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夕方、
掃除を終えた梓は共有スペースのソファにて、耳郎と切島、瀬呂とお喋りを楽しんでいた。


『えー今日勉強したこと教えてくれないの、耳郎ちゃんひどい』

「いや、ウチに言われても。明日になったら教えてあげるって。それにしてもさ、入学式はともかく始業式も出ないなんて、梓は問題児だねぇ」

『あっはっは!相澤先生にも問題児が!って睨まれた』

「今回ばっかりは、とばっちり感が強いけどなァ」

「幼馴染って羨ましいと思ってたけど、結構大変だな。昔からあいつら仲悪かったの?」

『うーん、悪かったのかなぁ。なんか複雑な関係だったんだと思う』


クッキーを食べながら思い出すように話す梓に、たしかに歪で複雑そうだ、と切島と瀬呂は苦笑する。


「この喧嘩で少しでもシンプルになるといいけどな」

『なるさ!きっといいライバルになる!だが、私はその上をいく』

「んなこと言ってっと、また爆豪にハリセンで叩かれるぞー」

『切島くん、大丈夫だよ。私のスピードで瀬呂くんを盾にする』

「やめて!出来そうだからやめて!」

「そういえばさ、今日の朝礼でハウンドドック先生が喧嘩した子がいるってめっちゃキレて人語忘れてたよ」

『エッ!?耳郎ちゃん本当!?怖い!ごめんなさい!いや、私喧嘩してないけど!』


あまりの慌てっぷりに耳郎が笑い、切島が大丈夫だって、と慰める。
しばらく他愛もない話をしていると、そういや、と思い出したように瀬呂が口を開いた。


「そういやさ、今日始業式に行く前にB組の物間に会ったんだけど、B組は仮免全員合格したらしいぜ」

『そうなんだ!すごいなぁ』

「あ、あと、B組と話してたら後ろから普通科が来てさ、なんだっけ?体育祭で緑谷と戦った…」

『心操?』

「そ!心操がいてさ、前よりゴツくなってた。もしかして、ヒーロー科への編入狙ってんじゃね?な、切島」

「いやーあり得る。あの個性、かかっちまったらやべーもんな」

「あ、そういえば梓、心操と知り合いだったよね?なんか、心操も今日キョロキョロしてあんたのこと探してたっぽいし」

「「そうなのか?」」


耳郎の一言で切島と瀬呂の視線が梓に向いた。
彼女は、そういや心操に謹慎のこと伝えてない、と少し焦りつつもこくん、と頷く。


「騎馬戦の時に洗脳されたくらいしか接点なくね?いつ仲良くなったんだ?」

「ウチも詳しくは知らない。ただ、この前普通科の人が梓に、心操と仲良いよね?って聞いてたからさ。そういや、あの後大丈夫だったの?」

『うん、全然大丈夫だった!』

「へェー…意外な交友関係だわ。東堂とあいつのタイプって真逆っぽいし」


真逆のタイプ。瀬呂の発言に切島も頷いた。
たしかに真逆だ。仲良くなりそうにないのに意外だと思った。
が、梓は笑って、


『基本は真逆、でも多分芯は一緒』


あっけらかんと言ったそれに周りは不思議そうに「へぇ」と相槌をうつのだった。

夕飯を食べた後、
梓は反省文を提出しに職員室に来ていた。


「おっ、来た来た問題児!イレイザー!お前んとこの問題児その3が来たぞォ!」

『問題児その3ってひどいやマイク先生!』

「マイク、煩ェぞ。東堂、こっちに来い」


職員室の隣の別室に案内され、
相澤の向かいに座れば、机にトンっとりんごジュースが置かれる。


「落ち着いたか」

『あっはい、昨日はすみませんでした!』

「…反省文は?」

『これです』


反省文を受け取り、ざっと目を通した相澤はほっこりした顔でりんごジュースを飲んでいる梓をちらりと見る。
ちなみに、何故りんごジュースにしたかというと、東堂家にお邪魔した時に九条が「お嬢が元気ないときはりんごやっときゃいいんだよ」と言っていたのを聞いたからである。


「…まぁ、いいだろう。明日から学業に戻れ」

『やったぁ』

「心操がわざわざ来たぞ、休みか?って」

『あっ、言うの忘れてたんですよね。先生伝えてくれました?』

「ああ、ざっとな。ため息ついてた」

『うわー…想像つく。先生、今日は、稽古場行っちゃダメですか?』

「ダメに決まってんだろ」


当たり前だがピシャリといわれ、梓はですよねぇと項垂れた。


『心操、今日は一人で鍛錬ですか』

「俺が見る」

『おお、ならいいや!捕縛布の使い方講座ですね!この前、難しすぎって嘆いてました!』

「そりゃ、俺はあれ使いこなすのに5年かかってるからな。ただ、ノウハウがあるのとないのとじゃ違う」


たしかに。相澤はゼロから習得するまでに5年。
その彼が教えるのだから、きっと心操はそれよりも早く使いこなせるようになるだろう。

職員室に戻りながら、
頑張ってフォローしなきゃ、と意気込む梓に、相澤がお前は自分のことも考えろよ、と忠告していると、前から男子生徒が歩いてきて、相澤の前で止まった。

先輩であろうその人は、ちらりと梓の方に視線を向けるがすぐに相澤に戻し、


「イレイザーヘッド、用とは?」

「ああ、天喰、忙しいのに悪いな」

「いえ。ミリオは後から来ます。波動さんも」

「イレイザーヘッド!遅れてスミマセン!…って、あれ、この子は」


ダダダッ!と勢いよく駆けてきたもう一人の生徒。
彼は相澤の前でぴたっと止まると梓に目を向け、


「君のことは知ってる!神野の時に攫われた東堂梓ちゃんだよね?」

「ミリオ…不躾な質問はするべきじゃない」

「東堂、二人はヒーロー科の3年だ」

『あっ、はじめまして。東堂梓です!』


ぺこっと頭を下げれば、元気があっていいね!と通形が笑う。


「東堂、俺は2人と話があるからここで。真っ直ぐ寮に帰れよ」

『はぁい』


彼らがなんの話をするのか気になりつつも相澤に促され、梓は後ろ髪ひかれる思いで寮に帰るのだった。

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