「梓、ちょっと時間あるか」
『今から心操と稽古なんだ』
「時間あるな。アイツには今日は行かないって連絡してくれ。サポート科に一緒に行ってほしいんだが」
『あれ?私が言ったこと上手く理解できてる?ってちょっと轟くん!携帯取らないでよ!ああ!勝手に連絡した!』
「わりい」
『ぜんぜん悪いって思ってないよね!』
「あ、返事きたぞ。別にいいよ、だそうだ」
轟のめちゃくちゃな絡み方に、2人のやり取りが聞こえていた瀬呂はジュースを上鳴の顔に吹き出していた。
「ぶふっ」
「わ、汚ねっ。なんだよ!?」
「いや、悪い、つかお前、あのど天然コンビの会話聞いてた?」
「轟と梓ちゃん?いんや…」
「轟が東堂をサポート科に一緒行こうぜって誘ったけど、例の門下生くんと稽古だからって断られかけた結果、東堂の携帯奪って勝手に断りの連絡入れやがったの。平気な顔で」
「ぶっは!!マジで!?あ、だから梓ちゃんちょっとぷんぷんしてんの!?」
「おう、俺、いつか轟が東堂のストーカーになるんじゃねーかって怖いんだけど!初期ロキくんはあんなんじゃなかったよな!?”東堂か、まあまあやるな”くらいのテンションだったよな!?むしろ上鳴のほうがぐいぐいいってたよな!?」
「ははっ、俺、最近梓ちゃんに声かけようとしたら轟に何か用か?って聞かれたもん。え、お父さんですか?って思った」
「ギャハハ!!」
まさか教室内でそんな会話をされているとは思わず、梓は轟に引っ張られるようにサポート科へ向かった。
『なーに、サポート科に用事って』
「サポートアイテムの相談だ。温度上げるなら今のラジエーターじゃ無理だからな」
『ほー、え、それ私いる?』
「いるだろ。お前が1番俺の戦い方を知ってるし、相談したい」
『んー、むしろ逆でしょ。私はいつも轟くんに合わせてもらう側だからな。君が私のことをよく知ってくれてるんだよ』
「そうか?…ああ、あと、お前は戦闘に関しての発想が俺よりも優れてるから、そういう面でも頼りにしてる」
彼女は戦闘脳と揶揄されるほど、戦うことに対して天才的センスを持っている。
例え苦手分野があっても、そのあまりある天才的センスによって補い戦う彼女に何度助けられたか。
無意識レベルで戦闘に置いて道を切り開く彼女にサポートアイテムを見て欲しかった。
『サポートアイテムかぁ。私も何か考えたほうがいいかなぁ』
「……今は何か使ってないのか」
『先生が作ってくれたブーツだけ。あーでもあれはコスチュームの一部でサポートアイテムってわけじゃないか』
うーん、と顎に手を置き悩む2人は目立っていた。
「ヒーロー科1年の轟と東堂だ…」「近くで見ると迫力やべェ…でも東堂ちゃん思ってたよりも小柄だ。轟と話す時見上げてんのが超可愛い」「でも超強ェんだろ?この前だって、あの2人…バンティッド強盗団を捕縛したって」「サポートアイテムの話してる…!ヒーロー科ってやっぱすげェな」と周りがざわざわしているのに鈍感な2人は全く気づいていなかった。
サポート科に着いて、轟がパワーローダー先生にラジエーターの相談をする中、梓は研究室内を物色していた。
さまざまなサポートアイテムがならぶなか、その中で一際彼女の目を引いたのはしなやかでシンプルな弓だった。
九条が愛用している物に似てきて、思わずガン見していれば肩越しに「ふふふ」と怪しい笑いが聞こえ肩をがっと掴まれた。
『ひい!?』
「あなた!ヒーロー科の東堂梓さんではないですか!?いつかここに来てくれるのではないかと思っていましたがなかなか来ないものだからやきもきしましたよ!」
『誰!?』
「私ですか!?私は発目明!以後お見知り置きを!」
『あっ、いずっくんのサポートアイテムを開発してくれてる…』
「ええそうです!彼のサポートアイテムも私のドッ可愛いベイビーちゃんです!それで!?あなたは一体どういうご用で!?嵐の個性をどうサポートすべきか、」
『あわわわ私は付き添いです轟くん助けて!』
慌てて轟の後ろに隠れれば、彼は不思議そうにしつつも手を広げて守るような仕草をしてくれる。
発目は轟を引き剥がさんとするが、
「わりい、ビビってるみたいだから下がってくれねえか」
『ひい!轟くん神様!』
「なぜです!?あなたのような荒削りの個性はサポートとし甲斐があるというのに!」
『あわわわ』
「発目、あまりしつこく迫るんじゃないよ。彼女についてはイレイザーヘッドから聞いている」
『え?先生から?』
「ああ、他の生徒よりもサポートアイテムに頼るという概念が薄く、サポートアイテムに対しての発想も乏しいと。よく話をして色々と提案してほしいと頼まれているよ」
パワーローダーにそう言われ目を丸くした梓は相変わらず先生は気にかけてくれているのか、と内心申し訳なくなりつつ『すみません、ありがとうございます』とぺこりと頭を下げた。
「礼を言われることはしていないよ。戦闘中の困ったことや個性の副作用をサポートするのがサポートアイテムだ。何かあれば、いつでも相談に来るといい」
『……はい』
「さっきは工房を見て回っていたようだが、何か良いアイテムはあったかな?」
『あー…、いいアイテムというか、少し気になるものはありました。あの弓なんですけど』
「ああ、あれは…サポートアイテムというより普通の弓だね」
『あれを…、ブーツと同じ素材で。硬質で作ることってできますか?雷で壊れないように』
「ほう…、嵐を纏わせる第2の武器とするかね?君にとってのサポートとは、あくまで自分の攻撃力を上げるためか。いやはや、恐れ入ったよ。イレイザーが心配するのも頷ける」
『ううん…、』
あまり深く考えずに言ったが、パワーローダーは少し引いているようで梓は微妙な顔をした。
常に身一つで修行をしてきたせいでサポートアイテムに頼るという概念が希薄であることはよく相澤にも指摘されていた。
頼りすぎもいけないが、頼らなすぎも損だと。
だからといって、何をどうすれば緑谷のようにサポートアイテムと上手い付き合い方ができるか分からないのだ。
少し怖くもある。サポートアイテムに頼りきってしまう自分になってしまうのではないかと。
微妙な顔をしていれば、轟に大丈夫か?と覗き込まれ梓はハッとした。
『ん、大丈夫』
「弓の件については、イレイザーと相談しつつ色々と考えてみよう」
『あ、ありがとうございます』
「轟も、このラジエーターは来週には改良できるからまた取りにおいで」
「はい。行こう、梓」
『ん。発目さん、またね。いずっくんのこと、よろしく』
「ええ任せてください!そしてあなたも私に任されてほしいのですが!!」
『ひい追いかけてきた!轟くん逃げよ!』
ぎらん、と目を光らせ追いかけてきた発目から逃げるように、2人はバタバタと慌ただしくラボを出たのだった。
ー
「緑谷に少し聞いちゃいたが、あの人すげえな」
『う、うん…目がぎらついてた』
私も時々ギラつくって言われるけど、あんな目してるのかな…、と遠い目をするクラスメイトに轟が思わずぷっと吹き出していれば、後ろから「東堂?」と遠慮がちに声がかかり2人は一様に振り返った。
「『ん?』」
「やっぱり東堂だ!元気か!?折角同じ学校に行ったのに全然会えねェから気になってたんだよ!」
ドドドッと勢いよく走ってきた少年はキョトンとしている轟をどん、と押しのけると一気に梓への距離を詰める。
『うわぁ誰!?』
「俺だよ俺!まさか覚えてねェの!?ほら、小学校のとき隣のクラスだった林田!」
『えっ、だれ、話したことあるっけ』
「話したことはねェ!」
『話したことない人は覚えてないよ!』
あまりの勢いに思わず後ろにひっくり返りそうになっていれば、見兼ねた轟が少し眉間にシワを寄せて梓と林田の間に割って入った。
「戸惑ってるだろ、少し下がれよ」
「…は?なにお前。ああ、あの噂のエンデヴァーの息子か」
「……だから何だよ」
「親の七光りでヒーロー科に入ったヒーロー二世がヒーロー面して調子乗ってんじゃねぇぞ。そもそも、東堂と俺ァ小学校6年間同じ校舎で過ごした仲なんだよ。まだ会って一年も経ってないお前とは仲の深さが違うんだよ」
『いや喋ったことないし何その理論』
「…だそうだ。お前がどう思ってるかは知らないが、梓は覚えていないらしいぞ」
「だからお前は関係ねェって言ってんだろ!どけよ!エンデヴァーの息子だからって調子に乗りやがって…。噂じゃ仮免も落ちたって話じゃねェか。本当に親の七光りだったんだな!そんなやつがヒーロー科にいたらお荷物だろうな、東堂や爆豪が可哀想だよ」
「『……。』」
突然現れた小学校時代の梓の同級生だという林田という男は言いたい放題だった。
最初は距離の詰め方や過剰に梓に絡もうとする姿に心配になって割り込んだが、矛先が何故か自分に向いて轟は不快感を顔に表した。
が、まぁ、こんな絡まれ方は初めてではない。
それに、今は後ろに隠した相棒をこいつから引き離すのが最優先で、
と、轟が自分を落ち着かせるように一つ呼吸をした時だった。
ぐいっと後ろに引っ張られたかと思うと、いつのまにか梓が自分の前に来ていた。
『林田くんだっけ?私君のこと覚えてないけど、たった今君のことが嫌いになったよ。この人、私のだいっじな相棒だからひどいこと言わないで』
きっぱり。守るように手を広げてそう言った梓に轟は思わず後ろの壁にガンッと頭をぶつけた。
(大事な、相棒!)
「はァ?付き合いの長い俺よりそいつの方が大事なのかよ!?」
『うん!確かに君とは6年、同じ校舎にいたのかもしれないけど…、轟くんとは出会ってまだ1年経ってないけど、でもそんなの関係ないよ。私この人いなきゃ敵連合から逃げれてない』
「…っ、」
『それに、さっきから色々轟くんのこと言ってたけどさァ、轟くんは、強くて優しくて助けてくれて一緒に守ってくれる、さいっこうのヒーローなので!』
「梓、梓、もういい、十分だ」
『あれ、轟くん顔真っ赤』
もう十分だから、と半ば強引に梓の腕を掴んでその場を離れれば、林田は呆然と立ち尽くしたままついてこなかった。
彼女のどストレートなお前より轟派宣言に心が折れたのだろう。
内心どんまいと思いつつ、轟は勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。
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