお前がオヤジに手ぇ出そうとするからだろ!」
「先に手ぇ出したのそっちだろうがァ!梓返せや!!」
「誰だよそれ!なんだこいつすげェ喧嘩腰!」
「バカエース、ヒートアップすんなよ。能力者っぽいけど相手ガキだぞ。あと、こいつが言ってる梓チャンってのが、さっき話した女の子な。今マルコが医務室に連れて行ってる」
「サッチ…でもよォ、」
「「「医務室!?」」」
“医務室”にいると行った瞬間、爆豪を止めていた少年たちも鋭い目つきでサッチを睨んだ。
「誰かあいつに怪我させたのか?」「さっき、梓ちゃんは無事って、言ってましたよね…?」「おいおい…もしかしてやり合わないといけねェ感じ?」と不穏な空気になり始め、周りの船員達は面倒くさいことにしやがって、と皆一様にサッチを睨んでいて、
その時だった。
『待て待て待て待て!!私元気だよ!?何にもされてないよ!』
慌てた様子で船室から出てきた梓がアホになった上鳴を連れて白ひげ海賊団と爆豪たちの間に割って入った。
「「梓!」」
「お、こいつがさっき言ってた面白ェ子か?」
「そーそー、後ろに庇った友達守るために自傷でオヤジの覇気を耐え抜いた。痺れたぜ!野郎ども、女の子の血に慣れてねェから大慌てだったけどな」
「流石のマルコも顔を引きつらせてたぞ」
先程サッチに事情を説明してもらったエースが「面白ェ嬢ちゃんだろ」と声をそろえるサッチとイゾウに思わず「思ってたよりチビだった」と素直な感想を述べていれば、片や異世界の少年たちは再会にホッと安堵している。
「無事だったのか…良かった」
「腕!包帯巻いてるけどどうかしたの!?」
「ねぇ、世界が違うとか時間軸が違うとか船乗せてくれるとかザッと事情は聞いたんだけどどういう状況?つーかなんで上鳴アホ化してんの。マジうけるんだけど」
「上鳴さんの状況を見るに、戦闘が行われたようですわね」
『ごめんこの腕は自分でやった!上鳴くんは、海の化け物に襲われた時に放電したんだけどこの人たちは助けてくれたの!私たちがものすごい怪しい登場したから警戒させてしまってちょっとギクシャクしたけど、とりあえずは大丈』
「「なんで自分で腕怪我するんだよ」」
梓の弁解に轟と爆豪は口を揃えて不機嫌そうに言葉を遮るが、まさかハモると思わず爆豪はますます眉間にシワを寄せた。
「…ハモんじゃねェよ半分野郎。つかお前状況わかってんのか。ここ、海賊船だろ。ヴィランだよヴィラン」
『…海賊船だけど助けてくれたし、私のことも守ろうとしてくれたよ。それに、略奪とか、一般の人を傷つけることはないって。この人たちは、世界政府に従わず、船長さんの信念や野望を持って自由に海を渡り冒険をしているんだって。ひとつなぎの大秘宝とやらを見つけ、海賊王になるために』
さっき治療をしてもらいながらマルコに聞いた話をそのまま伝えるが、爆豪や轟の表情は険しかった。
「その言葉を信じるのか?危なくないか」
『んん…悪い人たちでは無いと思うんだけど…。それに、この船に乗せてもらう以外に選択肢もないし』
「ルールを守らねェんなら、ヴィランと一緒だろうが」
「いいえ、爆豪さん。それはあくまでも私たちの世界での話ですわ。この世界にはこの世界のルールがありますから、私たちがこの方々をヴィランと考えることはできないでしょう」
「…確かに。実際、上鳴は助けてもらって梓は手当てしてもらってるし、ウチらも船に乗せてもらったしね。そもそも、その“世界政府”とやらが良い組織なのかもわかんないし」
『うん、海賊にも色々な人たちがいるらしいんだけど、この人たちは悪いことをするために海にいるわけではないと思うよ。根拠はないけど』
八百万、耳郎、梓に説得をされ、機嫌が悪そうではあるがとりあえず爆豪の動きが止まる。
轟も「一理あるな」と頷いていて、梓はやっと申し訳なさそうに白ひげを振り返ると、『色々とごめんなさい』とぺこりと頭を下げるが、
「納得いかねェ。ふざけんな。つかてめェどっちの味方だクソが!!」
後ろから爆発音が聞こえたかと思ったら掴みかかられた。
『うわわわわ止めてよう!どっちの味方とかじゃなくて、あんな大きな海の怪物がいるのにイカダで漂流するのは命取りだから乗せてもらう選択肢しかないじゃんかよ〜!』
「はァ!?なんだ海の怪物って!倒しゃいいだろうが!!」
『かっちゃんは見てないからわかんないんだよ!あれ上鳴くんと奴の相性が良かったから放電でどうにかなったけど結構相手するのキツイって!しかも時間軸違うから食料もない状態で数日は無理だし、このグランドラインって海域はいきなり天候変わりまくるらしいからっ』
「るせェよ訳わかんねェことグダグダ言ってんじゃェ!お前デクか!!」
「爆豪止めろよ、嫌がってるだろ」
「そうだよ。喧嘩はやめろって!異世界に来てまでこれかよ」
「かっちゃん、こ、ここは梓ちゃんの言う通りこの人たちのお言葉に甘えよう…!ほかのことは後で考えよう。ちょっと、初対面の人たちに囲まれた状態で取っ組み合いの喧嘩はやめた方が…」
「るせェデクのくせに指図すんな!!」
『いずっくんに八つ当たりしないで!かっちゃんの単細胞!みみっちい!カルシウムとれよ!』
「はァァ!?てめっ、この!爆破してやらァ!!」
『うわああああ!』
「え、何これ。こいつら超はずい」
「雄英の恥部ですわ……」
「止まれ爆豪!マジで!お願いだから!恥ずかしい!周りの人たちにすげェ笑われてる!!」
「梓は俺の後ろに隠れとけ」
『轟くん神さま』
「なんっで半分野郎の後ろに隠れんだクソが!!出てこいや!つーか最後に煽ったのこいつだろなんで俺が悪ィみてェになってんだアアン゛!?」
ガーッと怒鳴る爆豪を止めようとする切島、逃げる梓を庇う轟、耳郎と八百万は恥ずかしそうに顔を覆っていて緑谷はオロオロして上鳴は以前アホである。
そんなてんやわんやの状況に「グラララ」と笑う白ひげを始め、船員達は爆笑だった。
「アッハッハ!愉快なガキどもだねェ」
「どえらい喧嘩してらァ!」
「突然異世界から来たとか抜かすからどんな奴らかと思いや、笑えるくらい普通のガキどもじゃねェか!」
笑いが止まらないイゾウと愉快そうに目を細めるエースとラクヨウ、マルコは騒がしい状況に頭を抱えていて、
「まァ、異世界から来たって言葉を信じるしかねェが…能力者が2人もいるのはなんでかねェ…」
「電気放出してアホになる金髪と、手が爆発する金髪だろ?珍しい能力だよな。結構使い勝手が悪そうじゃねェか」
「んん、どっちもロギアかァ?いや、覇気を纏ってねェ俺の蹴りが当たったからロギアじゃねェか!」
何の能力だろうな?つーか異世界にも悪魔の実ってあんのか?とサッチとエースが頭を傾げる。
面倒ごとに嫌気が差した表情のハルタが「とりあえず聞くしかないんじゃないの」と吐き捨て、いまだてんやわんやしている少年たちにエースは声をかけた。
「なァ、お前のその手の爆発、何の実?」
「ああ゛?」
「いや、手が爆発すんだろ?そっちの金髪は電気を出すって聞いたぜ。何の実なんだ?」
「……は?実?」
本当に見当がつかないとばかり素っ頓狂な声をあげるものだから、エースはますます首を傾げる。
爆豪だけでなく、他の子供達もキョトンとしており、ふと1人の少女に目がいく。
「おい、お前…」
「は?ウチ?」
「耳、どうしたんだ!?なんだ!?それも悪魔の実か!?」
「ええ!?いや、そんなに珍しいかな…普通に個性ですけど…」
エースだけでなく全員の視線が刺さり、ざわざわと「耳たぶがやべェ」「コードになってる」「何だあれ」と噂をされ、注目され慣れていない耳郎は顔を真っ赤にすると「ふつーに個性だって!」と強めに言い放った。
「個性?なんだそれ??あ、ちなみに俺は炎人間。メラメラの実の能力者だぜ」
『炎ってことはぁ、おお、轟くんと一緒』
「お。」
「お前と一緒?へ?あれ?悪魔の実って世界に一つしかねェんじゃなかったか?」
『「ん??」』
「あの…さっきからあなたが言っている、“悪魔の実”ってなんですか?“個性”ではないんですか?」
食い違う会話にエースや梓達が混乱していれば、1人ぶつぶつと考え込んでいた緑谷がふと顔を上げてそう言った。
同じように黙って考えていたらしいマルコも「どうやらその奇怪な能力は悪魔の実じゃないようだなァ」と肩を含めていて、
「悪魔の実っつーのは、“海の悪魔の化身”と言われる超希少な果実だよい。食べた者は、特殊な能力がつく。エースが食ったのはメラメラの実、炎人間、しかもロギア系だから物理攻撃が効かねェ」
『「「物理攻撃が効かない!?」」』
「おう、ほらこの通り。ちなみにマルコも効かねェぞ。ロギアじゃねェけど」
サッチの拳打がエースの腹に入るが、体が炎となってすり抜ける。
信じられない光景に梓たちは目が点になった。
「嘘でしょ」「最強じゃねえか」「え、こっちの世界ってこんなのがゴロゴロいるの!?」「希少と仰っていましたしそれはないでしょう」と動揺が広がる。
やはり“悪魔の実”は初耳か、と反応に納得しつつマルコが「次はあんたらの番だよい。そいつらの力は、悪魔の実じゃねえんだろ」と促せば、梓たちはおずおずと目を合わせ、少しして緑谷がゆっくりと口を開いた。
「悪魔の実ではなく、個性です。俺たちの世界では人口の約8割が“個性”と呼ばれる超常能力を有して生まれています。法律で、公共の場での使用は禁じられていますけどね。その、炎人間の方の話を聞くに、“個性”は“悪魔の実”と違い、人によって制約も多く万能とは言い難いです」
「ほう、金髪の個性とやらはどんな制限があるんだい」
「上鳴くんの個性は“帯電”です。纏うだけで、コントロールできる訳じゃないし、ワット上限を越したらアホになってしまいます。かっちゃんは、手の汗がニトロの性質を持っているので発火させて爆発させる個性です。僕は、超パワー。人よりも強い力が出せます」
「ウチは、音にまつわる個性です」
「へェ…そこの金髪2人は“個性”を使ってたが、法令違反じゃねェのかい?」
「僕たちは仮免ヒーローなので、その点は大丈夫です。アッ、ヒーローっていうのは、言葉の通りなんですけど、」
訳がわかっていなさそうな彼らにヒーローについて緑谷が軽く説明すれば、「へェ〜」と感心したような声があがった。
ずっと違和感を感じていたマルコはやっと「成る程ね」と納得していて、
「つまり、テメーらの世界ではヒーローという職業があって、個性を悪用するヴィランを個性で取り締まる訳だな?んで、テメーはその卵。学校の1年生って訳か。微妙に戦い慣れてる理由がわかったよい」
「まともに戦闘訓練し初めてまだ1年で海王類を退けるなんざ、なかなか骨のある奴じゃねェか!阿呆にやってるけど」
「うぇ〜い」
「とりあえず、事情はわかった。困ってるガキをこの海に捨て置くわけにもいかねェからねぃ、オヤジも了承したし、とりあえず帰れるまでは船に乗ってもいいが、変な真似すんじゃねえぞ」
特にそこのツンツン金髪、と名指しされ、なんで俺だけ!と爆豪がキレるとまた周りに笑い声が上がった。
(とりあえず宴だァァァ!!!)
(宴ってなに!?)
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