85衝突
どこに行ったのだろうか。少し距離をおいてしまったことで2人を見失った梓は慌て気味にキョロキョロしていた。

すると、グラウンドβの方から爆発音が響き、


(え!?ガチの喧嘩!?)


今の爆発は確実に爆豪だ。そしてあの音の大きさは本気のやつだ。
サッと顔を青ざめさせ、グラウンドβへ駆け込み、2人を見つける。

思わず駆け寄ろうとしたときに、


「俺を心配すんじゃねえ!!」


爆豪の怒声が聞いたこともないほど余裕がなくて、梓は思わず足を止めた。


「戦えよ!何なんだよ!なんで!!何でずっと後ろにいたやつの、背中を追うようになっちまった!!クソザコのてめェが力をつけて…!オールマイトに認められて…強くなってんのに!なのに、何で俺はっ」


泣き叫ぶ様な声音。
心を引き裂く様な後悔の念。


「なんで俺は…、オールマイトを、終わらせちまってんだ!!」


それは梓の心の傷も大きく開かせた。


『ッ!!』


自分がオールマイトを終わらせた。
それは梓の意識にもあった。気づいていた。
もしかしたら爆豪も同じ事を思っているかもしれないと思った。

でも、言葉に出せなかった。


「俺が強くて、敵に攫われなんかしなけりゃ、あんなことになってなかった!梓まであんな目に合うこともなかったし、あいつが死柄木に目ぇつけられることもなかった!!」


自分の名が出たことに吐きそうになる。
彼は、オールマイトの引退だけでなく梓が死柄木に狙われていることを自分のせいにしていた。


「オールマイトが秘密にしようとしてた…梓もクラスの連中には何も言わねェ…、誰にも言えなかった!考えない様にしてても…フとした瞬間に湧いて来やがる!どうすりゃいいか、わかんねんだよ!!」


ずっと抱え込んで、自分なんかよりずっと、
悩んで、考えていたのか。

梓は愕然とした。

自分が狙われていることは彼女の中で自分だけの問題だった。
てっきり、爆豪が気にしているのはオールマイトの事だけだと思ったのだ。


「梓を見る死柄木の目…あの目が頭から離れねェ…、キッカケを作ったんは俺だ!!一番守らなくちゃいけねェやつを、俺は、自分が弱いせいで!!」

『ッ、』


かっちゃんは悪くない。
かっちゃんのせいじゃない。
そう言って駆け寄りたいのに、爆豪の心の傷が思っていたよりも深く大きくて、それに動揺して梓は立ち尽くしていた。

ぶわりと涙が溢れてきた。


「やるなら全力だ…!」


緑谷が構える。
さっきまでの一方的な戦いじゃなく、全力で勝つために戦う覚悟をしたのだろう。
真正面から受け止める覚悟を。

止めるつもりで来たのに、梓はもう止めることができなかった。


幼稚園、小学校、中学、高校、
2人とずっと一緒にいて、2人の仲裁をするのは自分の役目だったのに。
この喧嘩は仲裁しちゃいけない、何となくそれを感じ取った。


全力、本気の戦いが始まる。

2人が叫び、言い争い、自分の想いをぶつける中、
涙が止まらない。
何の涙かはわからない。
辛いわけでも悲しいわけでもないはずなのに、ただ止まらなくてぐずぐずと泣きながら2人の激戦を見守る。


そして、


「敗けるかああああ!!」


爆豪の爆発する様な叫びとともに地響きがなりそうな程の攻撃で戦いは終結を迎える。


「ハァ…ハァッ…、ゲホッ、俺の、勝ちだ」


土煙が消え、地面に組み伏せられたのは緑谷だった。
咳き込み、息が荒いまま爆豪は彼を抑える腕に力を込める。


「オールマイトの力…、そんな力ァ持っても、自分のもんにしても………俺に敗けてんじゃねぇか。なァ、なんで敗けとんだ」


そして、勝敗が決まり静けさが戻り、


『ひっ…ぐすっ、う…』

「「!?」」


聞こえた泣き声に爆豪と緑谷はハッとして歩道を見た。
そこには見たこともないほど泣きじゃくったもう1人の幼馴染がいて、驚愕してパニックになった。


「はっ…!?」

「エッ…、あ、」


彼女は喧嘩を嫌っていつも仲裁をする。
泣いているのは派手な喧嘩をしたからだろうか、と慌てて爆豪は緑谷から退くが、それでも梓の涙は止まらず、


『ごっ、ごめんなさいぃぃ…!!』

「「何が!?」」

『私が、余計なことして…目ぇつけられたし、かっちゃんも守れなかったし…!あの、オールマイト先生も、終わらせたし…!!かっちゃんが悩んでた元凶私だったぁぁああうわぁぁん』

「ッ、梓は悪くねェだろ…!つか、聞いてたんか…お前」

「梓ちゃんも、そんなこと思ってたの…」

『うっうん…、オールマイト先生終わらせたから…、すぐにでも、東堂の役目をって、考えて、でも、かっちゃんのことちゃんと、考えてなくて…。こんなに悩んでたのに、』


しゃくりあげる様に泣く梓を2人は見ていられなかった。
高校に入るまで彼女が泣くところなど見たことなかったのに今年に入って3回目である。

まだ耐性は出来ていない。

慌てて爆豪は駆け寄ると心配そうに眉を下げ、梓の顔を覗き込む。


「梓…」

『かっちゃん…、』


ぼろぼろと涙が溢れ、止まらない。
彼の心配そうな目を見ると、ずっと心に抱えていた思いが溢れる。心に抱えて、もう誰にも漏らすまいと閉じ込めた思い。

彼女はぎゅうっと爆豪の腕を掴むと、


『あの時、怖くてたまらなかった…、かっちゃん死んだら、どうしようって…、みんなのところに帰れなかったら、って』

「!」


怖い、と弱音を吐いた梓に2人は愕然とした。
ここまで明確な弱音を彼女が吐いたことがあっただろうか。


『次の日、先生に話して、もう、弱音はかないって…、決めたのに!うう…』


梓はぐずぐずと情けなく泣き続ける。
その姿がとても頼りなくて、華奢で、こんなに儚かっただろうか、弱かっただろうか、と緑谷は泣きそうに顔を歪めた。
ここまで本音をさらけ出した彼女を初めて見た。

爆豪の叫びは、同時に梓の心の鍵も外してしまっていた。


『自分のことばっかで…、かっちゃんがこんな抱えてるって…知らなかった…、オールマイト先生の引退による一族への影響とか…自分の使命とか、そんなんばっかり考えちゃって…』


と、その時。


「三人共、悪いが聞かせてもらったよ…」


オールマイトが現れた。


「オール…」

「マイト…」

『ぐすん…』

「爆豪少年、東堂少女、気づいてやれなくてごめん」


泣き止まない梓の隣で爆豪はオールマイトから視線を外す様に下を向く。


「…何でデクだ。ヘドロん時からなんだろ…?なんでこいつだった」

『何の話ぃぃ…』

「梓ちゃん、あとで君にも話すよ。とりあえず鼻水ふこ」

「爆豪少年、緑谷少年は非力で…誰よりヒーローだった。君と東堂少女は、強い子だと思った。すでに土俵に立つ君や、東堂を背負う彼女じゃなく、彼を土俵に立たせるべきだと判断した」

「俺だって…梓だって、弱ェよ…。あんたみてえな強えやつになろうって思ってきたのに!弱ェから…!!あんたをそんな姿に!!」

「これは君達のせいじゃない。どの道限界は近かった…。こうなることは決まっていたよ。君達は強い…ただね、その強さに私がかまけた…。抱え込ませてしまった」


オールマイトは梓と爆豪の手を引っ張ると、抱き寄せる。


「すまない、君たちも、子供なのに」


爆豪に振り払われるがオールマイトは続けた。


「長いことヒーローやってきて思うんだよ。爆豪少年のように勝利に拘るのも、緑谷少年のように困っている人を助けたいと思うのも、東堂少女のように全部守りたいと思うのも、どれが欠けていてもヒーローとして自分の正義を貫くことはできないと」

「「……」」

『うっ…ひっく、』

「緑谷少年が爆豪少年の力に憧れたように、爆豪少年が緑谷少年の心を畏れたように…気持ちをさらけ出した今ならもう…わかってるんじゃないかな。互いに認め合い、まっとうに高め合うことができれば、救けて勝つ、勝って救ける、そして全てを守る最高のヒーローになれるんだ」

『おえっ…』


泣きすぎて吐きかけている梓の背中を慌ててオールマイトが摩る中、緑谷と爆豪は静かに目を合わせていた。
が、すぐにそらすと、爆豪はドサっと腰を下ろし、立てた膝に顔を埋めた。


「……そんなん、聞きてえ訳じゃねンだよ…、つか梓、泣き過ぎだろ…」

『うっ…げほっ、ごめん…』

「何泣いとんだ…お前15年ずっと溜めてたんか…」

『そうかもしれないぃぃ…、』

「ったく…、小分けに泣けや、心臓に悪ィんだよ…。あと、デク、1番強ェ人にレール敷いてもらって、敗けてんなよ」

「……強くなるよ、君に勝てるよう。梓ちゃんの隣に並べるよう」

「ハァ…、デクとあんたの関係知ってんのは?」

「リカバリーガールと、校長…。生徒では、君だけだ。この状態だし、東堂少女も感づいているとは思うが」


爆豪に話すのであればきっと緑谷は梓にも話すだろう。ちらりと彼に視線を向ければ、申し訳なさそうに頷いていて。
爆豪もそれは当然だと思っているようだった、


「バレたくねェんだろ、オールマイト。あんたが隠そうとしてたからどいつにも言わねえよ。クソデクみたいにバラしたりはしねえ。ここだけの秘密だ」

「秘密は、本来私が頭を下げてお願いすること。どこまでも気を遣わせてしまってすまない…」

「遣ってねえよ。言いふらすリスクとデメリットがデケェだけだ」

「こうなった以上は爆豪少年と東堂少女にも納得いく説明がいる。それが筋だ」


そして
オールマイトは爆豪と梓に話した。

巨悪に立ち向かうため、代々受け継がれてきた力ということ。
その力でナンバー1ヒーロー、平和の象徴となったこと。
傷を負い、限界を迎えていたこと。

そして、緑谷という後継を選んだこと。


「暴かれりゃ力の所在やらで混乱するって…ことか。っとに…何でバラしてんだ、クソデク」

『いっ、いずっくん…も、大変だったんだ…う、ひっく、』

「こいつがギャン泣きしてんのもお前のせいだクソデクが」

「私が力尽きたのは私の選択だ。さっきも言ったが、君たちの責任じゃないよ」

「……結局、俺のやることは変わんねえや。梓もだろ」

『う、んっ…全部守る…!』

「ただ、今までとは違え。デク、俺も全部俺のモンにして上へ行く。選ばれた、お前よりもな。んで、梓…、体育祭での約束通り、お前が守りてーもん全部一緒に守ってやるから」

「じゃっ…じゃあ、僕はその上をいく。行かなきゃいけないんだ…!梓ちゃんのことも守る!」

「……だから、そのてめェを超えてくっつってんだろが」

「いや、だからその上を行かないといけないって話で…」

「ああ゛!?」

『うっ…ひっく、』

「心臓に悪ィからそろそろ泣き止めや!」


緑谷とオールマイトの秘密が、4人の秘密になった。
そして、大団円虚しく、3人ともオールマイトによって相澤の元へ連行された。


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